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問いから始まる現代アート─目[mé]が学生に投げかけた「実感」と創造のプロセス 問いから始まる現代アート─目[mé]が学生に投げかけた「実感」と創造のプロセス

美術学科
2026/02/10

1月20日、美術学科3年生の学生を対象に、国内外で活躍する、現代アートチーム・目[mé](美術学科客員教授)の南川憲二先生と荒神明香先生による特別講義が行われました。講義では、目[mé]の代表作や近年のプロジェクトを紹介しながら、現代アートの考え方や制作の背景について語られ、随所で学生に「問い」が投げかけられました。学生たちはその問いに対し、配布されたメモ用紙に自身の考えや率直な感想を書き込むことで応答。作品解説にとどまらず、「考えること」そのものに重きを置いた、対話的な講義となりました。

[mé]の代表作「まさゆめ」プロジェクトはスペイン・マドリードでも実施

目[mé]の活動と、プロのアーティストとして生きる現実

講義の冒頭では、目[mé]の活動紹介が行われました。埼玉県に構えるアトリエを拠点に、チームで作品制作を行っている目[mé]は、アーティストの荒神先生、ディレクターの南川先生、インストーラーの増井宏文先生を中心とする現代アートチームです。代表作として紹介されたのは、実在する1人の顔を巨大な立体として空に浮かべるプロジェクト「まさゆめ」です。2024年にはスペイン・マドリードで、事前告知を行わずに実施。その様子が映像と共に紹介され、学生たちは、現実の風景の中に突如現れる「顔」という非日常的な光景に強い印象を受けました。

アーティストとして活躍することだけでなく、「表現の現実」を率直に語る南川先生

南川先生は、作品が常に順調に評価されるわけではない現実にも触れました。2025年のベネチア・ビエンナーレ日本代表候補に選ばれながらも最終選考で落選したこと、その準備に注力していた分、大きな落胆があったこと、予定していた展覧会が中止になったことなど、思うように進まなかった時期について率直に語りました。そうした中、所属ギャラリー「SCAI THE BATHHOUSE」を通じて、世界最大級の現代アートフェア「アート・バーゼル」に出品し、作品が購入されたことが支えになったと言います。アーティストとして生計を立てていくためには、ギャラリーとの関係や作品販売だけでなく、プロジェクト中の交渉や、実行するための制作方法を考えることなど、仕事の進め方が重要であることも強調されました。学生にとって、表現の裏側にある現実的な側面を知る機会となりました。

目[mé]《space Ⅱ》2025(会場:大分県別府市大字鶴見北中 205-1)Venue: 205-1 プロジェクト:ALTERNATIVE-STATE #2 主催:混浴温泉世界実行委員会)

「現代アートとは何か」を問い直す

続いて、目[mé]がこの半年間で観てきた現代アート展などの紹介が行われました。目[mé]の作品も展示されているIRIS VAN HERPENの世界巡回された展覧会や、オランダ・ロッテルダム、パリのブルス・ドゥ・コメルス(ピノー・コレクション)の展覧会、ポンピドゥー・センターで開催されたヴォルフガング・ティルマンスの回顧展など、実際に訪れた美術館や展示の写真・動画を交えながら、現代アートの多様なあり方が語られました。さらに、2025年12月より大分県別府市・鉄輪地区で公開されている目[mé]の最新作についても言及。民家を大胆に用いたインスタレーション作品は、土地や環境と深く結びついたもので、制作過程ではインストーラーの増井先生が図面を引き、荒神先生が精密な模型を制作するなど、チームならではのプロセスが紹介されました。

現代アートの起点とされるデュシャン「泉」を例に、作品の定義や認識について学生と考察を深める

講義の中盤では、南川先生が現代アートの起点とも言われる、マルセル・デュシャンの「泉」を取り上げ、「なぜ便器が芸術作品になるのか」「私たちは何をもって“作品”と認識しているのか」、そうした問いが学生に投げかけられ、メモ用紙にそれぞれの考えを書き込む時間が設けられました。正解を示すのではなく、考えること自体を促す姿勢に、教室には静かな緊張感が漂いました。

言葉にしきれない「実感」を手がかりに、作品の原点を語る荒神先生

原点となる「実感」と、チームでつくる意味

荒神先生は、自身の作品の原点について、幼少期から、身の回りのものに違和感や興味を抱き、石や枯葉、ガラス片などを集めていた経験を語りました。事故で壊れた破片を素材にシャンデリアの形を与えた作品「toi,toi,toi」や、水面に映る風景から着想を得た「reflectwo」など、言葉にしきれない“実感”が作品の出発点になっていることを明かしました。

自身の経験やチーム制作の意義を語りながら、学生に思考を促す南川先生

南川先生は、学生時代に「芸術とは何か」「職業として成り立つのか」を問い続け、参加型表現集団「Wah document」を立ち上げた経験を紹介。荒神先生と出会い、その感覚に強く惹かれ、説得を重ねてチームとしての活動が始まった経緯を話しました。現在の目[mé]では、南川先生がディレクター、荒神先生がアーティスト、増井先生がインストーラーという役割分担のもと、複数人で1つの作品をつくり上げています。「クリエイティビティとは何か」「チームでつくる意味とは何か」という問いが再び学生に投げかけられました。

現代アートをめぐる問いに耳を傾け、真剣な表情で講義を聞く学生たち

そして講義の終盤では、2021年、コロナ禍の東京で実施された「まさゆめ」について、学生に率直な意見が求められました。不要不急の外出が制限される中、空に巨大な「顔」を浮かべる行為は、どのように受け止められるのか。学生からは、「閉塞感の中で笑いや話題を生んだ」「現実を揺さぶる力があった」といった声が寄せられました。

