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大阪芸大Art lab. 特別デザインセミナー『Space In-Between:吉川静子とヨゼフ・ミューラー=ブロックマン』見学ツアー 大阪芸大Art lab. 特別デザインセミナー『Space In-Between:吉川静子とヨゼフ・ミューラー=ブロックマン』見学ツアー

デザイン学科
2025/03/17

2025年1月29日、大阪中之島美術館にて大阪芸大 Art lab.第1回特別デザインセミナー「学芸員の解説付き展覧会鑑賞ツアー『Space In-Between:吉川静子とヨゼフ・ミューラー=ブロックマン』」が開催されました。このデザインセミナーは、同美術館で3月2日まで開催された国際的なグラフィックデザイナー、タイポグラファーのヨゼフ・ミューラー=ブロックマンさんと、そのパートナーで芸術家の吉川静子さんの回顧展を鑑賞できるほか、お二人が大阪芸術大学とどのような関係があったかなどを解説で知ることができる貴重な機会となりました。

大阪芸大に縁ある国際的デザイナーと芸術家の作品背景

「大阪芸大 Art lab.」は、芸術に関心を持つ高校生と大阪芸術大学グループの学生を参加対象とし、美術館での作品鑑賞や解説などを通して、作家、作品への理解や解釈を深めていくというもの。今回は、格子状のガイドラインに沿って図版や文字を配置するデザインの手法「グリッドシステム」を使って数々の名作ポスターなどを発表したヨゼフ・ミューラー=ブロックマンさんと、空気感と瞬間性に重点を置いて制作を進めた吉川静子さんの作品と活動の軌跡を追うことができる内容となりました。

大阪中之島美術館の主任学芸員・平井直子さんの解説によると、ミューラー=ブロックマンさんは1960年に東京で開かれた国際会議に出席するために初来日。そこで大阪芸大の塚本英世初代学長と出会い、その縁から翌年以降、大阪芸大の前身にあたる浪速短期大学で客員教授として何度か講義を行ったのだそう。そんなミューラー=ブロックマンさんの数少ない彫刻作品《黄金分割による7つの部分をもつ柱》(1974/1981 大阪芸術大学蔵)は、大阪芸大の塚本英世記念館・芸術情報センター1階のアートホールに展示されています。

「大阪芸大 Art lab.」は“夜の大阪中之島美術館”で開催。その珍しい機会に参加者の期待感も高まる
平井直子さんは大阪芸術大学蔵《黄金分割による7つの部分をもつ柱》について「貴重な展示作品」だと話した

また吉川静子さんは、浪速短大での講義時などでミューラー=ブロックマンさんの通訳を担当。その後、1967年に結婚されました。静子さんは結婚後、ミューラー=ブロックマンさんの母国・スイスのチューリッヒで暮らし、芸術家として本格的に活動。50年に渡ってチューリッヒを拠点としたことから、日本では知られざる芸術家だったようです。そういった点からも、今回の回顧展でお二人の作品が並ぶのは日本で前例がほとんどないのだと主任学芸員の平井さんは話します。

平井直子さんは「吉川静子さんの作品は色彩と色彩の間の空隙、ミューラー=ブロックマンさんはタイポグラフィーのスペーシングが特徴」と解説

さらに同デザインセミナーでは、デザイン学科講師でグラフィックデザイナーの高田雄吉先生も登壇。大阪芸大卒業生でもある高田先生は、デザイン学科4回生のときにミューラー=ブロックマンさんの講義を受けたと振り返ります。ただ「そのときはミューラー=ブロックマンがこんなにすごい人だとは思わなくて、後々になって感動しました」と苦笑い。しかし「今も自分の創作の中に先生の教えが残っています。先生の作品は理知的な構成なので、これからのグラフィックデザインの創造の糧になると思います」と、自身も浴びたその影響が学生たちの今後にも生かされるはずだと言います。

高田雄吉先生は「学生時代、ミューラー=ブロックマン先生の講義を受けていたときは、こんなにすごい人だと知りませんでした」と振り返る
今回の特別デザインセミナーには高校生、専門学生ら110名が参加(教員含む)
複数の十字模様で宇宙を表現した、吉川静子さんの作品《m465 宇宙の織りもの―流れるように 11》(1995年 吉川静子とヨゼフ・ミューラー=ブロックマン蔵)[左]

実際にお二人の作品を鑑賞した高校生2名は「色づかいがとてもきれい」「今にはない感性が作品に込められている気がしました」と感銘を受けたそう。大阪芸術大学グループの学生2名も「ミューラー=ブロックマンさんの作品は正面から見たり、斜めから見たり、角度を変えて見ることで印象が変わるものが多かったです」「お二人の作品は鑑賞者によって見え方や好みのポイントもかなり異なるはず」と学びがたくさんあったようです。いつまでも色褪せることがないミューラー=ブロックマンさん、静子さんの作品の背景を知ることができるなど、今回の「大阪芸大 Art lab.」は学生たちにとって非常に有意義な時間になったのではないでしょうか。

