見えない世界に眼差しを向けた「想像の彼方-異界の景色を臨む-」 見えない世界に眼差しを向けた「想像の彼方-異界の景色を臨む-」
大阪府立近つ飛鳥博物館を舞台に、芸術計画学科との博学連携事業として展開される「近つ飛鳥プロジェクト」。その第6回目となる展覧会「想像の彼方 -異界の景色を臨む-」が、2026年1月24日から2月1日にかけて開催されました。「アートと考古学の対話 次世代からの問いシリーズ」の第3弾でもある本プロジェクトでは、芸術計画学科の学生たちが主体となり、工芸学科・写真学科・放送学科とも連携して、考古学という学術領域とアートの融合に取り組みました。
考古学とアートの対話から、古代人の想像力を可視化
これまで埴輪や勾玉、銅鏡、土器、おびただしい数の石室が点在する近つ飛鳥風土記の丘など実在する遺物や遺構を探求してきた「近つ飛鳥プロジェクト」が着目したのは、「古代人が想像したであろう異界」です。古墳に囲まれ、死が身近であったこの地で、古代の人々はどのような思いを抱いていたのか。目に見えない世界をアートの力で可視化することを、展覧会の核心に据えました。
芸術計画学科教授の谷悟先生は、「学生たちは博物館が立地する場所性や展示物から着想を得て、様々な分野やメディアを横断しながら、生と死の世界や古代と現代の越境に挑みました。まさに境界領域を拓く芸術計画学科らしい表現世界をプロデュースすることをめざしました。また今回は、博物館の改修に伴う空間制限を逆手に取り、建築家・安藤忠雄氏が設計した建築の余白や暗いスペースを活かすことで、「見えない世界」、「不確かな存在」というテーマを際立たせる展示を設計し、芸術考古学的なアプローチで古代人に想いを馳せる豊かな時空を創出することに力を尽くしました。」と本展の意義を語ります。
自ら表現者となり、学科を超えた協働でものづくりも体感
この取り組みは「社会連携プロジェクト演習」の授業の一環であり、学生が企画や広報、予算、運営管理などをすべて担います。しかし今回はこうした役割にとどまらず、工芸学科陶芸コースの協力を得て学生たちが自らの手で土器を制作し、野焼きを行うなど、表現者としても深く関わりました。
展示された4作品の一つ「祈りの飛翔」は、あの世とこの世をつなぐ存在とされる水鳥がテーマ。メンバーたちは伝統的なくりぬきの技法を学び、鳥形を制作しました。制作指導にあたった松森洋駆さん(工芸学科陶芸コース卒業生・技術指導員)は、「芸術計画学科の皆さんは非常にパワフルで制作意欲旺盛。他学科との調整にも丁寧に配慮しながらプロジェクトを進める姿は、とても頼もしかったです」と振り返ります。
「生を纏い死を抱く」は、芸術計画学科3年生でプロジェクトリーダーを務めた佐藤歌さんの「古墳と一体化したい」という願いから生まれた作品です。佐藤さんは、生死の結界を形づくる役割を果たす円筒埴輪を制作し、それを抱きかかえるパフォーマンスを映像化。撮影を担当した放送学科制作コース3年生の八嶋杏那さんは、「制作者の思いや当日の天候まで描き出すことにこだわりました。この経験をドキュメンタリー制作にいかしたい」と、学科間の連携から受けた刺激を語りました。
これらの土器作品は、地元・河南町の方々の協力による「野焼き」で仕上げられました。メンバーたちは自ら火を起こして薪をくべ、古代に思いを馳せながら土器を焼成。焚き火を囲んで語り合う時間が、チームの絆をより強固なものにしました。
芸術計画学科3年生で副リーダーの田畑芹奈さんが企画構想した作品「息吹く煤」では、命の痕跡としての「煤」に目を向けました。古代人の生活感が伝わる煤付き土器をモチーフに、わら縄でらせん状の作品を制作。この作品を1階ロビーに配置することで、来場者は息を吹きかけ、煤を再燃させるイメージを体感し、異界へ誘うという物語も表現しました。
写真学科3年生の立松侑也さんが手がけた「瞑目の景」は、「見えないものと向き合う」ことがテーマ。目を閉じた時にまぶたの裏に浮かぶ光の残像と、近つ飛鳥に吹く風や鳥の音が呼びさます記憶。それぞれをイメージした映像と音を、隣り合う壁面に展開し、生命の根源にふれる体験を創出しました。
心をつなぎ、五感で楽しめる体験型の展覧会に
