ハリウッド映画を支えるレジェンドから「オートメーション」を学ぶ ハリウッド映画を支えるレジェンドから「オートメーション」を学ぶ
専用ソフトでプログラミングし、コンピュータ制御でステージや映像のセットや人を動かす「オートメーション」。2026年9月3日、その世界的な第一人者として知られるスコット・フィッシャー氏による特別講義が行われました。ハリウッド映画のスタント撮影の実例をもとに、迫力ある映像の裏側でどのような設計や安全管理が行われているかを学ぶ、極めて貴重な機会となりました。
スコット・フィッシャー氏は、舞台や映画をはじめ幅広い現場で使われているオートメーションシステム「Navigator」の開発者。『スーパーマン』『マトリックス』ほか数々の大作映画でスタント撮影を手がけ、この分野のレジェンドと称されています。今回の来校は、舞台芸術学科でオートメーション教育を担当する客員准教授の小林由佳先生が、シルク・ドゥ・ソレイユ在籍中にフィッシャー氏から直接指導を受けていたことから実現しました。
Vテック・ラボの巨大画面で迫力映像の裏側を紹介
会場は、2025年に開設された映像学科のVテック・ラボ。横7.5m×縦2.5mの巨大LEDウォールに、ワイヤーやウインチの配置図、3DCGによるシミュレーション、実際の撮影映像、完成した映画のワンシーンなどを映し出しながら、フィッシャー氏が映画制作の舞台裏を紹介しました。
取り上げられたのは、『アンチャーテッド』『スーパーガール』『スーパーマン』『マトリックス レザレクションズ』の4作品です。『アンチャーテッド』では、車に衝突して人物が飛ばされるシーンを例に、どのようにワイヤーとウインチを配置し、動きを制御しているか解説。『スーパーガール』では、子どもを抱えて窓から飛び出し、壁に何度もぶつかりながら屋上へ着地するアクション、『スーパーマン』では、地下鉄トンネルや野球場での戦闘シーンの撮影方法が示されました。
『マトリックス レザレクションズ』では、150mの高層ビルから主演俳優2人が飛び降りるシーンを紹介。実際の撮影に入る前に20m級のテスト施設を設置するなど、シミュレーションとリスク検証を重ねて実写にのぞんだといいます。迫力あふれる完成映像が出来上がるまでに、これほど高い技術と入念な準備があったことを知り、学生たちからは驚きの声が上がりました。
さまざまな世界の現場を支えるオートメーション技術
フィッシャー氏は、安全性や問題対応の重要性を強調。映画の撮影では、まず監督からストーリーボードをもとに「どんな映像を撮りたいのか」を聞き、そのイメージをもとに、セットの構造やワイヤーの位置、人物の軌道、動くタイミングなどを具体的に設計します。さらに、機材トラブルなど万一の事態を想定し、複数の安全対策を組み込んでいきます。
Navigatorは映画やエンタメの世界だけでなく、NASAやアメリカ空軍、NASCARなどでも使われ、さまざまな状況を再現するシミュレーションにも活用されているとのこと。学生からは、AIとの関係や今後の技術の進化、海や空での撮影の可能性など、次々と質問が寄せられました。
学内施設の見学で新しいアイデアが続々誕生
講義後には、映像学科の福本隆司教授の案内で学内施設を見学。映画館や機材庫、スタジオなどを巡りながら、フィッシャー氏は「ここでは、人ではなくカメラを飛ばす撮影ができる」「クラッシュできる壁を作ったら面白い」など、現場を知るプロならではのアイデアを次々に披露しました。
さらに、フィッシャー氏は舞台芸術学科のオートメーション演習にも参加。学生たちのプログラミング相談に直接応じ、実際の授業も親身にサポートしました。何を実現したいのかを読み取り、動きを設計し、リスクを考え、問題が起きれば解決していく。そうしたオートメーションの一連の仕事を、世界の第一線で活躍するレジェンドから直接学ぶ、刺激に満ちた一日となりました。
今回スコットさんに直接学生たちを指導していただけたことは、本当に大きな意味がありました。私はシルク・ドゥ・ソレイユでスコットさんからオートメーションを学びましたが、非常に厳しい環境で、そこで身につけた技術や考え方が、今の仕事の土台になっています。
オートメーションは、常にアップデートされていく技術です。現場では、ソフトウェアのバグや機材の問題など、想定外のことが必ず起こります。だからこそ、単に操作を覚えるだけではなく、「何が起きても最後までやり切る」という姿勢が欠かせません。スコットさんが伝えてくださった安全管理や問題対応の話は、現場でしか得られない学びで、学生たちにとって大きな財産になったと思います。
私自身、学生時代は決して優等生ではありませんでした。それでも「絶対に負けない」という気持ちで食らいついてきたからこそ、今こうして母校で後進を指導することができています。学生たちにも、最初から無理だと決めつけず、まずは挑戦してほしいですね。
今回の講義をきっかけに、舞台芸術だけでなく映像の分野にも学びを広げられる可能性を強く感じました。異なるジャンルの技術や知識、発想が交わることで、学生たちにさらなる新しい表現を切り拓いてほしいと思っています。
今回は、他学科のゲストを招いての初めての特別講義でした。ハリウッドの最前線で活躍するスコットさんに、この場所で講義をしていただけて光栄に思います。Vテック・ラボで実施している演習では、撮影前に最終的な映像イメージを視覚化する「プリビズ」に力を入れています。これはスタッフやキャストが同じ完成イメージを共有しながら制作を進めるための、現代の映像づくりに欠かせない作業です。今後はバーチャルプロダクションやモーションキャプチャなど、世界標準の技術も段階的に学んでいく予定です。
今回の講義を聞いて、オートメーションの考え方と映像制作のプロセスには共通する部分が多いと感じました。実際に動かす前に「何をしたいのか」を明確にし、セットや機材の配置、人物やカメラの動きをシミュレーションする。これはまさにVテック・ラボで取り組む映像制作の発想そのものです。
これを機に、舞台芸術学科のオートメーションと映像学科の専門性を組み合わせた制作にも取り組んでみたいと考えています。「こういう角度で撮りたい」という映像側の要望を、オートメーションのチームが「動き」として実現する。そんなコラボレーションができれば、より面白いものが生まれ、学生にとっても非常に有意義な経験になるはずです。
スコットさんの特別講義は、とても刺激的でした。特に印象に残ったのは、映画のスタントが完成するまでに、細かな動きやタイミングを何度も検証していたことです。『スーパーガール』などの映像を見て、これまでCGだと思っていたようなアクションにも、オートメーション技術が使われていると知り、映画の見方が大きく変わりました。これから映画を見るときには、「この動きはどうやって実現したのだろう」と考えながら見るようになると思います。
オートメーションは舞台や映画だけでなく、身近な機械の動きからNASAの実験まで、思いがけない分野で役立っていることにも驚きました。今後さらに需要が高まる技術を、実際に現場で使われている「Navigator」で学べるのは、大阪芸大ならではだと思います。プログラムを組むのは簡単ではありませんが、自分の意図した通りに機械が動いた時には、難しさ以上に面白さややりがいを感じます。
私は舞台芸術学科で演出を学び、リアル脱出ゲームの制作会社への就職が決まっています。卒業前にこうした技術にふれられたことは、これから現場に出るにあたって大きな経験になりました。舞台の表側と裏側を知るだけでなく、動きを支える技術まで学べたことを、今後の仕事にも生かしていきたいです。