2022年4月27日、世界初となるアンドロイドと音楽を科学する「アンドロイド・アンド・ミュージック・サイエンス・ラボラトリー / Android and Music Science Laboratory(AMSL)」がアートサイエンス学科棟に誕生し、開所式が行われました。
開所式には関係者や多くのメディアが集まり、AMSLの説明会やメディアツアーを実施。世界初披露となる新生アンドロイド・オルタ4も発表されました。
また、アートサイエンス学科 萩田紀博学科長の進行のもと、渋谷慶一郎客員教授、石黒浩客員教授、今井慎太郎客員教授らを迎えた記念講演・パネルディスカッションが学生参加型で開催され、オープニングセレモニーでは、テープカットや最先端アンドロイド・オルタ4と渋谷慶一郎先生による記念演奏会も行われました。
アンドロイド・アンド・ミュージック・サイエンス・ラボラトリーの主幹を務めるのは、アンドロイド研究の第一人者であり、世界的なロボット工学者で、2025年大阪・関西万博のプロデューサーを務める石黒浩先生とアンドロイド・オペラ®︎『Scary Beauty』や『MIRROR』を発表するなど、国内外で活躍している音楽家の渋谷慶一郎先生です。同ラボラトリーでは、アンドロイドのプログラム開発を担当するコンピュータ音楽家・今井慎太郎先生らと共にアンドロイドを中心としたパフォーマンスやインスタレーション作品の制作を行い、そのプロセスを学生に公開。主にオルタ4をはじめとするアンドロイドの研究や、大阪・関西万博に向けたプロジェクトが行われる予定です。作品のコンセプトからプロセス、フィニッシングまで制作過程が体験できるため、学生たちはレベルに応じて参加することができ、作品制作だけでなく、国内外での公演を実現可能にする制作進行を目の当たりにすることで、音楽とサイエンスの融合をより身近に感じ、学ぶことができます。
同ラボラトリーの運営は、全体のマネジメントを担当する萩田紀博学科長とラボ活動をマネジメントするアートサイエンス学科講師・松本七都美先生を含む教員数名による構成となります。
ラボラトリーの設計は、内装から什器やアンドロイドの台座までアートサイエンス学科棟を設計した建築家であり、建築学科 客員教授の妹島和世先生が手がけました。
AVホールにて、「2025年大阪・関西万博に向けて新たなアートサイエンス空間をクリエイトしよう!」というテーマで行われたパネルディスカッションでは、アートサイエンス学科 萩田紀博学科長がモデレーターを務め、渋谷慶一郎先生、石黒浩先生、今井慎太郎先生をパネリストに迎え、アンドロイドプロジェクトの変遷や、海外展開、万博など2025年に向けたロードマップの紹介、大阪・関西万博と未来社会についての解説が行われ、学生やメディアを交えた質疑応答の時間も設けられました。
渋谷慶一郎先生、石黒浩先生、今井慎太郎先生がこれまで、どのようなプロジェクトに携わり活動してきたか紹介された後、アンドロイドと人間の相互作用により生まれるアートサイエンスと未来について、それぞれの思いが語られました。世界初となるアンドロイドと音楽を科学するラボラトリーの開所および、オルタ4が初披露されたことでメディアが多く集まったこともあり、メディアからの質問が目立つ中、アートサイエンス学科の学生からは、「アートサイエンスの概念とは何か」「アンドロイドが感情を持つことはあるのか」などが問われ、1つひとつ丁寧に回答される場面が見られました。
オープニングセレモニーでは、石黒先生が製作監修したオルタ4が初披露され、ロボットオペラを創る音楽家の渋谷慶一郎先生とオルタ4の共演で演奏が行われ、会場に集まった学生やメディア関係者の注目を集めました。
披露された楽曲は、事前にプログラミングされたものではなく、渋谷慶一郎先生が奏でるシンセサイザーとピアノの音色に合わせて、オルタ4が即興で詩をつけて歌いました。アンドロイド特有の高音域の美声が会場を包み、一瞬にして未来を感じさせるアートサイエンス空間が生まれました。オルタ4の目や口元の繊細な動きが見られる表情と、時折、渋谷慶一郎先生と目を合わせているかのような場面も見受けられ、伴奏に合わせてダイナミックに手を上下左右に動かしながらパフォーマンスする姿が印象的でした。
オルタ4は前身であるオルタ3の進化版で、表情筋の可動域が増え、舌の動きも追加された為、より豊かな表情が可能になりました。さらに全身の強度や関節数が増したことで、よりダイナミックな表現もできるようになりました。