来場者に展覧会をより多角的に楽しんでもらう趣向も盛り込みました。ワークショップ「鳥のマ」は、光と影で鳥に擬態してみようという企画です。身体や手に光を当てて鳥の影を作り、写真に撮って作品化。1部を大切な人に郵送し、もう1部を博物館内に展示して、魂を運ぶとされる鳥の物語を体感してもらいました。
また、カフェとコラボしたイベント開催期間限定メニュー「発掘プリンアラモード」も考案。水鳥や円筒埴輪のモチーフも取り入れてデザインし、プリンを食べ進めながら未知を発掘していくという楽しさを来場者に提供しました。
芸術計画学科教授で美術家の山村幸則先生は、「チームの仲間のみならず、学科、大学の枠を超え、社会と連携し、信頼関係を築いてゆく。展示という結果だけでなくそこに至るまでのプロセスにこそ、このプロジェクトの真髄と芸術計画学科ならではの学びがあると思います」と総括。さまざまなつながりを育んだこの展覧会は、学生たちにとって確かな成長の一歩となりました。
今回私は主にワークショップを担当しました。展覧会のテーマと連動させるため、入念にリサーチ。古事記の白鳥伝説から、鳥が魂を運ぶ存在として描かれていることを知り、「鳥の影をつくり、郵便で送る」という企画を組み立てました。事前準備で最も力を入れたのは導入映像の制作です。水鳥形埴輪の由来をわかりやすく伝えるため、物語を考え、ペープサート風の動画を作りました。当日は小さなお子さんから大人まで幅広く楽しんでくださり、考えていた以上に盛り上がって、とても嬉しかったです。展示を鑑賞してからワークショップへとつなげる流れで、展覧会の世界観としっかりリンクできた点にも手応えを感じました。
何より先輩方がゼロから展示を作りあげていく姿を間近で見られたことは、私にとって大きな気づきになりました。考古学の専門知識や外部の方々との交渉など、リサーチや実務から得た学びも多かったです。もともと舞台やミュージカルのプロデュースに興味があって芸術計画学科を選んだのですが、このプロジェクトを通じて、今まで知らなかった新しい世界が開けた気がしています。この貴重な経験を、これからの活動に生かしていきたいです。
食に関することが大好きな私は、この場所を初めて訪れた時から「絶対にカフェで何かを形にしたい!」と強く思い、コラボメニューの制作を提案。先生方から「プロジェクト開始時から考えていたが、これまで果たせなかった念願の企画」と聞いて、いっそう意欲が高まりました。最初はパンケーキで試作を重ねたものの、納得がいかず断念。試行錯誤の末にプリンにたどり着き、カフェのプロの方の助言をいただいて完成したのが「発掘プリンアラモード」です。予想以上に反響があり、家族や友人が食べに来てくれて、このメニュー自体が展覧会を知ってもらう入口になったことに、大きな喜びとやりがいを感じました。
プロジェクトを通じて深く体感したのは、人とのつながりの大切さです。仲間や先生、博物館やカフェの方々、地域の方々など、多くの人の本気にふれて、自分ももっと頑張ろうと思えました。当初は不便な場所だなと感じていた「近つ飛鳥」ですが、今では「この特別な地、このメンバー」でなければできなかった最高の経験だったと思っています。支えてくださったすべての方に、ありがとうと伝えたい気持ちでいっぱいです。
芸術計画学科の友人との縁からこのプロジェクトに携わって3年目になります。今回僕が制作した作品「瞑目の景」は、博物館が改装中という特別な状況下で、構想や空間演出も含め初めて自分が主導するという大きな挑戦になりました。これまで写真は被写体を写すものという思いが強かったのですが、展覧会の主題である「見えないもの」を表現するために発想を拡大。先生方からも「もっと自由でいい」と背中を押され、映像や音をインスタレーションに昇華させて、これまでにない作品づくりに取り組むことができました。またキービジュアル撮影や他の作品にも関わり、チームの一員としていろいろな提案をするなど、皆で知恵を出し合って展覧会をつくりあげていく楽しさを実感。これも学科の学びだけでは味わえないものでした。
プロジェクトをきっかけに谷先生や山村先生と親しく交流させていただき、古美術など今まで知らなかった分野にも興味が広がりました。卒業後の進路は、クリエイティブな表現の世界と、ジャーナリズムの分野、いずれかに進めたらと自分の可能性を模索中。領域を超えた取り組みで得たものを糧にして、これからもさらに視野を広げていきたいです。