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evala客員教授によるプロジェクトベースドラーニングの授業を実施、実験ドームで新作を披露 evala客員教授によるプロジェクトベースドラーニングの授業を実施、実験ドームで新作を披露

音楽学科
2023/05/02

2022年12月22日、音楽家・サウンドアーティストであり音楽学科 客員教授のevala先生による2022年度の授業が最終日を迎え、実験ドームでプロトタイプ作品が披露されました。音楽学科 音楽・音響デザインコース2〜4年生の学生を対象に年間を通じて開講され、参加した学生たちは、evala先生の作品制作に触れられるプロジェクトベースドラーニングの授業を受けました。4月から数回にわたり行われてきた授業でサウンドアートの背景知識や技術への理解を深め、evala先生の新作制作プロセスの一連を間近で見て学び、最後に完成した作品を鑑賞しました。

年間を通して行われた、サウンドアートの基礎知識から
ハンズオン制作実習、プロジェクトベースドラーニングまで

受講生たちは、4月から11月まで実施された授業で、講義および作品体験を通じてサウンドアートの成りたちから現在までの歴史や最新事例を学び、未来の作品や楽曲について、それが音楽・美術界にどのように生かされるかを考えました。


9月には3日間の集中講義が行われ、evala先生に加え、See by Your Earsのテクニカルディレクター久保二朗氏を招き、立体音響や空間オーディオ技術を駆使してevala先生が提唱する「空間的作曲」とは何かを、アーティスト/サウンドエンジニア両視点から学ぶ機会が設けられました。1日目に空間的作曲のためのサウンドエンジニアリングの講義、2日目にハンズオン制作実習が行われました。実習ガイダンスでevala先生から音源が配布され、レコーディング音の説明の後、学生たちは音源素材を準備して空間音響作品制作を開始。3日目に順次、調整室で8chモニター再生を行い、最後に実験ドームで全員の作品の鑑賞会が実施され、受講生1人ずつ発表し、講評を得ました。


そして学生たちは、12月の集中講義「プロジェクトベースドラーニング」で、evala先生の作品制作現場を間近で見た後、実験ドームで披露された新作を鑑賞。

年間を通して立体音響の最前線について学びました。

薬師寺で行われたサウンドインスタレーション“Alaya Crossing”を実験ドームのためにリアレンジ

evala先生は、2022年7月に、古都奈良の文化財の構成資産の1つとして世界遺産として登録されている薬師寺で初演されたサウンドインスタレーション「Alaya Crossing」を、大阪芸術大学の実験ドームのためにリアレンジ/ミックスしました。「Alaya Crossing」は、薬師寺の「阿弥陀三尊浄土図」を中心に、14面全長50mにわたる壁画「仏教伝来の道と薬師寺」が祀られた食堂(じきどう)を会場に披露された、evala先生が主宰するSee by Your Earsによる音と光のインスタレーションです。最新鋭の立体音響に全身をつつまれながら、おぼろげに仏画と光が融解して立ち現れる、幻想的で幽玄な時空間をつくり出しました。プロジェクトベースドラーニングでは、薬師寺の空間と共振するように制作された作品を、プロトタイプ作品「Alaya Crossing – Come ver.」として半球型ドームシアターを生かした音・映像・照明によって新たに表現しています。

薬師寺で行われたサウンドインスタレーションには、自由参加型の授業として学生たちも訪れました。evala先生は、「別の場所で作られ、社会的に発表された作品を実験ドームの中に入れるとスケール感が違い、同じものにはなりません。2つの異なる体験をすることで学生たちに、別の世界観が生まれるということを体感してほしかったという思いがあります。薬師寺では、広い空間で巨大な仏画と光に音が連動するというインスタレーションが行われましたが、実験ドームでは映像や照明を使って、仏画ではない形で世界観を表しました。また、普段の作品制作では別のツールを使いますが、夏の集中講義で使用した立体音響システムを使ってリアレンジしました」と話します。

半球型サウンドシアターとしての機能を持つ実験ドームで披露された「Alaya Crossing – Come ver.」は、暗闇の中に一筋の光が現れたかのようなサウンドが空間全体に広がりスタート。ドームの天井には、美しい深緑と淡く白い光が音色に合わせて形状を変え映し出されます。時折、四方から強い光が放たれ、宇宙空間を感じさせるような場面へと切り替わるなど、全天周映写された映像が変化。静かな浮遊音をベースに、風や木々、水、鳥など動物の鳴き声かのようにも聞こえる自然を彷彿させるサウンドに加え、寺院の鐘や錫杖に似た音色などが響きわたり、耳だけでなく、体全体で感じることができます。学生たちは、寝転がって天井を見上げたり、目を閉じたり、ドーム内をゆっくりと歩き回るなど、思い思いに体勢を変えて天井に映し出された映像や音の感じ方の違いなどを体感しました。