講義後、南川先生のもとを訪れ自身の考えや疑問を直接ぶつける学生の姿も見られた

作品や成功談をなぞるのではなく、問いを投げかけ、考える時間を共有することで進められた今回の特別講義。学生たちは、現代アートの手法や事例だけでなく、表現に向き合う姿勢や、プロとして活動する現実を多角的に受け止めていました。答えのない問いに向き合い続けること。その積み重ねこそが、これからの表現を支えていきます。目[mé]の2人が示したのは、現代アートの技法以上に、「考え続けること」の重要性でした。

美術学科/客員教授
荒神 明香 先生

学生のコメントはどれもよく考えられていて、とても印象に残りました。先行きが見えず不安だと率直に書いてくれている学生もいて、それはとても正直な気持ちだと思います。それでも、信じてやり続けていれば、必ずどこかで誰かが見てくれています。共感してくれる仲間に出会えたり、信じられないほど大きな場所につながったり、何が起こるかはわかりませんが、とにかく続けることが大切だということは伝えたかったです。特に、コロナ禍でプロジェクトを実行したことについての問いに対するコメントは、読んでいて勇気づけられるものが多くありました。どちらが正解かではなく、自分なりの答えをはっきりと言葉にしていること自体が、とてもすごいことだと思います。学生の皆さんには、とにかくやってみることを大切にしてほしいです。自分が手を動かさなければ、その表現はこの世界に存在しません。形にすることだけを目標にするのではなく、考えながら手を動かし続けること。その積み重ねが、社会とつながる表現につながっていくと思っています。

美術学科/客員教授
南川 憲二 先生

今回の講義を終えて、正直に言うと「ああしたかった、こうしたかった」という反省はあります。ただ、学生の皆さんのコメントを読んで、感じたことをそのままストレートに言葉にしてくれていたと感じました。言葉にするということは、成長の過程でいつの間にか難しくなってしまうものだと思っていましたが、ほぼ全員がそれをやってくれました。本当にすごいことだと思います。講義中に紙を配って問いを投げかけたのは、答えを出すことよりも、「答えのない問い」を残したかったからです。伝えることは、考えることだと思っています。今日考えた答えが、別のタイミングでは変わるかもしれない。そういう問いを持ち続けてほしいという思いがありました。学生の皆さんには、「自分と世界」「自分と社会のつながり」を広く見てほしいと思っています。そして、自分の考えや感情が“本当であること”を大切にしてほしい。大阪芸術大学は学科の幅が広く、多くの人と出会える場所です。その環境を生かしながら、内側から生まれた“本当”を追求した作品を作ってほしいと思います。

美術学科/日本画コース 3年
川上 咲輝 さん

今回の講義で、南川先生が「アイデアを形にすること自体を芸術活動にしていた」とお話しされていたことに、ハッとさせられました。考えてみれば当たり前のことなのに、私はこれまで、形にしたもの全てに意味を持たせなければいけないと思い込み、制作を難しく考えすぎて行き詰まることが多くありました。しかし、街ゆく人たちのアイデアをそのまま形にしていく作品を見て、アイデアは形にするだけで面白いのだと気づきました。「家を持ち上げる」「反対する」といった一見中身がないように思える行為でも、形になると不思議と面白く、アイデアを実現できた達成感を仲間と共有できることも芸術なのだと感じました。何事もパッションが大切なのだと思います。今回の講義を通して、誰かと一緒に1つのことを成し遂げてみたいという気持ちが強くなりました。難しいことでなくても、アイデアを形にすることを実践してみたいです。子どもたちと何かを作ることにも興味があり、友人が勤めているサドベリースクールの子どもたちに声をかけてみようと思いました。美術に深く関わっていない人たちと制作することで、枠にとらわれない斬新な発想に出会えることもあると感じました。全力で楽しもうとする人たちと制作することは、自分の制作意欲を刺激し、新たな気づきや成長につながると思います。これからは1人で抱え込まず、トライアンドエラーの精神で、積極的に挑戦していきたいです。

美術学科/油画コース 3年
土田 陸都 さん

今回の講義で特に印象に残ったのは、目[mé]の“space”という世界に穴を開けるというコンセプトの作品の話です。古民家に突然現れる青い布を見たとき、本当に世界に穴が開いたように感じました。実際の作品を前にすると、時間の流れや天候によって見え方が変わり、その時々の世界の内側や心情のようなものまで感じ取れるのだと思いました。また、講師の方を前にすると無難な意見を言いがちですが、今回の講義を通して、立場に関係なく自分の中にある小さな疑問や考えを、もっとピュアにぶつけてもいいのだと感じました。自分の言葉で問いを投げかけることの大切さに気づかされました。さらに、市や町などを巻き込み、多くの人が自分のアイデアに賭けてくれるような、大規模なインスタレーションにも挑戦してみたいと思うようになりました。これまでワークショップは地域に寄り添うものだと考えていましたが、地域の方は「アーティストが本気で作るものを見たい」と思っているという話を聞き、その認識のずれに気づきました。本気で向き合う姿勢こそが、信頼や共感を生むのだと思います。美術は多くの人と関わりながら作るものでも、最後は1人で孤独に戦うものだと思っていました。しかし、最後までチームで向き合うことで、1人で作る以上の感動が生まれ、その感動は関わった全ての人に広がっていくと知りました。今後は、関わってくれた人たち全員と、アートの素晴らしさを共有できる制作をしていきたいです。

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