墨絵と細密画に通じるもの
多くの美大の絵画専攻では受験で作品提出が求められるので、作品がない僕はデザイン系を選択。大阪芸術大学デザイン学科に無事入学できました。
入学後は、対象を細部まで徹底的に描く細密画に熱中しました。今の墨絵とはまったく異なるタッチです。けれど、このときの経験が今の自分をつくっていると感じます。
1枚の墨絵はわずかな時間で描きますが、それは筆の流れや墨の濃淡、かすれ具合など、一連の流れを納得のいくものにするまでひたすら繰り返して描いた末のこと。50枚のこともあるし、100枚を超えることもあります。細部を追求しながら地道な作業を続けた先に生まれる作品という意味では、細密画と墨絵は僕のなかでとても似た表現手法なのです。
自分にとって絵がかけがえのない存在であると気づくことができ、そして、絵に没頭できた10代は、今の僕の確かな土台になっているのです。
●茂本ヒデキチ(しげもと ひできち) 1957年愛媛県生まれ。イラストレーター。大阪芸術大学デザイン学科卒業。大阪芸術大学デザイン学科客員教授。デザイナーを経てフリーイラストレーターに。「墨」によるドローイングを得意とし、スピード感のあるタッチでミュージシャンやアスリートなどを描く。寺院の壁画制作やライブペイントの活動も積極的に行っている。