久保氏は、「薬師寺は、横に広がる空間ですごく音が響く環境でした。上の方に広がるきれいな響きに、さらに部分的に響きを足していきましたが、半球型ドームシアターではその響きが反射してしまうため、イコライザーにより距離のスケーリングを伸ばすことでその反射を避けるようにアレンジしています」と話します。また、evala先生は、「音色を触るというよりも、音の響きをアレンジすることで、横長の立体音響だったものを組み直し、半球体の中でどのように聞こえるか、空間の違いに重点をおいてリミックスしました」と続けました。

1981年に設立された実験ドームは、2022年4月に音響改修が行われリニューアル。その改修の総合ディレクションを手がけたのがevala先生です。創立当初の機構を最大限に生かし、ドーム型環境において極めて高い表現が可能となる、最先端の17.4ch立体音響システムを導入。2023年には、さらに映像システムや照明がアップデートされ、最先端の実験スペースとしてドームシアターから新しい試みが発信されていきます。

音楽学科 音楽・音響デザインコース 客員教授
evala先生

夏の集中講義では、音楽の道を志し、作曲活動などを行っている学生たちに、普段触れることがないツールを使って立体音響作品を制作してもらいました。音源をあらかじめ配布し、それをどのように組み合わせても良いので自由に制作してもらうというものでした。「粘土を配るから、それを好きな形にしてみて」というような、動く彫刻を作るイメージです。ハンズオンでの制作実習の翌日に、学生1人ひとりの作品を実験ドームで発表した際、そんな発想があるのかなどさまざまな発見があり、すごくおもしろかったです。同じ音の素材を使用しているため、どうしても似通ったものが多くなるのではという予想もありましたが、突拍子もない独特なアレンジをする学生もいました。ユニークな視点で大胆なことをやってみることが大事だということが学びになったという学生たちの感想も多く寄せられました。そして、冬の集中講義では、私の作品の制作過程を見てもらい、薬師寺で行われたサウンドインスタレーションのプロトタイプ作品を披露しました。
2023年度は、50年ぶりに実験ドームの映像システムと照明が総入れ替えされます。これからの授業でも実験ドームを活用し、自分自身の作品をインストールしながら、空間音響をベースとして従来の作曲家が触れていないような創作の方法や活動をシェアしていきたいと思っています。

江口 智也 さん
音楽学科 音楽・音響デザインコース 2年

イヤホンやヘッドホンなど耳から音を取り入れるのではなく、空間的に音楽がどのように感じられるのか、それを突き詰めているevala先生やSee by Your Earsの皆さんの観点について興味があり、立体音響や空間オーディオについてevala先生から学べるということで、この授業を履修しました。evala先生の作品を体験した時はもちろん、9月に行われた集中講座の制作実習では、実験ドームや調整室で自分たちの作品を耳で聞くというより体で感じることができました。
実験ドームという最新設備を整えた環境で、第一線で活躍するプロの方々から空間音響やサウンドアートという分野の最先端を学べるということは、とても貴重で特別なことです。空間音響だけでなく、普段自分たちが聞いている音楽など、音そのものに対する価値観や考え方が変わりました。制作実習では、これまで2ミックスで作っていた音楽を、360度音を配置することで立体的に制作するという過程がとても新鮮でした。配られた音源をどう配置し組み立てていくのか、出来上がった音が実験ドームではどのように感じられるかなど体感することができました。また、他の人たちの作品を聞いて、違うアプローチの仕方があったなど刺激をもらえたので良かったです。
evala先生の作品は、映像と音のリンクが印象的でした。もちろん音だけでも十分に体感できるのですが、映像と組み合わさることで、より幅広い表現が可能になると実感しました。今年度の授業だけでは、まだ空間音響の氷山の一角というか、少しかじれた程度だと思うので、また機会があればevala先生の授業を受けたいです。

山田 茉安咲 さん
音楽学科 音楽・音響デザインコース 3年

私は、2021年まで他の大学の演奏学科でサックスを専攻し、サックス奏者をめざしていましたが、将来は音楽に関する裏方の仕事に就きたいと考えるようになり、3年生から大阪芸術大学の音楽・音響デザインコースに編入しました。まず驚いたのが、実験ドームなどすばらしい設備が大学内にあることです。そして、evala先生のような第一線で活躍している方々の授業を受講できる点も、すごいことだと思いました。
9月に行われた集中講座では、これまで使用したことがないサウンド編集ソフトの使い方をevala先生から教えてもらい、とても新鮮で楽しかったです。制作実習では、evala先生が用意してくださった音源を使って空間音響作品を作ったのですが、私は同じ音源を使うことで、どうしても似たような作品になってしまうと考え、フリー音源などを取り入れることで、全くテイストの違う作品に仕上げました。実験ドームで披露する際はシステムが難しかったので、卒業するまでにかなり勉強しなければならないと実感しました。
将来は、オーケストラのステージマネージャーになりたいです。サックスを演奏していたこともあり、クラシックの現場で奏者をサポートする形で、できるだけ奏者に近いところで活躍できたらいいなと思っています。そのためにも大学でしっかり音響についての知見を深めていきたいです。

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