――大学在学中の受賞となりました。今の心境は?
正直、未だに感情が全く動いていないです。だからまだ感想と呼べるものは私の中にはありません。受賞の知らせを聞いたときも、「ああ、そうなんですか」という感じで、妙に冷静でした。まだ実感がわいていないから感情が動かないのか、自分でもよく分かりません。受賞して、文芸学科の先生方からお祝いの言葉を頂いたりして、それ自体は凄く嬉しいのですが、個人的な感情はずっと平静なままです。
――受賞作「なきがら」はどんな作品なのですか?
「なきがら」は、小学生の女の子が下校途中に犬の死体を見つけ、そしてそこに同級生の男の子が現れて……というような内容の話です。私は純文学が好きなので、純文学テイストが強めの作風にしました。私は子どもの頃から、大人や学校の先生に対して、不信感や怒りを持っていたのですが、「なきがら」にはその怒りがそのまま反映されていると思います。
――好きな作家や作品を教えてください。
中上健次が特に好きです。とにかく、文体がかっこいい。短く切り込んでくるようなドライな文体で、無駄なものが極限まで削ぎ落とされているのに、それでいて描写が足りないとは感じさせない。ディテールまでしっかり描かれているのに、無駄がない。私はどうしても文章に無駄なものをくっつけてしまいがちなので、中上の文体には憧れがあります。中上の作品で特に好きなのは「浄徳寺ツアー」と「十九歳の地図」です。
綿矢りささんの「蹴りたい背中」も凄く好きです。「蹴りたい背中」は、私が純文学を好きになるきっかけになった、思い入れのある作品です。冒頭の「さびしさは鳴る。」という一文で持っていかれて、読み終わったあと、「すごいものを読んでしまった」と思いました。今でも大好きな作品です。
――文芸学科での学びについては?
当たり前ですが、芸大の文芸学科に入ってから、自分の文章と深く向き合う時間が増えました。そうすると、自分の文章の癖や個性のようなものが自分でも分かってきて、少しずつですが、自分の文体をしっかりと乗りこなせるようになりました。それが自分の中で一番大きかったと思います。芸大に入る前は、自分がどのような文章を書く人間なのかが自分でも分かっていなかったのですが、芸大に入り、それまでとは比べ物にならないほど深く文章というものに向き合うことで、自分の書く文章を初めて自分で理解できるようになったのではと思います。
――将来の夢は?
現時点で夢と呼べるようなものは特にないのですが、強いて言うなら、これから先もずっと小説を書き続けることが夢ですかね。