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現代陶芸のパイオニア・林康夫先生の特別講義 現代陶芸のパイオニア・林康夫先生の特別講義

工芸学科 / 特別講義
2026/09/04

2026年7月3日、大阪芸術大学芸術情報センターにて、現代陶芸の先駆者として知られる陶芸家・林康夫先生の特別講義が開催されました。6月22日〜7月9日に開かれた「令和8年度 大阪芸術大学所蔵品展 林康夫─現代陶芸のパイオニア」にあわせて企画されたもので、林先生自身が展覧会場で制作の背景や思いを語るギャラリートークを実施。あわせて学生作品の講評会も行われ、世代を超えて陶芸の未来へバトンをつなぐ交流の場となりました。

展覧会のポスター・チラシは、デザイン学科グラフィックコース3年生の北橋千晴さんが制作
林康夫先生の作陶80年の歩みが紹介された展覧会

学生たちに贈る、表現の原点を見つめ直すメッセージ

今年98歳・作陶80年を迎えた林康夫先生は、戦後の前衛陶芸の草分けとして活躍し、現在も制作活動を続けておられます。大阪芸術大学では1968年から31年間にわたって後進の指導にあたられました。

今回の特別講義に先立って、「いま陶芸を学んでいる学生たちと直接話したい」という林先生の希望により、アートホールで学生作品の講評会が行われました。会場には、自由造形を中心に、2年生から大学院生までの多彩な作品が並びました。

工芸学科陶芸コースや大学院で学ぶ学生たちの個性豊かな作品が並んだ講評会

林先生は一つひとつの作品を見つめながら、「人の真似ではなく、自分の中から引っぱり出す努力をしないといけない」「最初に浮かんだアイデアを大切に、人にはできないことを追求すること」と、創作の出発点について力強く語りました。


素材の選択や造形の大胆さ、ろくろの可能性など、それぞれの作品に応じた視点から、次の制作につながる助言を贈ります。陶芸を専攻したばかりの2年生には、「なぜ陶芸を選んだのか。その理由をしっかりと考えて」と、表現の根本を問いかけました。


さらに、焼き物の歴史や材料研究についても話題が広がり、「焼き物の範囲は決まっていない。材料や使い方の研究次第でもっともっと広がる」「本当にやりたいことを、とことんやりなさい」と、探究する姿勢の大切さを強調。厳しさの中にも温かさを感じさせる言葉の数々が、学生たちの胸に深く刻まれていました。

若い頃の体験を交えながら、学生たちへ真摯に語りかける林先生
「作品は精神の現れ。一生をかけたいと思うなら“自分の仕事”をやりなさい」。先生の熱いエールをまっすぐ受け止める未来の陶芸家たち

作品とともにたどる80年の創作の歩み

続く特別講義は、展示ホールへ場所を移し、ギャラリートーク形式で行われました。歴代の教え子である卒業生を含め、100名以上もの参加者が来場。林先生を見つめる真剣なまなざしで会場の熱気が高まります。

今回の展覧会では、林先生が令和6年度に本学へ寄贈した初期から近年までの34点を展示。兵庫陶芸美術館学芸員で本学教員のマルテル坂本牧子先生の進行のもと、作品を前にしながら、制作の背景となった時代性や当時の心情が語られました。

マルテル坂本牧子先生が進行役となり、会場を巡りながら林先生自身が作品を解説

1940年代の初期作から1950~70年代の作品が並ぶコーナーでは、陶芸家として歩み始めた経緯が紹介されました。特攻隊として出撃直前に終戦を迎え、戦後の混乱の中で自らの表現を追い求めてきた林先生。西洋の芸術思想にも影響を受けながら、従来の陶芸の枠を超えた造形を模索してきた軌跡が語られ、創作への情熱あふれる言葉が参加者を惹き込みます。

現代陶芸の歴史と重なる林先生の創作の歩みが、時代背景や様々な逸話とともに語られた
形の可能性を追求し、初期にはユーモラスで柔らかな造形のオブジェ作品も制作された

1980年代の黒化粧シリーズの作品の前では、戦時中の夜間飛行訓練に着想を得たという制作秘話を披露。立体が平面に見えたり、突然深い奥行が現れたり、直線が実は曲線であったりという「錯視」を取り入れた3次元構成の独創的な表現は、国際的にも高く評価されています。

当時の作品の一つが英国の大英博物館に収蔵され、2026年2月~5月に開催された「サムライ」展に出品されたエピソードも紹介されました。

闇の中を飛ぶ飛行訓練体験から「錯視」をともなう独創的な表現が生まれた経緯を解説
黒の表面に白い線を走らせ、高度な次元操作を取り入れたシリーズは、海外でも数多く受賞

