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Rhizomatiks公演後、ハンズオンを実施してテクノロジーの裏側を特別公開 Rhizomatiks公演後、ハンズオンを実施してテクノロジーの裏側を特別公開

アートサイエンス学科
2022/12/15

2022年10月21日・22日の2日間、COOL JAPAN PARK OSAKA WWホールで、Rhizomatiks × ELEVENPLAY × Kyle McDonald「discrete figures 2022version」が上演されました。22日の公演後には、アートサイエンス学科1・2年生の学生を対象に、アートサイエンス学科 客員教授 真鍋大度先生によるステージの裏側解説とハンズオンが実施。通常ではなかなか見ることのできないRhizomatiksのテクノロジーのバックステージが惜しみなく披露され、学生たちにとって唯一無二の経験となる特別授業となりました。

discrete figuresが3年ぶりにスペシャルエディションとして再演

discrete figuresは、AIや機械学習などを駆使し、数学的かつ集合知的な方法を通して身体のムーブメントをつくり出すダンスパフォーマンスです。2018年に発表後、アメリカやスペイン、カナダ、ベルギー、ドイツ、オランダなど世界各国から招聘を受け、ワールドツアーを実施。札幌、東京を含む全7カ国10都市を巡回し、各地で多くの観客を魅了してきました。2019年には、第22回文化庁メディア芸術祭アート部門において優秀賞を受賞。本公演は、2022年度よりRhizomatiks 真鍋大度氏が大阪芸術大学アートサイエンス学科 客員教授に就任したことを機に、大阪芸術大学アートサイエンス学科が主催となり、大阪府・大阪市・大阪文化芸術創出事業実行委員会の共催のもと開催されました。

AIや機械学習が生み出すダンス表現の軌跡

パフォーミングアーツとしてのダンス表現を、インスタレーションやメディアアートの視点からのアプローチにより、斬新な発想と完成度の高さによって世界的に注目されてきたdiscrete figures。リアルなダンサーと舞台上のスクリーンに出現するバーチャルなダンサーによるパフォーマンスが見どころです。AIダンサーの動きに合わせて人間が踊る、最終的な振り付けはプログラムに設定されていますが、そこに至るまでのダンスはAIが独自に生成。マーカーレスモーションキャプチャーによる姿勢推定や、フォトグラメトリーを使用したグラフィック生成を通して生まれたAIダンサーの踊りは、スクリーンの向こうの世界と、現実世界を交差させ、観衆の感覚を揺さぶります。

振り付けを手がけたのは、ダンスカンパニー「ELEVENPLAY」主宰のMIKIKO氏です。PerfumeやBABYMETALの振付・ライブ演出をはじめ、MV・CM・舞台などの振付を行い、新しいテクノロジーをエンターテインメントに昇華させる技術を持つ演出家として、ジャンルを超え様々なクリエーターとコラボレーションしています。

本公演では、ダンサーが頭部にカメラを装着することで、ダンサー視点の映像がスクリーンに映し出され、バーチャルのダンサーがリアルに感じられることに加え、ダンサーの動きのデータを活用して舞台上を飛行する小型ドローンを用いた演出など、斬新なアイデアと最新技術が目白押しです。また、ダンサーを乗せて自動制御で動くモビリティーデバイスの台車や、赤外線LEDが内蔵されたフレームなど、独自制作された舞台装置など、ステージに登場するオブジェクトにも目を見張るものがあります。

discrete figuresは、数学・テクノロジー・身体表現を組み合わせて、未知のダンス表現と空間構造をつくり出し、これまで実現されたことのない未来的なアート作品です。観客はリアルとバーチャルを両方感じながら、異空間へとトリップさせられるような感覚に陥ります。

Rhizomatiksの制作メンバーが、
通常では決して見られないステージの裏側を解説

公演直後に行われた特別実習では、真鍋先生をはじめ、テクニカルディレクター/ハードウェアエンジニアの石橋素氏、ソフトウェアエンジニアの花井裕也氏、プロジェクションマネージメントを担当している石川紗季氏らが登壇。本作を手がけた制作チームのメンバーから直々にクリエーションについて学ぶ時間が設けられました。

客席の後方に設けられたオペブースと呼ばれる場所で、真鍋先生が2台のコンピュータの画面を共有し、使用されているソフトの詳細や、ステージの本番中にどのような操作が行われているかを解説。本番中は、真鍋先生が音楽や照明、台車やドローンの制御など全てを手がけています。

