本サイトはInternet Explorerには対応しておりません。Chrome または Edge などのブラウザでご覧ください。
Topics

UR都市機構との協働アートプロジェクト「うみかぜ団地2022」 UR都市機構との協働アートプロジェクト「うみかぜ団地2022」

芸術計画学科 / 産官学連携
2022/12/15

芸術計画学科とUR都市機構(独立行政法人都市再生機構)が毎年取り組んでいる産学連携アートプロジェクト。2022年度は前年度に続き、大阪府阪南市のUR泉南尾崎団地を舞台にした「うみかぜ団地」プロジェクトを展開しました。

今回はコロナ禍による行動制限が緩和され、前回に比べて住民の方々と交流できる場面が一気に拡大。学生たちは、地域の資源とアートの力を組み合わせて、様々な企画を実践しました。

SDGs達成に貢献する取り組みとして推進

本プロジェクトは、SDGs(持続可能な開発目標)のグローバルな17ゴールのうち、11番目の「住み続けられるまちづくり」の達成に向けた取り組みでもあります。お年寄りや子どもなど誰もが暮らしやすく、人と地域がつながりあう「まちづくり」の支援をめざして、学生たちが独自の発想を形にしました。

地域住民との交流を重ねて関係性を築く

これまでURアートプロジェクトは1年ごとにフィールドを変えてきましたが、今回は初めて2年続けて同じ団地で実施することに。前年度の経験をもとに、今年はさらに踏み込んだプロジェクトに挑戦。14名の学生メンバーは3チームに分かれ、「ファッションショー」「写真で尾崎を巡る」「焚き火音楽祭」という3つのテーマを掲げてイベントを企画しました。

メンバーたちは現地に何度も足を運び、リサーチや住民側とのやり取りを重ねながら企画をブラッシュアップ。10月1日の本番イベントに向けて、7月と8月にはプレイベントも実施しました。並行して広報媒体「うみかぜ通信」の定期的な制作と各戸へのポスティングも行い、住民の方々との関係性を深めていきます。

そして10月1日の本番当日。事前の告知や学生の声かけに応えて団地や地域の方々が来場。時間が経つにつれ、参加者の数も少しずつ増えていきました。

「ウチらのファッションショー」では、住民の方々をモデルに、学生が持ち寄った服でコーディネート。年配の方や家族連れなど色々な人に参加していただき、団地内や海の風景をバックに撮影を行いました。学生たちと一緒にポーズを決めながら、どんどん盛り上がってみんな笑顔に。後日ファッション誌風のフォトブックを制作して参加者にプレゼントし、さらにつながりが深まりました。

若者の服をシニアに着こなしてもらい、世代を超えたコミュニケーションのきっかけに

「尾崎を巡ルンです」は、住民の方々が撮影した写真で地元の魅力を紹介する写真展。事前にフィルムカメラを渡して、海や夕日、広場や商店街など地域の日常風景を撮影してもらい、団地内の空き部屋に展示しました。当初は住民側の反対意見もあった企画でしたが、学生たちが粘り強くハードルを乗り越えて、団地の空間と味わいのある写真が調和した展示を実現。多くの人が訪れてじっくりと見入り、作品や展示の感想などで学生たちとの会話も弾みました。

壁や窓、押入れや台所などいたる所に展示。団地の日常の空気感が伝わる写真展になった

太陽が傾き始めた頃、「焚き火音楽祭」がスタート。地域の皆さんと学生たちが一緒に焚火を囲み、語らったり焼きマシュマロを食べたりと、和やかな交流を楽しみました。アコースティックユニット「futarinote(ふたりのーと)」が、参加者のリクエストに応じて懐かしい名曲を披露。夕暮れから宵闇に移る中、揺れる炎と心地よい音楽が醸し出すゆったりとした空気の中、プロジェクトが締めくくられました。

団地内の公園に4台の焚火台を設置。地元の方々が続々と訪れ、少人数ずつに分かれるスタイルで交流
「futarinote(ふたりのーと)」による生演奏。あたたかみのあるギターとボーカルが癒しを誘う
幅広い世代になじみのある歌のリストを準備して、その場でリクエストを募った

UR側のプロジェクト担当者であるUR都市機構西日本支社技術監理部の坂本杏子さんに、感想を伺いました。「今回は芸大生らしい自由な発想や視点で、色々な企画を提案していただきました。どのイベントも予想以上に多くの住民の方が参加してくださって、大いに楽しんでもらえたと思います。学生の皆さんの、私たちでは思いもよらないアイデアや、積極的に動く行動力、そして住民側の意見も聞きながら自分たちのやりたいことを形にしていく力は、本当に素晴らしいですね。私自身も団地の魅力を再発見できました」

 住民の方々からも、好意的な声が多く聞かれました。「孫のような若い学生さんたちとたくさん話ができて、とても楽しかった」「ファッションショーでいつもと全く違う格好で撮影してもらい、新鮮でした」「団地の部屋で色々な写真を見て、尾崎っていい所だなと感じた」「焚火と歌が醸し出す雰囲気がとても良かった。ぜひまた参加したい」など、皆さんが笑顔で語ってくださったのが印象的でした。

芸術計画学科 准教授
中脇 健児 先生

尾崎団地では2年目のプロジェクトになりますが、コロナでほとんど地域との交流を持てなかった前回に比べ、今回は積極的な関係づくりをめざす年になりました。企画は、フィールドワークから発想をふくらませ、ほぼ学生たち自身が考えて組み立てたもの。彼らの持ち前のコミュニケーション力で、どんどん地域の中に入っていきました。イベントの事前準備はもちろん必要なのですが、あまり作り込み過ぎず余白や隙間を残すことで、住民の方が「しょうがないな、手伝ってあげよう」と関わってくれて、ぐっと距離が近づいたりもする。広報物配布などの地道な努力もあいまって、良い関係性を築いていけたように思います。

