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世界最前線のクリエイターと学ぶ。AIは「使う」だけではない、その先の創作へ 世界最前線のクリエイターと学ぶ。AIは「使う」だけではない、その先の創作へ

教養科目・専門関連科目
2025/01/01

もし、授業で世界的な音楽家やAI研究者から直接学び、そのまま国際オペラプロジェクトの制作現場まで体験できるとしたら──。そんな大阪芸術大学ならではの学びが、教養科目「音楽、AI、テクノロジー概論」です。

第一線で活躍するクリエイターから学ぶ、横断型特別講義

講師を務めるのは、客員教授の音楽家・渋谷慶一郎先生、コンピュータ音楽家・今井慎太郎先生、人工生命研究者・池上高志先生、アーティスト・岸裕真先生という、それぞれの分野の第一線で活躍するクリエイター・研究者です。それぞれの専門分野からAIやプログラミングを学ぶだけでなく、「なぜその技術を使うのか」「AI時代に、人は何を表現するのか」という本質的な問いに向き合います。さらに希望した学生は、渋谷先生が手がける国際共同制作オペラプロジェクトにも参加。2026年5月にフェスティバルホールで上演されたアンドロイド・オペラ『MIRROR』では、リハーサル見学や公演鑑賞を通して、講義で学んだ知識や考え方が創作の現場でどのように生かされているのかを体感しました。教室で学び、現場で確かめる。AIを単なるツールとして学ぶのではなく、自分ならではの表現へとつなげる力を育む——。それが、この授業の最大の目的です。2025年度より、学部・学科を問わず受講できる教養科目として実施されているこの授業は、2026年度も引き続き開講されています。

Maxを通してテクノロジーを表現へとつなげる思考を育む

2025年度の今井先生による「Max」の講義では、コンピュータ音楽やメディアアート制作に用いられるプログラミング環境「Max」を活用し、音楽や映像表現に必要な技術と、その根底にある思考について解説されました。基礎からシーケンサー、インプロバイザー、シンセサイザー、センサーとの連携まで段階的に学習する時間が設けられました。講義では、プログラミング技術の習得だけではなく、自ら仕組みを組み立てながら音や表現を生み出すプロセスを重視。学生たちは、アルゴリズム作曲や音合成を通して、「音をどのようにつくるか」「音と身体や空間がどのようにつながるか」を実践的に学びました。今井先生は、「従来の作曲と対立するものではなく、作曲という行為を別の角度から捉え直す方法」だと説明。音符を書く代わりにルールや条件を設計することで、作曲そのものを問い直すことができる一方、「音楽的な判断や感性が不要になるわけではなく、どこに人が介入するのかがより明確になる」と、その魅力を語りました。


さらに、センサーや外部デバイスとの連携では、音楽が身体や空間、環境と結び付くことで新たな表現が生まれる可能性も紹介。「音が『操作するもの』から『反応するもの』へと変わり、演奏者や鑑賞者の存在そのものが作品の一部になることで、音楽を再定義するきっかけになります」と今井先生。テクノロジーが表現の幅を広げるだけでなく、音楽そのものの捉え方を変える可能性についても学生たちは学びました。今井先生は、テクノロジーを扱う上で最も大切なのは「技術そのものを目的にしないこと」と強調。「『何ができるか』ではなく、『何をしたいのか』『なぜその技術を使うのか』を常に問い続けることが、技術に振り回されないための鍵です。Maxはあくまでも思考を支える道具です」と話します。また、講義を通じて身につけてほしいことについては、「具体的な操作スキル以上に、自分で考え、試し、仕組みを組み立てる姿勢です。音や表現を固定的に捉えるのではなく、構造やプロセスとして考える視点を持ち帰ってもらえたらうれしい」続けました。音楽系だけでなく、さまざまな学科の学生が参加したことで、多様な視点が交わる場となり、テクノロジーを単なる制作ツールではなく、自身の表現へ結び付けるための思考法を身につける機会となりました。

