芸術計画学科の学生が大阪・関西万博にて2つのプロジェクトに参加 芸術計画学科の学生が大阪・関西万博にて2つのプロジェクトに参加
大阪芸術大学芸術計画学科の谷悟先生、山村幸則先生のゼミを受講する3年生たちが参加した2つのプロジェクトが9月16日、23日に2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)内で開催。学生たちと両先生や各関係者が練り上げた企画・作品が、16日『南河内 LIVE ART EXPO大阪芸術大学×河南町 ワークショップ「囁く壺 叫ぶ壺 時ノ壺」』、23日『国際連合工業開発機関(以下、UNIDO)×大阪芸術大学×株式会社SPEC フューチャーライフエクスペリエンス』で披露されました。
古代の壺の中に未来に向けたメッセージを秘める
数多くのアートプロジェクトなどを企画している谷先生、そして国内外で美術作品を発表している山村先生。両先生のゼミでは学生たちが日々、アートの可能性や社会的な意義について追求しています。そんな学生たちにとって『南河内 LIVE ART EXPO』、『フューチャーライフエクスペリエンス』は、ゼミでの学びの成果の一つになりました。
9月16日の『南河内 LIVE ART EXPO』は、大阪・南河内の6市町村がそれぞれアート作品を出品・展示する取り組み。「歴史の町」の河南町は大阪芸大とコラボレーション。2024年に河南町・大阪府立近つ飛鳥博物館で開かれた展覧会『応答する遺物 ―土器は忘却に逆らう―』にて、山村先生の手で公開制作された2メートルを超える「時ノ壺 令和大壺」を展示。さらにこの壺を用いて古代と未来を繋ぐという万博ならではのワークショップを学生たちが企画しました。
ワークショップには万博来場者が多数参加。「時ノ壺」の内部に向けて、未来や古代への想いを投げかけました。ちなみにメッセージの発信の仕方は「叫ぶ」、「囁く」、「(木の板や笹の皮に)したためる」のいずれか。参加者は「世界が平和になりますように」という切実な願いから、「古代人の想像力は未来を拓く根源的な創造力になり得るのか」といった難解かつ深い内容まで、さまざまなメッセージを「時ノ壺」の中へ秘めていきました。
またワークショップでは、地球の自転とともに「時ノ壺」をゆっくりと回すパフォーマンスもおこなわれました。同パフォーマンスは、壺の中に貯まった声やメッセージ、そして万博の空気を混ぜ合わせて未来まで保存する意味が込められています。
本プロジェクトの担当者である河南町政策総務部まちづくり秘書課の課長補佐である櫻井浩太氏は「『南河内 LIVE ART EXPO』の目的は、6市町村が万博でそれぞれアート作品を出品し、その後は各市町村でそれを展示して観光資源にし、いろんな人に見に来てもらおうという取り組みです。河南町では大阪芸大の芸術計画学科の学生のみなさんと一緒に企画を作りました。みなさん真剣に取り組んでくださり、盛り上げることができました」と学生たちの奮闘を労い、さらに「来場者のメッセージが込められた「時ノ壺」を今後、万博のレガシーとして責任を持って河南町で展示していきたいです」と話しました。
遠く離れた国や人、そして地球全体に対して耳を傾ける
9月23日~29日の『フューチャーライフエクスペリエンス』では、持続可能な産業開発を支援する、国連の専門機関UNIDOによる開発途上国でも導入しやすい日本発のソリューションが紹介されました。その一つとして、環境への負荷が低い土壌硬化剤「STEIN」を製造・販売する株式会社SPECとのコラボレーションが企画され、STEINを用いたオブジェを大阪芸術大学が制作しました。
会場では、山村先生を中心に制作された作品「地球の耳」を展示。同作品は、地球上に生きるすべての人々、さらに地球自体に対して「耳を傾けること」をテーマにしています。そして実際、作品に耳を傾けると、世界のさまざまな場所から集められた音が聞こえてくる仕組みになっています。それらの音に耳を傾けることで、遠く離れた国や地域、そして出会ったことのない人たちに対していろいろ想いがふくらんでいきます。
また23日には「自然・賢い・手が届く(Natural, Smart & Affordable)」をキーワードに、未来の社会をどのようにデザインするかを考えるステージイベントが催され、「産学連携で共に考える・次世代の循環型社会へのメッセージ」と題したセッションも開かれ、芸術計画学科生たちが登壇。同学科3年生の田畑芹奈さんは「それぞれの人生に耳を傾けるという行為はこれからも続くはず。地球の動き、そして地球上に生きる人々に対して想う気持ちが、世界中で交差するような未来が続いて欲しい」と発表しました。
UNIDO東京投資・技術移転促進事務所のプロジェクト・コーディネーターである松本梓氏は「音を使った表現など、私たちでは思いつかない新鮮なアイデアを示してくれたことに感銘を受けました」と驚きがあったそうで、「耳を傾ける、平衡感覚を大切にするという発想は、環境や社会の声に心を開き、未来の持続可能性を考える上でとても象徴的だと感じました。日本から開発途上国への技術移転を進める立場からも、とても示唆に富んでいるのではないでしょうか」と意義深いものが出来上がったと話されました。
大阪・関西万博開催時のプロジェクトに携わることができるのは、2025年だけ。芸術計画学科生たちが、日本、そして世界の未来のために企画を考え、実現させたこの経験は、今後にきっと生かされるのではないでしょうか。
