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伝統技術とデジタルアートが融合した「新・菊人形展」 伝統技術とデジタルアートが融合した「新・菊人形展」

アートサイエンス学科 / 産官学連携
2023/02/20

大阪・枚方市のひらかたパークで秋の風物詩として長年親しまれてきた「ひらかた大菊人形」が、官民連携の新プロジェクトへ進化。2022年11月18日~12月3日、枚方市総合文化芸術センターにて「ひらパー×ネイキッド×枚方市 新・菊人形展」が開催されました。

このプロジェクトで、大阪芸術大学アートサイエンス学科の学生たちとクリエイティブカンパニー NAKED, INC.(以下ネイキッド)がコラボレーション。最新のテクノロジーと融合した新解釈の菊人形を展開しました。

プロジェクションマッピングで幻想的な世界を描く新感覚の菊人形

ひらかたパークで約100年にわたって開催されてきた「ひらかた大菊人形展」は、2005年を最後に閉幕。その後2018・2019年と、ひらかたパークとネイキッドの協働によって、菊人形イベントが行われました。そして2022年、ひらかたパーク開園110周年を機に、枚方市も加わり地域が一体となった文化創出プロジェクトとして、「新・菊人形展」が新たにスタートしました。


今回、菊人形という伝統文化を新しい時代に即した形にアップデートし、若い世代にも広く知ってもらうことを目的に、アートサイエンス学科の学生たちが参加。ネイキッドのクリエイティブディレクターで同学科でも教鞭を取る川坂翔先生の指導のもと、菊人形に投影するプロジェクションマッピング作品を制作しました。

コンテンツを組み立てるにあたって、学生メンバーたちは菊人形の歴史からリサーチ。ひらかたパークの岡本敏治園長や、菊人形を作る職人「菊師」の方からお話を伺う機会もあり、伝統を未来へ受け継いでいくことの大切さをふまえながら、全員で構想を練っていきました。

話し合いを重ねて創りあげたのは、氷の世界で眠っていた菊人形が、美しくよみがえって新たな未来へ向かうというストーリー。この物語に即した世界観を表現する映像や音楽を制作し、ドラマティックな作品を仕上げました。


会場内には、「菊人形は等身大のもの」という既存のイメージを打ち破る、過去最大スケールの「大・菊人形」が登場。雪の情景や鮮やかな花々、氷の結晶や花びらなどの映像が投影され、壮大な音楽が雰囲気を高めます。伝統技術と最先端テクノロジーの融合によって、幻想的な世界が織りなされました。

 また、自分の顔が菊人形の顔に写し出される「パーソナル菊人形」も実施。来場者自身が作品の世界に溶け込み、菊人形をよみがえらせるような感覚で、パーソナライズなアート体験を楽しめる機会も提供しました。

所定の位置に立ち、画面の指示に従って顔認証させると、前方の菊人形の顔に自分の顔が映し出される

今回の催しでは、これらの「新・菊人形エリア」に加えて、過去の映像や写真などでこれまでの歴史を紹介する「菊人形の歴史エリア」、なりきり菊人形や菊人形の制作過程にある人形の「下絵」を使った塗り絵体験、菊師の実演ライブなどを楽しみながら体験・鑑賞できる「未来の菊人形エリア」も設置。様々な角度から菊人形の魅力を発信し、文化の継承と地域活性化につながるイベントとなりました。

そのほか、イベントの様子やインタビューがNAKED, INC.公式YouTubeチャンネルにて公開されています。

「菊人形の歴史エリア」の巨大年表
未来の菊人形を想像して描く塗り絵コーナー
アートサイエンス学科 講師
川坂 翔 先生

アートサイエンス学科では、これまでにあべのハルカスの展望台や大阪中央公会堂など数々のプロジェクションマッピング制作に関わっています。今回の作品では、どうすれば菊人形を幅広い世代の人に楽しんでもらえるか、伝統ある菊人形にはどんな映像や音楽がふさわしいかを追求し、由来や歴史なども調査してプランニング。ただ感覚的な面白さだけでなく、そうした研究に裏打ちされたテーマ性を持つ作品になったと思います。
実制作も全て学生が担当しましたが、一般の方に有料で見ていただくイベントですから、当然それに見合うクオリティが必要。限られた時間の中で意図した作品をしっかりと完成させるという体験からも、多くのことを学べたのではないでしょうか。

