オルタ4の国内外公演にAMSLの学生が参加。プロの現場で実践的に学ぶ オルタ4の国内外公演にAMSLの学生が参加。プロの現場で実践的に学ぶ
「Android and Music Science Laboratory(AMSL)」は、世界初となるアンドロイドと音楽を科学するラボラトリーとして2022年にアートサイエンス学科に誕生しました。AMSLでは通年にわたり、渋谷慶一郎客員教授と今井慎太郎客員教授が中心となり、アンドロイド・オルタ4によるパフォーマンス作品の制作などを行い、そのプロセスを学生に公開しています。AMSLで、2023年の夏から2024年にかけて行われたプロジェクトを紹介します。
学科の垣根を越えて学生たちがプロジェクトに参加
AMSLでは、アンドロイド・オペラ®︎『Scary Beauty』や『MIRROR』を発表するなど国内外で活躍する音楽家の渋谷先生と、同作でアンドロイドのプログラム開発を担当するコンピュータ音楽家の今井先生を中心に、オルタ4をはじめとするアンドロイドの研究や、作品制作が行われています。学生たちは、2022年にショートフィルム制作や、さまざまなイベントでのアンドロイド・オペラ®の上演を通して、作品のコンセプトからプロセス、フィニッシングまで制作過程を身近に見て学び、2023年6月にはパリ・シャトレ座で行われたアンドロイド・オペラ®『MIRROR』の公演に同行するなど、世界的な舞台芸術作品がどのように作られていくのか舞台裏を見て知ることで、実践的な学びを得ています。
AMSLのプロジェクトには、アートサイエンス学科だけではなく音楽学科の学生も参加。学科の垣根を越えて開かれたラボとなっており、AMSLで活動する音楽学科の聴講生は、「AMSLでは、私が追い求めていた『複合的な芸術』の理想が、まさに目の前で形となって展開されています。まず、アンドロイドのオルタ4の存在に圧倒され、グランドピアノ、アナログシンセサイザー、さらには仏教音楽である声明など、異なる要素が見事に融合した壮大なプロジェクトが繰り広げられていました。これほどまでに刺激的な環境の中で、自分が何かを学び、創作する機会を逃す理由はどこにも見当たりませんでした」と話してくれました。
プロムナードコンサートや、金沢21世紀美術館のイベントにスタッフとして参加
2023年8月24日にフェスティバルホールで開催された、演奏学科を中心とした一大イベント「プロムナードコンサート」では、渋谷先生とオルタ4がオープニングアクトとして演奏を披露。AMSLの学生たちは、現地でのリハーサルから準備に参加し、オルタ4の組み立てや設置をはじめ、機材設営などに携わりました。裏方の仕事は目立たない部分ではありますが、舞台全体の流れに関わるため、細心の注意を払って取り組む必要があり、その場の状況に応じて柔軟な対応が求められます。ラボ活動をマネジメントするアートサイエンス学科 非常勤講師の松本七都美先生は、「プロムナードコンサートは、パリ公演の直後だったこともあり、アンドロイドの搬入から組み立てはもちろん、アンドロイドが動いている状態の中で、例えばエアコンプレッサーの空気圧の調整など何かトラブルがあった際の対応を含め公演を終えてからアンドロイドを解体して搬出するまでの一連の流れを全て任せることができました」と話していました。学生たちは、緊張感のあるプロの現場で最善を尽くし、それぞれの役割に対して責任感を持って行動しました。
金沢21世紀美術館では、展覧会「DXP(デジタル・トランスフォーメーション・プラネット)―次のインターフェースへ」の特別企画として、2023年10月13日・14日の2日間にわたり、オルタ3と、オルタ4の初共演による新作パフォーマンスが行われました。その際、学生たちは、オルタ4の組み立てから動作チェックのサポートや、アンドロイドの対話と連動しスクリーンに映される字幕の調整など重要なスタッフの一員として取り組みました。このイベントは、東京大学が保有するオルタ3とのコラボレーションによって実現。オルタ3とオルタ4それぞれを東京大学と大阪芸術大学のチームが制御し、それぞれ異なるプログラミング言語やシステムで稼働しているため、違った方法でのアンドロイドの動かし方や、表現する際にどのようなテクノロジーを使用するのかを、他チームとの協力を通じて学ぶ機会となりました。学生たちはプロジェクトに参加する中で、テクニカルな部分への理解を深めることはもちろん、渋谷先生の取り組みを通じて、テクノロジーとアートが交わることで新たな表現の可能性が広がることを学べました。
日本初演となった『ANDROID OPERA TOKYO』の舞台制作やイベント運営をサポート
2024年6月18日には『ANDROID OPERA TOKYO』と題し、渋谷先生の作曲・プロデュースによるアンドロイド・オペラ『MIRROR』の東京凱旋公演が恵比寿ザ・ガーデンホールで行われました。同作は2023年にパリ・シャトレ座で上演されたアンドロイドとオーケストラ、1200年の歴史を持つ仏教音楽・声明と渋谷先生自身の演奏によるピアノ、電子音楽、そして映像、照明によって構成される大規模な劇場作品で、日本初演となりました。また、2021年に新国立劇場の委嘱により初演された、子どもたちとアンドロイドが創る新しいオペラ『スーパーエンジェル』の抜粋を前半の第一部として発表。視覚や聴覚に障害を抱えるなど多様な子どもたちから構成される『ホワイトハンドコーラスNIPPON』による児童合唱が参加し、渋谷先生のピアノとアンドロイド、オーケストラの演奏に加え、新進気鋭のアーティスト岸裕真氏によるAIを用いた映像が披露されました。そして第二部『MIRROR』のステージではオルタ4がヴォーカルを務め、高野山から4名の僧侶であり声明の演奏家が参加。映像はフランス人ビジュアルアーティスト・ジュスティーヌエマール氏が映像のライブミックスのために来日しました。