歴史と実践から学ぶAIプログラミング

岸先生は著書『未知との創造:人類とAIのエイリアン的出会いについて』(誠文堂新光社、2025年) 』をもとに講義を展開

岸先生による「AIプログラミングと創作」の講義では、AIの仕組みを学ぶだけでなく、美術史やテクノロジーの歴史を手がかりに、人類とAIの関係性を多角的に考えました。「テクノロジーと人類の関係性」をテーマに、ルネサンス期から近代に至る美術史を振り返るところからスタートし、学生たちは、AIがどのような流れの中で誕生し、人間の認識や知覚を変えてきたのかを、多くの芸術作品や具体例を交えながら学びました。講義ではイメージ生成AIについても扱われましたが、岸先生が重視したのは技術の習得だけではありません。「『役に立つ』『便利だから使う』という視点だけでは、人の見方は時として狭くなってしまいます。利便性や効率の外側で、今のAIたちと出会うことが重要です」と、テクノロジーとの距離の取り方についても学生に問いかけました。実習では、学生自身がAIを構築するプログラミングにも挑戦。現在私たちが日常的に利用しているAIの多くは、完成されたサービスとして提供されていますが、その仕組みを自ら体験することで理解を深めることを目的としました。


岸先生は、「既存のAIツールは非常に便利ですが、その内部で何が起きているのかは見えにくいものです。実際に自分の手でAIを作ることで、その原理をより深く理解できると考えました」と説明します。全6回の講義を通して岸先生が学生に期待したのは、AIを使いこなす技術の習得そのものではなく、自らの手で作ったAIとともに、新しい視点を作品を通じて世界へ問いかける第一歩を踏み出すこと」でした。この講義では、AIを「使いこなす技術」を身につけるだけではなく、歴史や社会とのつながりを理解し、人間だからこそ生み出せる表現とは何かを考え続ける視点を養いました。テクノロジーが急速に進化する時代だからこそ、その本質を問いながら創作へと結び付ける姿勢は、学生たちにとって大きな学びとなりました。

AIと芸術、その可能性を考える─渋谷先生と池上先生による対談式の特別講義

アンドロイドやAIを活用した創作について講義する渋谷先生

2025年11月28日には、渋谷先生と池上先生による1日限りの講義が対談式で行われました。アンドロイド・オペラやAIを取り入れた作品を世界各地で発表してきた渋谷先生と、芸術活動と研究の両面からテクノロジーの可能性を探究してきた池上先生。それぞれ異なる分野の第一線で活躍する2人が、「音楽・アート・サイエンス」をテーマに、創作の発想やコンセプトの組み立て方、作品を実現するまでの思考プロセス、そしてAIやテクノロジーを取り巻く世界的な動向について語り合いました。

サイエンスの視点からAIと芸術の可能性について語る池上先生

講義は一方的なレクチャーではなく、学生との質疑応答を交えたオープンディスカッション形式で進行。学部や研究分野の異なる学生たちが積極的に質問を投げかけ、それに対して両先生が自身の経験や考えを交えながら応えることで、教室は分野を超えて議論が広がる場となりました。AIやテクノロジーを「使う」ことだけではなく、それらを用いて何を表現し、社会とどのようにつながっていくのか。最前線で活躍するクリエイターと研究者の対話を通して、学生たちは創作の可能性を多角的に捉える視点を深めました。

講義だけで終わらない学び─アンドロイド・オペラ『MIRROR』の現場へ

Photo by Moe Yoshino

この講義の特徴は、教室での学びだけにとどまらないことです。希望した学生は、渋谷先生が代表を務める国際共同制作オペラプロジェクトにインターンとして参加できる機会が設けられています。2026年5月16日に上演されたアンドロイド・オペラ『MIRROR ― Deconstruction and Rebirth ― 解体と再生 ―』第64回大阪国際フェスティバル2026では、授業を受講した学生を含む8名が、リハーサル見学や公演鑑賞に参加しました。


本作は、人間と機械はどこまで分かり合えるのか、生と死の境界とは何かという根源的な問いに挑む、世界的にも極めて珍しいアンドロイド・オペラです。大阪でこのようなスケールの作品を体験できるのはおそらく初と言えるでしょう。舞台の中心に立つのは、AI搭載の「アンドロイド・マリア。人間にはない存在だからこそ語ることのできる視点を、歌声と言葉で表現します。さらに、渋谷先生によるピアノとエレクトロニクス、大阪フィルハーモニー交響楽団による生演奏、高野山僧侶による声明、大型スクリーンいっぱいに映し出される映像が融合し、これまでにない圧倒的なスケールの舞台空間を創出。東洋と西洋、伝統と革新、人間とテクノロジーという異なる要素が1つの作品として結び付き、観客を壮大な世界へと引き込みました。2025年に東京・サントリーホールで世界初演された本作は、大阪公演でさらに完成度を高め、国内外から高い評価を獲得。2026年には戦時下のウクライナでの上演も予定されており、AIと芸術の新たな可能性を示す作品として世界的な注目を集めています。

