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大阪芸術大学 第46回オペラ公演『魔笛』 大阪芸術大学 第46回オペラ公演『魔笛』

アートサイエンス学科, 舞台芸術学科, 演奏学科
2025/07/01

2025年3月30日、兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホールにて大阪芸術大学 第46回オペラ公演『魔笛』が開催されました。同公演には、演奏学科をはじめ、舞台芸術学科舞踊コース、放送学科、アートサイエンス学科の学生たちも参加。演目は、モーツァルトが手がけた世界的評価を集めるオペラ作品『魔笛』。学生たちの見応えあるパフォーマンスを前に、公演中は満員の客席から何度も盛大な拍手が贈られました。

演奏学科生たちがドイツ語でオペラ歌唱を披露

1791年にモーツァルトが作曲した『魔笛』。同年、自身の指揮で初演されましたが、その2か月後にモーツァルトは他界したことから「生涯最後の作品」とされています。『魔笛』の物語は2幕構成となっており、夜の女王の娘・パミーナと彼女を連れ去ったザラストロ、そして魔笛を手にパミーナの救出を試みる王子・タミーノ、魔法の鈴を使いながらパミーナと逃げるパパゲーノらが直面する、思惑、試練などが描かれています。

開演時刻の15時。演奏を担当する大阪芸術管弦楽団のチューニング音が鳴り始めると、場内に一瞬、緊張感が走ります。そんな中、国内外で活躍する指揮者で演奏学科教授の大友直人先生が登場。歓迎と期待の拍手が巻き起こりました。

国内外で活躍する演奏学科の大友直人先生が指揮し、大阪芸術管弦楽団が情感豊かな演奏を披露した

オープニングシーンを飾ったのは、アートサイエンス学科生たちが制作したマッピング映像です。大阪芸術管弦楽団が奏でる音楽に呼応するように、夜空を流れる星、緑の枝葉が伸びる様子など幻想的な映像がステージ上に映し出され、鑑賞者を『魔笛』の世界へ一気に引き込んでいきました。

オープニングを飾った、アートサイエンス学科が制作したプロジェクションマッピング映像

そんな同作で圧巻だったのが、演奏学科生たちが披露したドイツ語(原語)でのオペラ歌唱です。大学院生・前田彩音さんが演じた夜の女王のアリア『復讐の炎は地獄のように我が心に燃え』は、数多のソプラノ楽曲の中でも特に高い音域を誇るものですが、夜の女王がまとう威厳を放ちながら堂々とした歌声を聴かせました。また学部生・若井隆さんは、ザラストロ役の歌唱シーンの大きな見どころである低音を場内に響かせました。学部生・藪中天音さん(第1幕)、大学院生・谷口晴菜さんもパミーナ役として繊細な感情を歌であらわしました。

迫力ある歌声を聴かせる、夜の女王役の前田彩音さん
物語が進むにつれて、ザラストロの正体が明らかに
物語で重要な役割を果たす魔笛によって、タミーノ、パミーナの距離感が少しずつ縮まっていく

マッピング映像も駆使、『魔笛』の世界に広がった新たな可能性

舞踊コースの学生たちによる踊りも躍動感たっぷり。タミーノ、パミーナの出会いのきっかけとなる序盤では、重要なキャラクターである大蛇を5人の学生たちが演じました。大蛇独特の大きなうねりをダイナミックに体現したほか、劇中に登場するいろんな動物も舞踊の動きで見せるなどし、作品の世界観に深みを与えました。ちなみに芝居のパートは日本語で演じられており、楽観的な面も持つパパゲーノを大学院生・芳賀拓郎さんが軽妙に演じる様には、客席から笑いが何度も起こりました。

大蛇の迫力ある動きを踊りで表現した、舞踊コースの学生たち
夜の女王の3人の侍女とパパゲーノのやり取りには笑いも起きた

クラシカルなオペラ作品であり、人間は試練を経て強くなれるという普遍的なメッセージも込められている『魔笛』。学生たちは、そういった伝統的要素をしっかり引き継ぎながら、ドイツ語の歌唱と日本語での芝居を織り交ぜるという非常に難解なパフォーマンスに向き合うことで、「表現者」として新境地地にたどり着くことができたのではないでしょうか。

 マッピング映像を駆使するなどし、新たな可能性を広げたように思えた今回の『魔笛』。演奏学科、舞台芸術学科、放送学科、アートサイエンス学科の学生たちの成長に繋がる公演になりました。

