織田作之助青春賞
「織田作之助青春賞」に文芸学科4年の高橋菜々実さん
12月1日、2025年「織田作之助青春賞」が発表され、文芸学科4年の高橋菜々実さんの小説「なきがら」が選ばれた。同賞は、織田作之助が初めて懸賞小説に応募した24歳までの若手を対象にした短編小説賞で、本年度の応募総数は285。受賞作は、2026年1月発行予定の『三田文学2026年冬季号』(三田文学会発行)に全文が掲載される。贈呈式は、3月4日(水)、大阪市中央区の綿業会館で行われる予定。
本学出身者で初の受賞となった高橋さんに現在の心境などをきいた。
――大学在学中の受賞となりました。今の心境は?
正直、未だに感情が全く動いていないです。だからまだ感想と呼べるものは私の中にはありません。受賞の知らせを聞いたときも、「ああ、そうなんですか」という感じで、妙に冷静でした。まだ実感がわいていないから感情が動かないのか、自分でもよく分かりません。受賞して、文芸学科の先生方からお祝いの言葉を頂いたりして、それ自体は凄く嬉しいのですが、個人的な感情はずっと平静なままです。
――受賞作「なきがら」はどんな作品なのですか?
「なきがら」は、小学生の女の子が下校途中に犬の死体を見つけ、そしてそこに同級生の男の子が現れて……というような内容の話です。私は純文学が好きなので、純文学テイストが強めの作風にしました。私は子どもの頃から、大人や学校の先生に対して、不信感や怒りを持っていたのですが、「なきがら」にはその怒りがそのまま反映されていると思います。
――好きな作家や作品を教えてください。
中上健次が特に好きです。とにかく、文体がかっこいい。短く切り込んでくるようなドライな文体で、無駄なものが極限まで削ぎ落とされているのに、それでいて描写が足りないとは感じさせない。ディテールまでしっかり描かれているのに、無駄がない。私はどうしても文章に無駄なものをくっつけてしまいがちなので、中上の文体には憧れがあります。中上の作品で特に好きなのは「浄徳寺ツアー」と「十九歳の地図」です。
綿矢りささんの「蹴りたい背中」も凄く好きです。「蹴りたい背中」は、私が純文学を好きになるきっかけになった、思い入れのある作品です。冒頭の「さびしさは鳴る。」という一文で持っていかれて、読み終わったあと、「すごいものを読んでしまった」と思いました。今でも大好きな作品です。
――文芸学科での学びについては?
当たり前ですが、芸大の文芸学科に入ってから、自分の文章と深く向き合う時間が増えました。そうすると、自分の文章の癖や個性のようなものが自分でも分かってきて、少しずつですが、自分の文体をしっかりと乗りこなせるようになりました。それが自分の中で一番大きかったと思います。芸大に入る前は、自分がどのような文章を書く人間なのかが自分でも分かっていなかったのですが、芸大に入り、それまでとは比べ物にならないほど深く文章というものに向き合うことで、自分の書く文章を初めて自分で理解できるようになったのではと思います。
――将来の夢は?
現時点で夢と呼べるようなものは特にないのですが、強いて言うなら、これから先もずっと小説を書き続けることが夢ですかね。
ゼミ担当教授 玄月先生のコメント
高橋さんの原稿を初めて読んだのは、私のゼミに入った3回生の4月。「読み手への不必要な親切」とも言える余分な文章が目についたが、この人は確固たる「型」を持っているとわかった。書きたいことが明確に伝わってきた。揺るぎようのない信念のようなものが。芸術においてそれは、最大の長所である。贅肉をそぎ落として、その長所を伸ばすことだけ考えたらいい、というような助言をしたと思う。そしてたゆまず書き続けて、結果を出した。受賞、おめでとう。