現在団地では、入居者の高齢化やつながりの希薄化など課題が多いと言われますが、学生たちも今回の体験を通じて、それを実感し理解できたと思います。その上で「実際はこの団地にはこんなにゆったりした時間が流れていて、心豊かな暮らしがある」と、情報だけではわからない魅力も発見することができた。現地でのふれあいを通じて初めて見えるものがあり、そこからまた新しい展開が広がっていきます。それが社会実装プロジェクトの良さですし、持続可能なまちづくりに向けて、社会実験に協力できたという意義も大きいと思います。次回もここで新しい企画に挑戦したいと考えていますが、そうした取り組みが、私たちが離れた後も何かの形で残っていけば嬉しいですね。

芸術計画学科では大型ライブなどの大規模イベントにも取り組みますが、こうした手作り感のある小規模なプロジェクトでは、参加者と直接対話する中から感じる面白さがあります。スモールサイズだからこそ、何かを新しく始めるハードルも低いし、それが仕組みとしても定着しやすいのです。イベント当日もしっかり楽しむけれど、実はそれが5年後10年後につながって、俯瞰すると次の段階への道筋をつけることになる。学生たちにはそうした複合的な視座の持ち方も意識して、プロデュース力を身につけていってほしいと考えています。

芸術計画学科 3年生
向井 萌 さん

前回から引き続いてこのプロジェクトに参加し、今回は全体のリーダーを務めました。自分では周囲の状況を見るのは得意な方だと思いますが、スケジュール管理や誰かに意見することは苦手。色々な面でギリギリの進行になってしまったのは、リーダーとしての反省点です。参加人数や具体的な流れが当日にならないと読めないのも大変でした。
写真が好きな私は、前回のプロジェクトでもVlog作品や展示写真を制作したのですが、今回はファッションショーチームの撮影班として頑張りました。お年寄りの方をカッコ良く撮りたくて、SNSの画像なども参考に、イメージや構図を研究。最初は恥ずかしがっていた人も次第にテンションが上がり、ノリノリで撮影を楽しんでもらえて良かったです。広報媒体のグラフィックデザインも担当。作業量が多く大変でしたが、住民の方々に「見たよ」と言ってもらえると、ちゃんと伝わっているんだなと実感できて、苦労も吹き飛びました。
前回は冬、今回は夏から秋と、季節の違いも感じながらこの団地に通って、すごく愛着がわきました。ものづくりが好きなので、個人的に「海と団地を融合させた生命体のアートを作って、敷地のあちこちに置いたら楽しいかも」と思い描いたりもしています。今回のように一から企画してプロデュースする体験は、将来どんな方向に進んでもいかせる貴重な経験になったと思います。

芸術計画学科 2年生
金藤 陽保 さん

私たちのチームは「焚き火音楽祭」を担当しました。現地調査で、年々増えている外国人の居住者さんとの交流があまりないと聞き、そういう方々も一緒に楽しめる場ができないかと考案した企画です。どうしたら広く参加してもらえるか悩んでいたところ、事前イベントで小さな焚火をした時に、ベトナムの方々がふらりと参加してくれてびっくり。スマホの翻訳アプリで会話して、焚火のコツなどを教わり、思ってもみなかった交流の広がりが励みになりました。
最初は反応が薄かった住民の皆さんも、何度も足を運んで積極的に声をかけていくうちに、だんだん興味を持ってもらえるようになりました。英語と中国語バージョンの広報物も作ったり、団地周辺の方にも声かけをしたり、地道な活動が実を結んで、本番イベントは予想をはるかに上回る結果に。驚くほど多くの人が参加してくださって、理想的なイベントができ、本当に感動しました。頭で考えてまとめた企画ではなく、やはり実際に現場に行って、人に会って直接話して初めてわかることが多いと実感。今回のプロジェクトを通じて、私たちもこの団地が大好きになりました。
芸術計画学科では、企画を構想して発表し、メンバーの意見を持ち寄ってより良いものへと練り上げていく実践的な学びがとても楽しいです。色々な経験を積んで、将来は映像作品やテレビ番組などのプロデュースに関わるような仕事に就くのが夢です。

芸術計画学科 2年生
富澤 雪乃 さん

今回のプロジェクトでは写真展示の企画に取り組みました。ここを訪れてまず感じたのは、海や自然のあるロケーションやレトロな雰囲気が素敵だなということ。そこで住民の方の目線で写真を撮ってもらい、団地の一室に展示して「日常風景の魅力」を伝えたいと考えました。
ところが団地の役員会でのプレゼンでは、「こんな所を撮っても面白くない」「部屋より集会所で展示した方がいいのでは」と、いい反応が返ってこなくて。外部から見たこの場所の良さや、皆さんが暮らす同じ空間で日常の写真を見てほしいことなどを、住民の皆さんに何度も力説して、ようやく企画が動き始めました。イメージや発想をうまく言葉にできなかったり、想定外のトラブル続きで準備がうまく進まなかったりと苦しい思いもしただけに、展示が仕上がった時は達成感でいっぱいに。当日はお客さんが次々と来場してくださり、「部屋で写真展を見るのは面白い」「海や夕日がきれいで、いい所やね」などと感想を聞けて、本当にうれしかったです。
このプロジェクトに関わってきた数か月、浮き沈みもありながら、とても濃い時間を過ごすことができました。誰かの笑顔のために、ちょっと無理しながらメンバーと走り回る感じが良かったです。将来の進路についてはまだ模索中ですが、今回のプロジェクトで写真展示の魅力を味わって、こういう方向性をめざすのもいいかなと考えているところです。