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Interview

美術がもたらす豊かな生活に気づく、
子どもたちの学びを実現する。
美術がもたらす豊かな
生活に気づく、
子どもたちの学びを
実現する。

美術学科卒
東良雅人
昭和37年、京都市生まれ。
昭和56年、京都市立塔南高等学校卒業、大阪芸術大学美術学科へ入学。
昭和60年、大阪芸術大学美術学科卒業。ゼミ専攻はシルクスクリーン。
昭和62年、非常勤講師として採用後、京都市立中学教諭となる。
平成14年、京都市教育委員会指導部学校指導課で指導主事を務める。
平成23年、文部科学省初等中等教育局教育課程課 教科調査官を務める。

モットーは難しい話を難しくしない。
難しい話をわかりやすくすること。
モットーは難しい話を
難しくしない。
難しい話を
わかりやすくすること。

最初に学んだこと。制作は"弧業"でありチームプレーでもある

大阪芸大を選んだのは、幼い頃から絵を描くのが好きだったから。2回生の終わりまでにさまざまな分野の制作をひと通り体験してみて、版画の面白さに目覚めました。当時は現代美術が大変盛り上がっていて、版画ではシルクスクリーンが自分の中では全盛でした。希望者も多かったのですが、なんとかゼミに入ることができました。

3回生と4回生では、朝から晩まで制作に打ち込みました。ゼミの雰囲気は自由で仲間にも恵まれたこともあり、いまから思い返しても充実した時間だったと思います。作品の制作は一人で取り組む“弧業”ですが、チームプレーの側面もあります。仲間と意見を交換するなどのコミュニケーションを取ることで創作の可能性が広がるからです。そしてゼミで培ったチームプレーとコミュニケーションの能力は、卒業後に美術教師となり、学校という組織のなかで働くようになって大いに役立ちました。

話したいことを話すのではなく
相手が聞きたいことを話す
話したいことを
話すのではなく
相手が聞きたいことを話す

卒業後は地元・京都市内の中学で美術教師になりました。正直、始めは教育を一生の仕事にするという決意はまだなかったのですが、一歩足を踏み入れてみるとその面白さに夢中です。子どもって本当に面白いんです。とくに美術は他の教科よりも題材の設定が幅広く、授業を自分で考えて組み立てるので、やりがいもあります。16年間中学で教えた後、わずかな間、小学校の4年生から6年生の図画工作を専科で教えたのですが、そのときは自分がいかに小学校のことを知っているつもりで、実は何も知らなかったのかということを目の当たりにして大きなショックがありました。小学生の子どもたちが形や色とどうかかわっているのか、どこに子どもの学びを読み取ったらよいのか、最初はわからなくて……。昼休みなどに子どもたちと一緒に遊び、おしゃべりをして子どもたちと関わっていくうちに一人ひとりの個性がわかるようになり、自分の中で子どもたちの学びを解釈する力がついてくると、中学生とはまた違った面白さを感じるようになりました。

その後、京都市の教育委員会で指導主事を務めました。京都市内の中学校の美術、高校の美術、工芸、書道の先生たちが、文部科学省が示している学習指導要領を円滑に実施できるように研修などを通して支援するのが仕事です。そのとき心がけたのは、「難しい話を難しくしない」「難しい話をわかりやすくする」ことです。自分が話したいことを話すのではなく、相手が聞きたいことを話す。それは子どもが相手でも、先生が相手でも変わらない原則ですね。

生活の中の造形や美術と豊かに関わる力の育成

現在は京都から東京に単身赴任にして、文部科学省で、学習指導要領の趣旨やねらいを全国の教育委員会の指導主事の先生方に伝える仕事をしています。学習指導要領を咀嚼してその趣旨を踏まえながら、北海道から沖縄まで各地域の一人ひとりの子どもたちや学校の特色に応じた美術教育ができるように支援しています。子ども、先生、指導主事と対象は変わりましたが、美術を通した子どもたちの学びを広げたいという根っこの部分は変わりません。ただし責任はどんどん大きくなっていますが(笑)。

小、中学校で図画工作、美術を学んだ人の中で、全ての人が大人になってからも表現を続けていくということはないと思います。でも、表現だけでなく美術館で絵を鑑賞することや、部屋を形や色で飾ったり、カフェで見かけた雑貨にふと心を動かされたりするように、私たちの生活の中には美術との関わりが大きくあります。そして美術教育は子どもたちの生き方と関わる重要な役割を担っている。日本の先生方は熱心で優秀だから、日本の美術教育の質は高いと思いますよ。教育は人を育てる仕事だから、教員を目指す学生の皆さんには一生懸命勉強してもらいたいと思います。そして私自身の経験から言わせてもらうと、学校という組織で仕事をするときには、大学で人とのつながりで学んだことが役立つと思います。

自分磨きは作品磨き 表現と鑑賞はバランスよく

これから大学で学ぼうとする人に2つのアドバイスがあります。

流行を取り入れて技術的に優れた表現をすることは難しくありません。でも、たとえ形ができたとしても、それだけでは人の心にズシンと来るものはない。大事なのは、自分は何を表現したいのか、それは自分のどこから来ているのかをきちんと考えること。その意味では作品はその人自身ですから、作品を磨くには自分を磨くしかない。そして自分磨きは一人で孤独に行なうよりも、大学の仲間や先生など、できるだけ多くの人の意見や見方に触れた方がずっと広がりと深みが出てきます。

さらに表現というアウトプットだけではなく、鑑賞というインプットも大切にしてほしいですね。作品をたくさん見たり、美術館や画廊をまわったり、多くの作家の人たちと話たり……。表現と鑑賞をバランスよく行なうと、表現で学んだことが鑑賞に働き、鑑賞で感じたことが表現に生きるという循環が生じます。「表現と鑑賞をバランスよく行なうこと」「表現と鑑賞は関連付けて行なうこと」というのは、実は学習指導要領にもちゃんと書いてあるんですよ(笑)。