今は誰でも色々なコンテンツを作って発信できる時代。AIも台頭し、作品との差別化がますます難しくなってきています。そこで重要なのがコンセプト。何をどんな思いで伝えるかという本質がしっかりしていなければ、人の心には響きません。
アートサイエンス学科でも、特に低学年次ではコンセプトワークに比重を置いて学修し、授業や実践的なプロジェクトによって、その重要性を理解していきます。そのプロセスの上に、学年を重ねるごとに修得したスキルを活用していくからこそ、出来上がる作品の質が変わってくるのです。

ただ、技術や自動化が進んだことで、この世界への間口が広がったのも事実。芸術大学を志す場合、絵画や音楽など一定レベルの素養が必要な分野も多いですが、アートサイエンス学科ではそのハードルは低く、色々なバックボーンを持つ人が一からスタートしやすいと思います。興味があれば臆せず飛び込んで、自分の思うジャンルを開拓していってほしいですね。

アートサイエンス学科3年生
二宮 京也 さん

最初は「菊人形」についてイメージがわきにくかったのですが、調べていくうちに知識も興味も拡大。ひらパーの園長さんや菊師さんのお話を伺い、実感を持ってコンセプトを考えることができました。知らなかったものに触れ、作品に反映させていくのは面白かったです。
実作業では、僕ともう一人のメンバーの2名で映像制作を担当しました。建物に投影するプロジェクションマッピングとは違って、映像に目が行き過ぎると「菊人形」の意味がなくなってしまうし、ただ光を当てるだけでは作品にならない。その兼ね合いが難しかったです。時間的にもハードで苦心しましたが、最終的にきれいな作品に仕上がったと思います。荘厳な雰囲気に演出された大菊人形を大勢の人に見てもらって、「おおっ」と驚いてもらえたら嬉しいですね。
ネイキッドという一流のクリエイターカンパニーの方々と一緒に作業を進めることができたのも、とても勉強になりました。データの受け渡しなどちょっとした点でも、学生のモノづくりとの違いを実感し、プロの現場を実際に体感することができました。
もともと映像を観るのも作るのも好きでしたが、かつては慎重派で、なかなか行動を起こせないタイプでした。でも、少しでも興味がわいたら実際にやってみて、「やらなかった後悔」をなくしていきたいと考えるように。普通の大学ではなく大阪芸大のアートサイエンス学科を選んだのも、「好きな分野に近づき、いろんなことをやってみる」というチャレンジです。これからも前向きな精神で、様々なプロジェクトなどに積極的に取り組んでいくつもりです。

アートサイエンス学科3年生
大石 高久 さん

小学校の頃から日本の歴史や文化が大好きで、関心を持っていました。今回、菊人形という伝統ある催しを新しくよみがえらせるというプロジェクトがあると知り、文化の継承に少しでも貢献できたらという思いで参加しました。
僕が担当したのは、プロジェクションマッピングの音楽や効果音です。「氷の菊人形」というテーマや世界観を表現するにはどんなサウンドが適しているかを考え、和風の音楽で日本らしさを印象づけるか、それとも電子音楽で新しさを強調するかのバランスの取り方など、非常に悩みました。他のメンバーと一緒に、それぞれが制作したサウンドを持ち寄り、意見交換しながらブラッシュアップ。授業や行事などの合間を縫って、短期間のスケジュール内に仕上げるのも大変でした。でもあれこれ試行錯誤しながら難題を解決していくのは楽しかったです。
映像と音楽を合わせたプロジェクションマッピングを実際に菊人形に投影して、完成形を自分の目で見た時は、とても感動しました。テーマに合致して多くの人に良いと思ってもらえる音楽とはどういうものか、実際に制作しながら突き詰めることができて、一歩成長できたと感じます。
将来はゲームクリエイターとして、「本当に面白い!」とたくさんのユーザーに楽しんでもらえるゲームを作るのが夢。アートサイエンス学科で技術だけでなく発想力や構想力を磨き、このプロジェクトでの経験もいかして、目標に近づきたいと思います。