また、ステージ上の天井に設置されている36台のセンサリングカメラや、LED、ドローン、独自開発された台車やフレームなどの機材が紹介され、学生たちは、そのオブジェクトを間近で見ることができ、手に触れる機会も設けられました。石橋氏からは、台車やフレーム、ドローンのオペレーションについて詳しく語られ、実際にドローンを飛ばす場面も見られました。

そして、花井氏はプロジェクションマッピングやARシステムについて解説。ステージ上でダンサーの姿を追うGoProの映像を見せながら、どのようにダンサーの動きとモーションキャプチャーシステムの座標系がぴったり合うように合成しているのかなどを説明しました。高額なセンサリングカメラを使用したステージの仕組みなど、舞台の裏側や制作過程が惜しみなく披露され、学生たちは、公演後にテクノロジーとダンスがどう関わり、ステージが作り上げられるのか知見を深めることができ、大変貴重な体験ができました。

普段は非公開のバックステージで 学生が各自のPCでモーションキャプチャーシステム生成を体験

discrete figuresではモーションキャプチャーと呼ばれるシステムを用いて身体の動きをデジタルデータに変換し、映像やドローンをコントロールしています。その仕組みを実際に理解、体験するためにモーションキャプチャーのデータを用いて映像をコントロールし、生成するハンズオンが実施されました。マーカーを持って動くことで生成されるモーションキャプチャーデータを、各学生が持参したPCでWi-Fi経由で受信し、各自Processing(プロセシング)というソフト上で映像をコントロールして生成する実習が行われました。

Perfumeの映像演出や、世界的に活躍するアーティストのビョーク、スクエアプッシャー、狂言師・野村萬斎や研究者とのコラボレーションを手がけるRhizomatiksの真鍋先生ら一流のアーティストによる特別授業は、参加した学生たちにとって、かけがえのない時間となりました。

アートサイエンス学科 客員教授
真鍋 大度 先生

今回、とても良いシアターで公演を行うことができました。日本は海外と比べてスタッフがすごく優秀なため、とてもやりやすくクオリティの高い状態で見てもらうことができたので、個人的には満足度の高い公演になりました。ツアーとなるとスタッフの数を減らしたいという点もありますが、特に音楽と照明は一緒に作った方が微調整や同期がしやすく自身で完結できるため、公演中は、本来なら3〜4人で行うような操作を1人でやっています。プロジェクトによっては映像のプログラムも自ら手がけます。
同じハードやソフト、ツールを使っても絶対に同じ作品は作れないので、そういった意味での自信があるからかもしれませんが、公演の舞台裏やどのような技術を組み合わせているのかを説明したりするのは全く問題ないと思い、常にオープンにしています。
ハンズオン実習を行うにあたり考えたことは、自分が大学生の時と比べて今の学生たちは全く環境が異なり、学びたいことなど先生に聞かなくてもインターネットで検索でき、調べたいことがあれば比較的手軽に情報を集めることができる中、何をすべきなのかという点です。
今回は特別なセッションだったので、いきなり答えを教えてしまったという感じになってしまいましたね。学生たちは、知りたい情報が手に入りやすい時代だからこそ、興味の対象がすごく増えてしまうので、何をやらないかということをしっかり考えながら、クリエイターやアーティストとしての戦略を練っていく必要があると思います。何でもやれてしまう環境にあることで、結局得意なことが1つもないという状況になりかねません。クリエイターをめざすのであれば、誰にも負けないクラフト的というか職人芸みたいなスキルを1つは身につけると良いですね。私自身、それがあったから長く活動できている部分もあると思います。私たちは専門家集団なので、公演直後に解説を聞いてもらうことによってその技術を垣間見てもらえたのではないでしょうか。今回大学でプロジェクトを発表するのは初めてだったためアウトプットだけを発表した感じになりましたが、今後は研究開発をベースにした表現の探究など、そういったプロジェクトを立ち上げられたら良いなと思っています。

ライゾマティクス テクニカルディレクター/ハードウェアエンジニア
石橋 素 氏

パフォーマンスを鑑賞した後に舞台裏やシステムを見るという機会は滅多にないことだと思うので、学生の皆さんがハンズオン実習を楽しみながら学んでくれたのであればうれしいです。ソフトウェアの画面やパフォーマンスを映像で見せて解説する授業はたくさん行われていると思いますが、現場で実際に動いているものを生で見たり、手に触れたりすることが大切だと改めて感じました。舞台で使用している台車やフレーム、ドローンなどを間近で見てもらい、仕組みの詳細を説明するというのは普段行わないので、皆さんの反応が新鮮でした。
完成したステージだけを見ると、どのような仕組みになっているのだろうと、ある種、手品な的な面白さがあり、同じようなものは到底できないと思うかもしれません。しかし、バックヤードを見てもらうことで、私たちが行っていることは学生の皆さんが取り組んでいることとそうかけ離れたことではないと感じてもらえたのではいでしょうか。今後クリエイティブ活動などを行っていくのであれば、皆さんには自分たちがやっていることをコツコツ積み重ねていくことが新たなアイデアや表現に結びつくと信じて頑張っていってほしいです。もちろん、たくさん学習することや鍛練は必要ですが、今日観たものは決して遠い世界の話ではなく、今やっていることと地続きでつながっていることなのです。