2000年代の「寓舎(ぐうしゃ)」シリーズでは、家を思わせる箱状の造形に、人生の無常や真実へのまなざしが込められています。ごく限られた材料や技法を用いて、創造性豊かな唯一無二の表現を追求。その姿勢は東日本大震災で被災した浪江町をテーマにした作品にも息づいており、林先生が折々の社会の変化や出来事をどのように創作へ昇華してきたかを伝えています。


学生から「作品づくりにあたって最も大切にしていることは」と問われた林先生は、「作りたいから作っている。自分で問題を見つけることが大事」と回答。制作の本質を突く言葉が次々と語られ、予定時間を大幅に超えて続いた特別講義に、参加者たちは最後まで熱心に耳を傾けていました。

「この世は仮の宿。人間はどう生きるかが大切」というテーマを“たたら”技法で表現した「寓舎」シリーズ
学生との質疑応答では、創作に向き合うひたむきな姿勢があらためて強調された

同展では、愛用の制作道具やスケッチが初公開されたほか、オブジェ作品以外の実用食器なども出品されました。工芸学科陶芸コース研究室や卒業生の協力のもと、貴重な資料を含む内容の濃い展示が実現。作家自身のギャラリートークによる特別講義も初開催となり、林先生の創作の足跡を多面的にたどる記念展となりました。

大阪芸術大学で31年間教鞭を執られた林先生。在職当時の写真も展示された
学生から感謝の言葉と花束が贈られ、「このような日が来るとは夢にも思わなかった。大感激です」と笑顔を見せる林先生
11号館ロビーに設置されている林先生の作品「浩々歌(こうこうか)」前での記念撮影
大学院芸術研究領域 芸術制作専攻 陶芸2年生
増子 僚さん

僕は学部時代には仲間と切磋琢磨し、先生方に手厚く指導していただきながら制作を続け、現在は大学院でより自由な作品づくりをめざして研究を進めています。そんな中、陶芸コースの立ち上げに関わられた林先生が、長い年月を経て再び僕たち学生の作品を見てくださったことは、自分の制作を根本から見つめ直し、今後の方向性を再確認する大きな機会になりました。先生のお言葉はどれも重く、他の学生へのお言葉も自分自身に向けられているように響きました。
実はこの展覧会を会期中に何度も鑑賞したのですが、どの作品も素晴らしく、展示内容も濃密で、訪れるたびに圧倒されました。特に黒化粧の作品「波形の如く 86-A」は、どこから見ても美しく、先生の手でしか生み出せない豊かな表情に魅了されました。
特別講義では、解説文だけでは伝わらない当時の心情や熱量を、先生ご自身の言葉で伺うことができ、作品への理解と感動がさらに深まりました。この度先生の貴重なお話をお伺いして、今後制作を続けていく中で、いつか「こういうことだったのか」と腑に落ちる瞬間が必ず来ると思っています。今なお現役で陶芸を続けていらっしゃる先生の姿を少しでも追いかけながら、自分も誰かの背中を押せるような、前向きな作品を生み出していきたいです。

五感の中の「触覚」をテーマにした増子さんの作品『new beginning -03』。「とことん悩んで、自分にしかできない“触覚”を導き出して」と林先生からエールが贈られた
工芸学科 陶芸コース 4年生
辻本 楓さん

講評会では、林先生のお言葉の一つひとつが、まっすぐ胸に届きました。中でも印象に残っているのは「女性だからといって小さくなる必要はない。もっとダイナミックにやればいい」というメッセージ。卒業制作で大きな作品に挑戦したいと考えていた私を勇気づけていただいたようで、とても心強く感じました。また、ろくろ作品について「中心線は一本じゃなくていい」というお話からは、従来のこうあるべきという固定観念が取り払われていくような気づきも。自分の個性を信じて、もっと自由に力強く、のびのび制作していこうと決意が固まりました。
作品の背景にある歴史や思想をお聞きできたのも貴重な経験でした。98歳とは思えないほど情熱的に制作への思いを語られる姿は、本当にかっこよかったです。作品の力強さとともに、長く作り続けることの尊さや、表現に向き合い続ける姿勢に、心を動かされました。
もともと私は教員志望だったのですが、今は制作そのものの楽しさに惹かれ、将来の方向性を探っています。大阪芸術大学の陶芸コースには、先生方が学生一人ひとりの個性を尊重し、それぞれのやりたいことを支えてくださる環境があります。陶芸を志すなら、誰もが自分らしい表現を磨くことのできるこの場所で、ぜひ全力で挑戦してほしいと思います。

辻本さんがろくろで制作した作品『漂う』。技術面の助言に加え「女性としてではなく、ひとりの人間として表現すればいい」という林先生の言葉が大きな励ましに