存在感を放つ、大阪芸術大学蔵《黄金分割による7つの部分をもつ柱》
作品を鑑賞して思いおもいの感想を口にする、大阪美術専門学校の学生と教員
アートとデザインという分野を超え、吉川静子さんとミューラ=ブロックマンさんの活動の軌跡が堪能できる
関係者の証言では、「吉川静子さんとミューラー=ブロックマンさんの没後の大回顧展は世界初である」とのこと
デザイン学科 講師
高田 雄吉 先生

大阪芸術大学の学生時代、ミューラー=ブロックマン先生の講義を受けていました。ただ、在学中は先生のことをあまり存じ上げていませんでした。しかし以降、先生の作品集などを読んだり、作品の方法論やグリッドシステムなどの勉強を続けたりしていくうちに、その教えが自分の創作のベースになっていきました。特にグリッドシステムに影響を受け、自分自身もシンプルかつ理知的なものを作るようになりました。また、学芸員の平井直子さんとお話をしていたのですが、先生が制作したコンサートのポスターデザインを鑑賞し、「音楽は目に見えないものだからこそ、演奏者の写真や名前の文字などの具象を持ってくるより、抽象的な要素でまとめた方が音楽は表現できるんじゃないか」と考えを再確認しました。一方、吉川静子さんの美術作品は、シンプルな面だけで、色、奥行きなどの世界観を作り出しているところに魅力を覚えました。私は数年前にも東京で吉川静子さんの個展へ行きましたが、そのときも造形力に心が惹かれたんです。今回は、そんなお二人の作品を学生の皆さんも鑑賞し、得るものがたくさんあったはず。グラフィックデザインに絞ってお話すると、現在はいろんなソフトが出ていて、複雑にしようと思えばいくらでもできます。でも、何事も骨格をちゃんと押さえておかなければいけません。たとえばミューラー=ブロックマン先生は、「フォントは2種類しか使わない方がいい」と教えてくださいました。私はそれを常に意識しています。2種類というのは「違うフォントを使う」ということではなく、レギュラーとボールドの2種類の太さという意味です。そうやって限定することでシンプルさを得ることができるんです。なんならミューラー=ブロックマン先生には、フォントもサイズも1種類という作品まであります。そういった先生の教えもあり、デザイン学科では2年生の時、幾何学的な図形と文字だけで音楽ポスターを作る課題も設けています。学生のみなさんにはそういうベースの部分を心得た上で、改めて制作を進めていってほしいです。

デザイン学科 グラフィックデザインコース3年
對馬 瑠人 さん

今回の「大阪芸大 Art lab.」はまず、夜の美術館で作品を鑑賞することができるというシチュエーションにワクワクしました。そしてなにより学芸員の平井直子さんの解説で、ミューラー=ブロックマンさん、吉川静子さんの作品の背景を知ることができて本当に良かったです。ミューラー=ブロックマンさんの作品は、すごくグリッドを意識していて、図形の高さなどすべてが整っており、洗練されている印象でした。自分だったら、このようにシンプルにし過ぎると「情報が足りない」という気がして、いろんなものを付け足してしまいます。でも高田雄吉先生も授業でおっしゃっていましたが、綺麗なデザインは情報を絞ることで出来上がるもの。それを再認識できました。また吉川静子さんの作品は、空間が特徴的だったように思いました。これも自分だったら、空間があるとそこを埋めたくなります。つまり空間を作るのも勇気が必要なんです。ただ、余白があることで作品にすごく開放感がありました。吉川静子さんは、そういった余白で作品の流れを作っているのではないでしょうか。今回の「大阪芸大 Art lab.」を通して改めて、自分はどういう作品を発表したいのか考えるようになりました。広島出身ということもあり平和について伝えるデザインを制作したいのですが、そのために、大阪芸大でデザインの基礎を身につけようと思います。

デザイン学科 グラフィックデザインコース3年
久木 理恵 さん

今回のように学芸員の方の解説付きで作品が鑑賞できたのは、貴重な体験になりました。自分ではなかなか調べ切れないところまで知ることもできましたし、作者のバックボーンなどもすごく勉強になりました。今回鑑賞したミューラー=ブロックマンさんの作品の印象は、クールなのに近寄りがたさがないところが不思議でした。どこか温かみが漂っているんです。あと、作品の中で語りすぎていないところにも格好良さがありました。吉川静子さんの美術作品は空間の使い方が特徴的で、平面の作品でも立体や奥行きが感じられます。作品を間近で観ると、筆の跡、絵の具の乗り方が分かり、それらがあの奥行きに繋がっているような気がしました。こういったことは、ネットで作品を見ているだけでは絶対に伝わらないものだと思います。私は2025年春から4年生になり、進路について具体的に考える時期が来ます。ミューラー=ブロックマンさんの作品を鑑賞して改めて思いましたが、デザイナーは自分が作りたいものだけを作るのではなく、相手の要望を聞き入れ、そこで何を求められているのかを考えていかないといけない。これはデザイン学科の先生方もおっしゃることですが、自分らしさはもちろんあって良いのですが、相手に何を求められているのか、それがどのように世間に役立つものなのか、そういった意識を大切にしながらデザイナーの仕事をめざしたいです。