大阪・関西万博が開催される2025年に4年生になる学生が入学した今年、2022年にアートサイエンス学科棟に、アンドロイド・アンド・ミュージック・サイエンス・ラボラトリーを開所することができ、安堵感を得ています。今年入学した学生が4年間、このラボラトリーを通してたくさんのことを学び、大阪・関西万博に携われるということは、モチベーションになると思いますし、すごく良いタイミングだと言えます。 また、今回、オルタ4が初披露され、演奏者とロボットのインタラクションという、これまで体験できなかったことが可能になる、まさに新しいアートサイエンス空間が生まれたと実感しました。例えば、オルタ4を操作する今井慎太郎先生は、どういう職業かと言ったら、これまでにない新しい職業です。今後そのような傾向にある中、学生たちがアートサイエンスという分野で新たな職業が生まれることを目の当たりにし、貴重な経験ができる環境は、大阪芸術大学のアートサイエンス学科ならではの、特徴であり、強みだと言えます。この先80年後にも耐えられる仕事は何かを考えることが重要になるでしょう。私は、それがアートサイエンスの分野だと思っています。
これまで、『ミッドナイトスワン』や『ホリック xxxHOLiC』などの映画音楽をはじめ、パリ・シャトレ座での公演を皮切りに世界中を巡回した、初音ミク主演による人間不在のボーカロイド・オペラ『THE END』、日本、ヨーロッパ、UAEで公演が行われたアンドロイド・オペラ®︎『Scary Beauty』や『MIRROR』などを手がけてきました。音楽とアンドロイドについて長く携わってきた中で、このようなラボラトリーの開所に繋がったことを嬉しく思います。 ここでは、主にオルタ4のパフォーマンスやインスタレーション作品制作、大阪・関西万博に向けたプロジェクトを行い、そのプロセスを学生に見学・参加してもらうことができます。また、私が手がけるプロジェクトは、海外を中心に展開しているため、どのように現地のプロダクションとコミュニケーションを取るのか、メディアの扱い方などを学んでもらうことも可能です。特に、プログラミングの知識やスキルを持った学生に積極的に参加してもらい、有意義な関係性を築き、大阪・関西万博に向けたプロジェクトにおいて戦力になるような人材が育てば、素晴らしいですね。
芸術と技術は常に密接な関係にあります。最先端のサイエンスやテクノロジーというのは、アートなしでは生み出されず、進化しません。アートサイエンスとは、芸術の中に科学を見出し、科学の中に芸術を見出すことで、最先端の新しい発見をするには、アートサイエンスが一番重要だと考えています。 技術は芸術から多くを学び、また芸術は技術を使ってさらに発展していきます。芸術の中の音楽は、人間とロボットの調和的関係を表現することで、ロボットの新たな魅力を引き出す一方で、ロボットは音楽の可能性を広げる新たな表現手段になります。こうした芸術と技術が融合した新しい分野を、このラボラトリーから創っていきたいです。 また、新しい技術を生み出すのには芸術的センスが必要です。さらに芸術には新しい表現手段としての技術が必要です。学生の皆さんには、芸術がいかにして新しい技術を生み出すか、技術がいかにして新しい表現手段になるかを体験し、学んでもらえればと思います。
私は、2019年から渋谷慶一郎先生のアンドロイド・オペラのプロジェクトに関わるようになり、オルタの発する声や動作を総合的にプログラミングする役割を担っていますが、元々はプログラマーやエンジニアというわけではなく、コンピュータ音楽家として活動してきました。20数年前から、コンピュータをリアルタイムの環境下で音楽に使用し、主に楽器とコンピュータという形で作品を制作してきましたが、そうした知見がアンドロイドを通して演奏とコンピュータのインタラクションを目に見える形にすることに繋がりました。音楽表現に、これまでとは明らかに違う事例を作ってこられたことをプロジェクトを通して感じています。 このラボラトリーでは、人間とアンドロイドのインタラクション、あるいは、アンドロイドとアンドロイドのインタラクションなど新しい制作活動を推し進めていけるのではないかと思います。大阪・関西万博に向けてのみならず、さまざまなプロジェクトを実現していくと共に、その制作過程を可能な限りオープンにしていくため、学生の皆さんには自主的に関わり、学んでいただけると嬉しいです。
2018年にアートサイエンス学科棟が完成した時、この場所からアートサイエンスというものが形づくられるのだと胸を膨らませました。そして、アンドロイド・アンド・ミュージック・サイエンス・ラボラトリーが開所し、渋谷慶一郎先生とオルタ4による演奏において、アートサイエンスとはこういうものだと、1つのはっきりとしたイメージを示してくれたのではないかと思います。 今回は、自分が設計したスペースの中で新しいインテリアを考えるという、大変貴重な経験をさせていただきました。オルタ4はもちろん、グランドピアノや大きなスピーカーなど、1つひとつ存在感があるものが配置されるので、それらと共に新しいスペースを作り上げられるよう、家具を中心に考えました。さまざまなものの素材感、その光沢具合や重さなど、全体のほど良いバランスを見つけるのが難しかったです。 アートサイエンス学科棟が新しいアートサイエンスを生み出す場所として機能し、その結果、新しいアートサイエンスが、またこの棟を新しい場所にしてくれる、そういう循環が生まれる場になると良いですね。その循環は学生たちの活動が作り出すものではないでしょうか。