熱演を見せた学生たちを、観客は大きな拍手で讃えた
演奏学科 専任講師(声楽)
東野 亜弥子 先生

『魔笛』には、立場、身分などが違う登場人物がたくさん出てきます。そこでぶつかり合いが生じたり、お互いを包み込み合ったりする様子を通し、「他者をどのように認め、受け入れるか」がメッセージとして投げかけられます。立場によって異なるいろんな感情が音楽で表現されている点が、『魔笛』の素晴らしさであると考えます。夜の女王のアリアも音楽として技巧的に優れているばかりでなく、物語全体を見渡したとき、どういった場面で誰に向けて歌われているのか、その構成が非常に緻密に計算されています。だから、歌を聴いてワクワク、ドキドキできるのだと思います。そんな『魔笛』に臨むにあたり学生たちに常々伝えていたことは、表情や感情をおもてにしっかり出すことの大切さ。ドイツ語で歌う際、まず発音や歌詞について調べ、そこにどのような意味が込められているのか心に留めた上で、おもてに出さなければいけません。ただ歌がどれだけ上手でも、感情や表情をちゃんと出さなければ鑑賞者の心には届きません。逆にそのことを意識することで、声もどんどん出ます。私たち講師陣も学生たちの表情や感情をいかにして引き出していくか、課題を持って稽古に取り組んでいました。また今回の学外公演では、演奏学科を中心に、舞台芸術学科、放送学科、アートサイエンス学科などの学生が一緒になって舞台を作っていきました。たとえば舞台演出面でも、素晴らしい大道具、小道具、舞台装置が準備され、さらにアートサイエンス学科の学生が制作したプロジェクションマッピングの効果でより立体的な迫力を感じさせることができました。まさに大阪芸大の特色が詰まった学外公演になりました。学生たちもこういった経験を経て、感性がさらに育まれたのではないでしょうか。これからさらに音楽を極めようとしている学生、教員になろうとしている学生、もしくは音楽とは違う職業に就こうとしている学生などどのような道に進んだとしても、この公演で得た経験はきっと貴重なものになると思います。

演奏学科 4年生(声楽コース)
若井 隆 さん(ザラストロ役)

今回、ザラストロ役ということでプレッシャーがすごくありましたが、「前向きにやろう」という気持ちで稽古から取り組んできました。本番では、それまで何十回も試行錯誤した台詞、歌などを、最大限の力で悔いなく見せ切ることができました。もちろん「もっとのびのびできたかも」と思ったり、ミスをしないことを意識しすぎてやや硬くなったりした部分もあります。ただこの『魔笛』は、タミーノ、パパゲーノらが試練を乗り越えて目標にたどり着いていく物語です。勇気、忍耐力などを持ち、やるべきことをきちんとやれば夢は叶うというメッセージを感じ取れます。現実にはつらいことがたくさんありますが、逃げずに向き合うことで幸せをつかみとることができる。そういった内容は、今回、ザラストロ役に臨んだ自分にも当てはまる気がします。なにより私は小さい頃から歌が好きでしたが、聴いていたのはJ-POPが中心でした。声楽コースに入ったのも、ミュージカルをやってみたかったから。オペラを初めて鑑賞したのは大阪芸大に入学してからなんです。そんな自分が大阪芸大で学びを進める中で、オペラは声を作り込むのではなく、普段の発声の延長にあることなどに気づき、声で芝居をすることへの興味を膨らませることができました。春からは声優をめざし、東京の養成所に通います。今回の『魔笛』での経験も糧にし、アニメ、吹き替えの仕事などができるようにがんばります。

大阪芸術大学大学院(博士前期課程声楽)
谷口 晴菜 さん(パミーナ役)

稽古では、上手くいかずにもどかしさを抱く日がたくさんありました。みんなでたくさん試行錯誤しました。だからこそ本編を終え、カーテンコールで温かい拍手に包まれたときに心から幸せを感じました。すべての場面で、現時点での自分たちのベストをお届けできました。この『魔笛』は、いずれのキャラクターにも乗り越えるべきものがあり、愛に悩み、愛に助けられる様子が描かれています。私が演じたパミーナも、臆病さがありますが、心の成長とともに芯の強さが磨かれていきます。その根底にあるのは、人間は誰かと関わって支え合うことで成長できるというメッセージ。私自身も稽古を通してたくさんの方に支えられ、物語に流れるメッセージを何度も実感することができました。また『魔笛』を演じ、モーツァルトのすごさに改めて触れることもできました。登場人物の感情、鼓動が音楽で表現されていますが、たとえば悲しい場面でも明るい響きで歌うことで、より悲しみが強調されるなどしています。『魔笛』であらためてオペラの奥深さを知り、「この道をもっと突き詰めたい」と思いました。2026年に大学院を卒業しますが、その後の進路は、オペラの研修所に入ることをめざしています。小さい頃から歌うことが好きで、自分の歌で感動や元気を与えたいと考えていました。そうすることが自分の使命だと感じています。ですので、将来はオペラを通してお客様を笑顔にしたいです。

舞台芸術学科 2年生(舞踊コース)
木口 ほのか さん

全員が今までで一番の力を発揮し、本番を終えることができました。また個人的なことですが、生のフルオーケストラの中で踊るということが初めての体験で、楽器一つひとつの繊細な音を近くで聴きながら踊るのはとても胸が高鳴りました。なにより、これまでオペラには馴染みがほとんどなく、難しいものと思い込んでいたのですが、実際に取り組んでみると歌、演技、物語がしっかり結びついていて、「とてもおもしろい」と感じました。そんな中、私たち舞踊コースの学生は、大蛇、いろんな動物、そして子どもたちなどの姿を踊りで表現しました。大蛇は5人で表現したのですが、隣の人の動きをしっかり受けた上で自分も動き、そして次の人の動作に繋いでいかなければいけませんでした。今回のいずれの役もそうなのですが、動きのイメージをしっかり作った上で踊らなければなりません。普段からそういったトレーニングを行なっていたこともあり、イメージ通りの動きができました。大阪芸大で学んできた経験が生きたと思います。一方で、舞台の広さを気にしすぎて踊りが早くなり、雑になったところもあったので、その反省は今後に生かしていきたいです。私は3歳からクラシックバレエをやっていて、将来はテーマパークダンサーになることが目標。テーマパークのパレードなどでパフォーマンスする仕事なのですが、その土台にはクラシックバレエがあります。私は、自分の踊ったときのお客様の反応を見て幸せを感じるので、夢を実現させてずっと踊り続けていきたいです。

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