渋谷先生の主催により行われたANDROID OPERA TOKYOでは、学生たちはアンドロイドに関わる作業だけでなく、舞台制作やイベント運営といった制作的な面にも参加。舞台そのものを作り上げる作業にも携わり、イベント作りの一連の流れを経験しました。コンサート後にはアフターパーティーが開催され、その運営もサポート。学生たちは、舞台制作やアンドロイドのアシスタント的な役割からイベント運営に至るまで、幅広い経験を積むことができました。
プロの現場に参加し、それぞれのアーティストが持つ独自の視点やアプローチを吸収する機会は、学生たちに新たなインスピレーションをもたらす契機にもなり得ます。そして技術的な追求にとどまらず、アートがいかにして異なる要素を統合し、作品として響き合うかを深く考える重要なきっかけを与えることにつながります。技術、音楽、ビジュアル、パフォーマンスの全てが連携し、1つのメッセージや体験を生み出す総合芸術の魅力に触れることで、学生たちは自身の創作や表現について新たな視点を得るかもしれません。
AMSLの活動を通じて卒業制作で培う独自の表現と技術の融合
秋以降のAMSLの活動としては、4年生は主に卒業制作に取り組んでいます。AIやMax/MSPといったプログラム、あるいはマルチチャンネルのサウンドシステムなど、これまでに経験してきた公演やプロジェクトで触れた技術や表現要素を、それぞれが自分なりに吸収しながら制作に取り入れています。その作品にはそれぞれ独自のコンセプトがあり、これまで参加してきたプロジェクトの意味や意図を理解することで培ってきたものです。学生たちは、自分のアイデアをどう形にし、どのようなテクノロジーを用いるかを自ら設計しながら制作を進めています。それに対し、渋谷先生や今井先生がアドバイスやフィードバックを行っています。
今後の活動について渋谷先生は、「アンドロイドにとどまらず、AIやプログラミングを使ってさらに発展的な活動ができるのではないか」と話します。来年度もアートサイエンス学科だけでなく、他の学科の学生においても積極的にAMSLの活動に参加することで、音楽とサイエンスの融合を身近に感じ、実践的な学びを得ていくことになります。
学生たちには、基礎的な技能の修得だけでなく、プロフェッショナルな舞台制作の現場に立ち会い、さらにスタッフの一員として身体を動かす経験を得て欲しいと思いました。近年は、インターネットであらゆる情報が得られると思われがちです。だからこそ、デジタイズできない物事についての身体的なトレーニングの場こそが、大学においてもますます重要になっていると考えます。クリエイティブの原石を粘り強く磨き続け、また関わるスタッフがそれぞれの責任を引き受けて、地味で地道な作業を緊張感のなかで積み重ねていくことでしか、良い舞台はつくれません。ラボの学生は、制作の端緒から本番までのプロセスに何度も立ち会い、受け持った仕事へ真摯に取り組み、周囲から信頼される存在にまで至るという成長が見られました。ラボでの経験をさまざまな側面から咀嚼することで抽象化、一般化し、自身の創作活動に生かしていくことを期待します。
渋谷先生や今井先生の取り組みを間近で見て、技術や表現が単なる手段にとどまらず、作品全体の流れや伝えたいメッセージに直結することを学びました。今後も、どの要素がどう響き合い、作品としてどんな印象を与えるかを意識しながら取り組んでいきます。作品を仕上げる上では、ただ完成度を高めるだけでなく、細部にもしっかり目を向け、自然な形でメッセージが伝わるようにすることが大切だと感じています。音や映像、空間といった1つひとつの要素が、少しの違いで大きく印象を変えることを学んだので、それを自分の表現にも生かしていきたいです。これからも、プロの現場で吸収した全てのことを自分の制作に取り入れながら、新しい表現にも挑戦していこうと思っています。制作を通じて自分自身のテーマを深め、その過程で得たものを次の作品に生かしていくことが目標です。これまでに学んだことを基盤にしながら、次のステップへ進むための力を蓄え、さらに成長していきたいと考えています。
プロのアーティストのプロジェクトに参加し、第一線のクリエイティビティを間近に見て学べることは滅多にないことで、とてもありがたく思っています。渋谷先生や今井先生の取り組みから、テクノロジーとアートを組み合わせたアートの表現について学ぶことができました。新たなテクノロジーは目新しくそれを使うことが目的になりがちですが、それよりもなぜそのテクノロジーを使うことがその作品に必要なのかを深く考え意味のある使用こそが、アートには大切なのだということがわかりました。また、作品の印象は細かな動きのこだわり、演出のディテールで左右されることを実感できました。これらの経験は自分で作品を作るにあたり作品への向き合い方、考え方、作り方の勉強になり、今後の活動に影響を与えてくれると感じています。これからも自分の作品を作る機会があるので、AMSLで学んできたことを作品制作に取り入れ、新たな表現、他のアーティストとのコラボレーションなどに挑戦し、これからも成長し続けていきたいです。