今回、私は「時ノ壺」、「地球の耳」の制作監修を担当しました。「時ノ壺」は2024年『応答する遺物―土器は忘却に逆らう―』大阪府立近つ飛鳥博物館開催に際し、公開制作を行った作品です。今から約30年前に本校体育館建設工事の際に出土した小さな土器(長頸壺/弥生時代)を元に、古代の道具「叩き板と当て具」を再現し、河南町東山の土を混ぜ、手捻りで高さ2メートル超まで土を締める律動を繰り返しました。古代の生活において穀物や水を蓄えた器物、壺は生命の象徴だったと言えるでしょう。2025年9月16日、大阪・関西万博『南河内LIVE ART EXPO』にて、「時ノ壺」に新たな生命を宿しました。「時ノ壺」に囁き、叫び、思いをしたためるなどの参加型作品として、来場者の肉声は壺中に反響し、刹那の声と思いは積み重なりました。地球の自転を意識し「時ノ壺」を回し、万博の空気と来場者の声を内包しながら混ざり合い、物語は未来へと続いてゆきます。
「地球の耳」は、UNIDOから、発展途上国にて道路建設の際に使用される土壌硬化剤を用いてのオブジェ制作依頼により着手しました。素材選定時、大学から大和川沿いを下った際、かつて、咲洲・夢咲トンネルの掘削工事の際、海底粘土が採掘され、それらが今も舞洲の緑地下に在ることを耳にしました。2024年師走、学生たち、谷先生と現地を訪れ、身の丈程をシャベルで掘り下げ、貝殻混じりの海底粘土を採取しました。2025年春、大阪湾にて夥しい数の貝を採集、習作制作を重ねた先、耳の機能や構造へと関心が繋がり、「地球の耳」の基礎となりました。発案者の左耳を型取りし、鋼材を曲げ溶接し、幅1.5メートル超の骨組みを制作しました。土壌硬化剤を混合した海底粘土を学生たちと骨組みの上に手で丹念に塗り重ね、「地球の耳」を成形してゆきました。その実現への過程では、本校、工芸学科陶芸コース、金属工芸コースに多大なご協力を頂きました。
「時ノ壺」では身体から声を発する行為、「地球の耳」では耳を傾けるという行為、発声に対する傾聴。古代から現代、そして未来へと。「時ノ壺」、「地球の耳」は何れも2025年、本国開催の万博だからこそ創出に至った表現だと思います。
学生たちの熱心な取り組みと持続力、挑戦し乗り越えた過程、芸術計画の探求が、未来の輝きの派生に繋がることと信じます。
プロジェクトを始めるにあたり、まずはメインとなる「時ノ壺」と向き合うことになりました。脚立を使って、巨大な壺の中を覗き込み、メンバーの1人が「こんにちは!」と叫んだのです。それがワークショップ「囁く壺 叫ぶ壺 時ノ壺」のスタート地点になったと思います。たくさんの古墳が点在する近つ飛鳥風土記の丘(河南町)を歩いていると美しい緑や木漏れ日に心動かされることがあり、古代の人々もきっと感動していたのでは、と時代を超えた視点のリンクを感じることが多々あります。今回の取り組みは万博に訪れた皆さんの声や想いが、河南町の大地の記憶を宿した「時ノ壺」の内部へと取り込まれていきました。その様子を見つめながら、河南町で日頃感じる、古代と現代が溶け合うような感覚がそっと胸の中に広がっていくようでした。ワークショップの構想に併せて、使用する物品もコンセプトに合うように準備していきました。プラスチック丸出しのヘルメットには麻布を纏わせ、刺繍を施し、来場者がメッセージをしたためる際に使用するバインダーは、大学に捨てられていた木材を再利用して制作。古代のイメージに合うようにできるだけ自然物で小物を揃えていきました。そんな私が芸術計画学科での学びを通して大事にしているのが、どんなものにも「記憶」があるということ。山村先生はいつもこうおっしゃるんです。「佐藤さん、その土を無駄にしたらいけないよ」って。土、紙、どんなものにも想いが必ず宿っている。物を簡単に捨てることは減りましたし、今まで目に留めなかったいわゆる「ごみ」も愛おしく、魅力的に思えてきます。そうすると生活も豊かに感じられるようになりました。そのような学校での学びや今回の経験などを生かし、今後はアート系の企画をプロデュースする仕事をめざしたいです。そしていろんな物作りをしている人たちに出会いたいです。
谷先生、山村先生、同級生たちとプロジェクトの企画を出し合う中で、私は「出会ったことのない遠くの人たちと交信するにはどうすればよいのだろうか」と考えました。それが「地球各地で生活している人たちの状況に耳を傾ける」というコンセプトに結びつきました。作品を台ではなく、地面に直接、設置したことにも理由があります。実際の耳は、体内に向かって外耳道と呼ばれる管が伸びています。それと同様に「地球の耳」は地面に向かって各地へと意識を行き渡らせるように道が伸びていくことを表現できるのではないかと思いました。一方で耳は聞くだけではなく、平衡感覚を保つ機能も担っています。今、私たちは様々なデジタルの媒体を通して世界各地で起こる多くの出来事をすぐにみることができます。それはとんでもない量の情報にさらされ、それを受け取った私たちは整理がつかないままの状態で流し見していることになってしまっているのです。私たちは一度、じっくりと想いを馳せ、考える時間が必要だと思いました。「地球の耳」は、そんな時間を少しでもつくるための媒体になれば良いなと思います。何かのメッセージや訴えを届けるということは、たまに過剰にもなりますが、作品として届けることで、柔らかく受け取りやすいメッセージになるのではないのかと思いました。私は今後、この経験を生かし、リサーチ力と言語力をより高めることで、多くの人たちに魅力的な場づくりやイベントを届けることができればと思っています。