演出振付家/ダンスカンパニー「ELEVENPLAY」主宰
MIKIKO 氏

discrete figuresは「数学×身体」というコンセプトで、テーマ的にはすごく難しい取り組みでしたが、人間の営みの過程と重ね合わせるように、点から線になり、線から図形になり、図形からフィルムになり、最終的にはドローンにダンサーの肉体の動きを映像としてレコーディングしてダンサーがそのデータと一緒に踊るという表現の中で、これまでの私の活動を整理していくような作品になったと感じています。難しいながらも、制作しながら謎が解けていくような経験ができました。
毎公演、音が変わったり、機材の動きが変わったりしてアップデートしているので、ダンサーは大変だと思いますが、研究という感じで取り組んでいます。
演出家としては、目の前の出来事の感動を生み出すことが仕事だと思っているので、学生たちが、もし公演を見て感動してくれたのであれば、どういう気持ちになったのかを覚えておき、今後自分が制作する作品に対してその気持ちを感じられるか、または上回れるかという感覚を研ぎ澄ませてほしいです。真鍋さんや石橋さんをはじめ、Rhizomatiksのチームの皆さんはすごく技術があり聡明ですばらしいプログラマーであると同時に、そういった感覚が優れているからこそ、このような作品に仕上がるのだと思います。どうしたら自分の心が動くのか常に耳を傾けておくことが大切なのではないでしょうか。

アートサイエンス学科 2年
大川 ひなた さん

Rhizomatiksについては、以前から授業の中で何度も出てきており、動画を見る機会もあり、ダンスと新しい技術を駆使したアートを目にしてかっこいいなと思っていました。今回は、ハンズオン実習でその技術を身近に教えてもらえるということで、貴重な機会だと思い参加しました。
パフォーマンスの上演中は、どこにプロジェクターやカメラがあるのかという視点から舞台を見ている自分に少し驚きました。どのような仕組みになっているのか見逃さないよう瞬きをしないように鑑賞していました。
ARによるダンサーとリアルのダンサーが一緒にダンスする演出がすごく印象的で、臨場感があるように見えるのがすばらしくて、影の演出にこだわっているのも感じました。ARを通してもリアルに見えるように影をしっかりプロジェクターで映し、影とARがあることで、実際の人間と違いがないように感じさせるなど、上からプロジェクターで投影するなど細部までこだわりが見えました。
舞台裏の解説では、分からないことも多かったけれど、意外にも、普段授業でやっていることが発展していったらできるようになるのではないかと思いました。現在大学で、こういった大きな舞台につながる基礎中の基礎を学んでいるのだということが実感できました。真鍋先生はカリスマ的なすごい方なのに、フランクに教えてくれて距離がすごく近かったのがうれしかったです。

アートサイエンス学科 2年
鈴木 敬太 さん

大学に入る前からRhizomatiksのことは知っていましたが、これまで公演などを見たことがなく、今回は公演を鑑賞した後に、舞台の裏側や技術を教えてもらえるということで興味を持ち参加しました。映像と音の関わり方がすごいことに加え、まさに生身のダンサーとテクノロジーの連携というか、見どころが多くて素晴らしかったと思います。公演の中で特に印象に残っているのは、カメラを持った人が登場して実際には出てないエフェクトが出た映像がスクリーンに映し出され、どちらも見ることができるという演出です。ダンサーの動きとエフェクトがマッチしている映像が眺められるのがすごいと思いました。
特別実習では、想像していたよりも行われていることは単純で、その単純なシステムがすごくたくさん組み合わさってできているのだと知ることができました。これまでの学習でところどころ分かる部分があり、それらを職人的な技とアイデアでうまく組み合わせているのだと感じました。
プロジェクションマッピングの制作経験はあるのですが、自分が制作する時は1つの技術で何かするということしか頭にありませんでした。公演を鑑賞して特別実習に参加したことで、さまざまな技術を組み合わせることによって新しいものができるという考え方に気付かされました。今ある技術でも、組み合わせ次第で異なるものになったりするので、そういったことを考えながら今後の制作に取り組みたいと思います。

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