Photo by Naoki Takehisa

リハーサル見学と本番の両方に参加した学生からは、「作品が完成していく過程を間近で見たことで、創作の裏側を知ることができました。本番では1人の鑑賞者として作品を体験し、人間とテクノロジーの境界を問いかける作品であることを、より深く実感しました」という声が聞かれました。このような第一線のクリエイターが手がける国際的な作品制作の現場を間近で体験できることは、本講義ならではの大きな魅力です。学生たちは、講義で学んだAIやテクノロジー、コンセプトメイキングの考え方が、実際の作品づくりや舞台制作の現場でどのように生かされているのかを肌で感じ、教室では得られない貴重な経験を積みました。創作の最前線に触れ、世界で活躍するアーティストやスタッフと交流できる経験は、自身の表現や将来について考える貴重な機会となりました。

教養科目・専門関連科目/客員教授
渋谷 慶一郎 先生

今回の講義で印象に残っているのは、受講している学生の数は決して多くなかったものの、その分、1人ひとりが非常に熱心に耳を傾け、質問や議論も活発に交わせたことです。私自身も、興味を持っている学生に向けて話をするからこそ意味があると考えています。興味のある人が集まり、学生と教員が1人ひとりの立場で活発に議論し、お互いに刺激し合える場として機能することに、大学の大きな意義があるのではないでしょうか。特にAIは、視覚芸術や聴覚芸術といった従来の領域を横断する、全く新しい分野です。そのようなテーマについて探究する場として、大学はふさわしい環境だと思います。また、これからの学生には、教員をも凌ぐような作品を生み出す可能性があります。「これは自分にしか作れない」と言える作品を大学で何度も実験し、できるだけ早く社会へ向けて発表してほしいと思っています。

教養科目・専門関連科目/客員教授
今井 慎太郎 先生

講義では、Maxを単なるプログラミングソフトではなく、「音や表現を考えるための思考装置」として伝えることを意識しました。作品を完成させることよりも、「なぜこの音が生まれるのか」「どうすれば変化するのか」を自分の手で組み立てながら考えてほしいと思っていました。基礎から応用へ段階的に学んでもらったのも、「自分で仕組みをつくれる」という実感を持ってもらうためです。正解を探すのではなく、試行錯誤を繰り返し、失敗や偶然さえも表現の一部として受け入れる姿勢を大切にしてほしいと考えていました。
印象的だったのは、最初は戸惑っていた学生が、自分でプログラムを組み、音をコントロールできた瞬間に表情が変わったことです。意図しない結果を面白がり、それを作品へ発展させようとする姿勢も多く見られました。また、音楽系以外の学生が参加したことで、「音楽とは何か」「表現とは何か」を互いの視点から問い直す場にもなりました。技術を学ぶことが目的ではなく、「何を表現したいのか」「なぜその技術を使うのか」を考え続けることが最も重要です。この講義で得た考え方が、それぞれの制作や研究の中で生き続け、自分自身の表現へ自然につながっていくことを期待しています。

教養科目・専門関連科目/客員教授
池上 高志 先生

今回の講義では、LLM(大規模言語モデル)を単なるツールではなく、自律的に振る舞う「エージェント」として捉える視点や、アンドロイドと「Society of Mind(心の社会)」の考え方について話しました。開講当初は受講者が少なかったものの、回を重ねるごとに熱心な学生が増え、現在加速度的に発展しているAI研究の一端を伝えられたのではないかと感じています。私は、講義は全てを理解できる必要はなく、3割ほど「わからない」と感じる部分があってもよいと考えています。その「わからなさ」が、後になって思考を深めたり、新しい作品を生み出したりするきっかけになることがあります。今回の講義で感じた疑問や違和感が、学生の皆さんにとって将来の創作の種になればうれしいです。

