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作品が生まれる舞台裏を見に行こう
【ヴァイオリニスト 川井郁子】
作品が生まれる舞台裏を見に行こう【ヴァイオリニスト 川井郁子】

演奏学科 / その他
2021/06/11

世界三大ヴァイオリンのひとつとして数えられる名器「ストラディバリウス」。これまでのオークションでの最高落札価格は、なんと約12億7500万円。一体なぜ、ひとつの楽器に対してこれほどまでの値段がつくのだろうか。世界的なヴァイオリニストであり、自身でもストラディバリウスを弾く川井郁子先生に伺った。


撮影:井上 嘉和 photographs:INOUE YOSHIKAZU

川井郁子は、なぜストラディバリウスとともに音楽を楽しむのか?

弾くほどに磨かれる音色


ストラディバリウスは、イタリアのクレモナ(※1)に住む楽器職人アントニオ・ストラディバリ(※2)によって製作された楽器の総称。一説によると1200挺ほどの楽器が製作され、そのうちの600挺ほどが現存しているという。なかでもヴァイオリンは、オークションに出品されると億を超える金額で落札されることもある。


ストラディバリウスとの出会いは運命的だった 


川井郁子先生が使用するストラディバリウスは、大阪芸大所蔵のもの。ストラディバリの黄金期(※3)とも言われている1715年に製作されたものだ。この楽器との出会いは運命的だったという。


「大学でヴァイオリンを購入するというので足を運んだところ2挺置いてあって、好きな方を選んでくださいと(笑)。そこで弾き比べをして選んだのが、ストラディバリウスだったんです」 


多くの演奏家から憧れの眼差しを向けられるこの楽器。その魅力は一体何なのだろうか?


「まず音の肌触りが違います。倍音が伸びるというか、遠くまで飛んでいくような感覚がします。身体に伝わってくる振動音もほかのヴァイオリンとは違いますね」 


とはいえ、なかなか言うことを聞いてくれない日もあるとか。


「これもストラディバリウスの特徴なんですが、簡単に弾きこなすことができないんです。“ストラディバリウスはヴァイオリンの弾き方を教えてくれる”と言われることもあるのですが、音を出すのが難しく、一般的には慣れるまでに半年〜1年はかかると言われています。でも、うまく音を出せるようになると、格式高いシルクのような音色を奏でてくれます」


ストラディバリウスを特別な存在にするものとは? 


まるで生き物のようなストラディバリウス。その音色は、オーケストラのなかだとさらに際立つという。周りとも調和が取れるし、グッと前に立つこともできる。主役のような存在なのだ。では、具体的に何が特別なのだろうか?


「ヴァイオリンの音を決める要素のひとつにニスがあるのですが、ストラディバリは徹底した秘密主義を貫いていて、現代の科学技術でもどのような成分のニスを使っていたのか解明できていないと言われています。しかも、彼には後継者がいなかったのでニスの秘密は永遠に解き明かされないかもしれません。


次に、製作されてから長い年月を経ていることも挙げられます。ヴァイオリンは経年によって水分がなくなり、音色も変化していくのですが、完全に乾くまでに200〜300年は必要だと言われています。ですから、現代になってストラディバリウスの音色は完成したと考えていいと思います。


そして最後に、ストラディバリがつくったものだということ。生前、ストラディバリは数々の名器を生み出してきました。そんな彼の手によって製作されたものを弾きたいと思う人は数多くいるんです」


※1 16世紀に楽器製造の中心地として栄え、ヴァイオリンの聖地とも呼ばれている

※2 1644年に生まれたとされているがその真否は定かではない。彼の師であるニコロ・アマティも優れた弦楽器職人として知られている

※3 ストラディバリウスのなかでも1700~1725年に製造されたものは、とくに優れていると言われている

●かわい・いくこ ヴァイオリニスト。大阪芸大演奏学科教授。世界的音楽家たちや他ジャンルのアーティストたちと数多く共演。2008 年、ニューヨークのカーネギーホールでアメリカデビュー。13年、映画『北のカナリアたち』で第36回日本アカデミー賞最優秀音楽賞を受賞。15年、パリ・オペラ座でフランスデビュー。

ストラディバリウスの 音色を堪能できる
川井郁子の5つの作品

『LINK 〜Best of Ikuko Kawai〜』デビュー15周年記念したベストセレクション。ストラディバリウスのさまざまな表情を堪能できる一枚に仕上がっている。全16曲を収録。 発売中/ビクターエンタテインメント/¥3,000+税
『The Melody 〜100年の音楽』誰もが知るスタンダード楽曲をこのアルバムのために新たに編曲して録音。情熱のヴァイオリンが奏でる懐かしのメロディに思わず心が高鳴る。 発売中/ビクターエンタテインメント/¥3,000+税
『Violin On Ice』世界中のフィギュアスケーターに愛される川井郁子の楽曲の数々。そのオリジナル音源を中心に収録したスペシャルベスト。 発売中/ビクターエンタテインメント/¥2,500+税
『北のカナリアたち』2012年に公開された映画『北のカナリアたち』のオリジナル・サウンドトラック。第36回日本アカデミー賞で最優秀音楽賞を受賞。 発売中/ビクターエンタテインメント/¥2,500(税込)
『REBORN リボーン|上・(通常盤)』定番のクラシックを斬新なアレンジでドラマティックに展開させるなど川井郁子の魅力が満載のデビュー10周年アルバム。 発売中/ビクターエンタテインメント/¥3,000+税