教養科目・専門関連科目/客員教授
岸 裕真 先生

学生が自分の手でAIを実装することを目標に、その背景にある歴史や思想から学んでもらいました。AIは注目されている技術ですが、その成り立ちまで学ぶ機会は決して多くありません。そこで、ルネサンス期や近代におけるアートとテクノロジーの関係までさかのぼり、テクノロジーが人間の認識や知覚をどのように変えてきたのかを伝えました。また、AIを「便利だから使う」という視点だけで捉えてほしくありませんでした。利便性や効率だけを追い求めると、本来見えるはずのものが見えなくなることがあります。だからこそ、美術史や芸術作品を手がかりに、AIと人間の関係を広い視野で考えてほしいと思っていました。
実習では、完成されたAIツールを使うだけではなく、自分の手でAIを構築することで、その仕組みを理解してもらいました。技術を知ることはもちろん大切ですが、それ以上に、その技術をどう社会や表現へ結び付けるのかを考えることが重要です。創作は、人間のイマジネーションを支える営みです。今のAIの多くが生み出しているのは過去の創造の再生産にとどまりますが、そこへ人間ならではの視点や問題意識が加わることで、新しい表現が生まれます。同時に、AIは戦争や軍事技術とも切り離せない存在だからこそ、使う側の倫理観も欠かせません。この講義が、学生1人ひとりにとって、AIとともに新しい表現や未来を考えるきっかけになればうれしく思います。

デザイン学科/デジタルアーツコース専攻 4年
中山 晧仁 さん

渋谷先生や岸先生に大学で直接お話を伺えると知り、「これは受けたい」とほとんど即決で受講しました。講義では、AIやプログラミングを基礎から学べたことはもちろんですが、それ以上に印象に残ったのは、「なぜその技術を使うのか」という、作り手の考え方まで学べたことです。AIだけでなく、美術史や音楽、メディアアート、社会や文化など幅広いテーマが扱われ、自分の疑問をどこまでも受け止めてもらえるような講義でした。岸先生の講義の最終回では、「AIが当たり前になった今、これから何を期待するのか」という質問をしました。そのとき岸先生から、「技術そのものではなく、それが当たり前になった後に、人間の側から何が生まれるのかが大切」というお話を伺い、とても印象に残っています。AIを使うこと自体を目的にするのではなく、その先にある新しい表現を考えるきっかけになりました。
現在は、AIで生成した画像をコマ撮りアニメーションのようにつないだ映像作品を卒業制作として制作しています。以前は、AIの仕組みを十分理解していなければ作品として成立しないのではないかと思っていましたが、「まずはプロトタイプを作り、自分が面白い、興奮すると思える表現を大切にすればいい」という先生の言葉に背中を押されました。これからは、AIの新しさだけを追うのではなく、自分がAIと向き合う中で生まれる違和感や偶然性、面白さを大切にしながら、「AIが当たり前になった時代に、人間だからこそ生み出せる表現」を、自分自身の作品を通して探究していきたいと思っています。

デザイン学科/グラフィックデザインコース専攻 4年
堀江 志歩 さん

卒業制作や卒業後の仕事について考える中で、クリエイティブとAI、音楽、テクノロジーは、これから切り離せない関係になっていくのではないかと感じていました。そんな時にこの講義を知り、「まさに自分が学びたかった内容だ」と思い受講を決めました。デザイン学科では、AIやテクノロジーについて学ぶ機会が少なかったので、この講義で得たことを自分の制作活動に生かしたいという思いもありました。特に印象に残っているのは、岸先生が話されていた「AIを人間の新たな器官として捉えてみる」という考え方です。AIは相棒や自分とは別の存在として考えがちですが、自分の身体や思考を拡張する器官のように捉えることで、これまでとは違う使い方や新しい創造性が生まれるのではないかと感じました。また、今井先生の講義では、Maxを使って音をつくり、組み合わせる体験をしました。これまで触れたことのない方法でパソコンから音を制作する経験はとても新鮮で、表現の可能性が大きく広がったと感じています。
アンドロイド・オペラ『MIRROR』では、AIやアンドロイドという最先端の技術と、オペラや声明といった歴史ある文化が自然に融合し、独特の世界観を生み出していたことが強く印象に残りました。実際に観ていて鳥肌が立つほどでした。特に、人間が奏でる予測できない音に対し、アンドロイド・マリアが瞬時に応答しながら音を重ねていく場面では、機械が人間に合わせているように感じられ、その関係性の新しさに驚きました。今回の講義を通して、AIに仕事を奪われると考えるのではなく、「何のために、どのように使うのか」がこれからの表現には重要なのだと実感しました。今後は、技術を使うこと自体を目的にするのではなく、自分なりのAIとの関わり方を見つけ、人の心を動かす表現や新しい体験を生み出すために活用していきたいと思っています。

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