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時代を切り拓くアーティストに聞け【落合陽一】 時代を切り拓くアーティストに聞け【落合陽一】

アートサイエンス学科 / その他
2021/06/11

今、経済も含めた新しいモノ・コトは、アート的思考から生まれている。時代が求めているのは、既成の枠に囚われない自由な発想で、今までになかったものを生み出し、人々に新鮮な感動や気づきを呼び起こしていく才能だ。


そこで『O Plus』では、各ジャンルで、そのオリジナルな発想によって新時代を切り開く人々を追ってみた。


一人目はメディアアーティストの落合陽一氏。落合氏が総合監修した日本科学未来館(東京・お台場)の常設展「計算機と自然、計算機の自然」で話を伺った。計算機(コンピューター)やそこで動作する人工知能が高度に発達した未来において、私たちはどんな自然観や世界観を抱き、どんな「問い」を持つのかを考える展示。3階「未来をつくる」ゾーンで一般公開されている。


Photo:Maciej Kucia

Text:Arina Tsukada

withコロナによって アートの力点が変わる。
現代の「自然」と向き合う アートサイエンスの挑戦。

世界のあらゆる場所にテクノロジーは浸透し、私たちの生活も常時デジタルと接続されている。いまや人工と自然の境界は曖昧になり、新たな「自然」の中を生きているといえるだろう。メディアアーティストの落合陽一氏が唱える「デジタルネイチャー」とは、こうした現代人の生きる環境を鋭くとらえ、価値観や身体感覚をアップデートしていくコンセプトだ。


 「いまやインタラクティブゲームの中にも、コンピュータの中にも“自然”があります。たとえばCGの世界では、物理シミュレーションに従って川の水のような流体をつくりだしたり、機械学習により動物の群れを動かしたりする。それは、質量をもたない新たな自然といえるでしょう」。


 そう語る落合氏は、メディアアーティストとしてそういった自然観への表現を続ける一方、筑波大学では「デジタルネイチャー研究室」を主宰し、学生らと共にさまざまな研究開発を行っている。


たとえば「Air Mount Retinal Projector」は、目の網膜に直接、高解像度の画像を投影できる光学システムだ。昨今ではAR/VR技術に注目が集まるが、このシステムではアイボックスの広いイメージ網膜に投影することができる。その体験者にとっては、リアルとバーチャルの境目はほぼ感じられなくなるだろう。 


「現代のデジタル世界を生きる人々には、すでに特殊な身体性が生まれている」と落合氏は語る。Minecraftのようなゲームでは、デジタル上でしか体感しえない空間が日々無数のプレイヤーによって生み出されている。


「かつて人は、自分の暮らす地域の風土に影響を受けて、絵を描き、工芸品をつくり出してきましたが、いまはデジタル環境から新たな創造が生まれています」。 


その直感から、落合氏は今年3月に開催予定だったアメリカの大型カンファレンスSXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)にて、自身がディレクターを務める日本コンセプト展示のテーマを「CycleofHyper Intuition(超霊性のサイクル)」と定めた。そこでは、約100年前の工芸品である「民藝」を3200万画素の8K映像で撮影し、大型スクリーンに投射する計画がなされた。


「視覚の限界を超える圧倒的な映像を前にしたとき、身体感覚が変わってしまう。そのとき、これまで職人やアーティストの中にあった“霊性”のようなものが違うかたちで浮かび上がると感じました」。 


いま新型コロナウイルスによって、急激にデジタル化が加速している。そんな中、アートとサイエンスを行き来する落合氏は何を提示するのだろうか。


「これまでサイエンスは自然と向き合い、アートは自然と社会、そして人間と向き合ってきました。ただし、これだけ社会の変化が早いいま、作品よりもインパクトのある変革が次々と起きている。今後は、自然への深い洞察を持つアートがより重要になってくるでしょう。それは環境問題などだけではなく、光や音、物質など、この世界の現象と実直に向き合い、ものをつくり続けること。自分のゆずれない自然の価値を探求することが、これからを生きるコアになると思います」。


*1 新型コロナウイルスの影響により中止に。後日、日本科学未来館にて1日限りの「The New Japan Islands」イベントがオンラインで開催された。

*2落合氏が2019年からディレクターを務める展覧会&カンファレンス「The New Japan Islands」 

*3 1926年、柳宗悦・河井寛次郎・浜田庄司らによって提唱された生活文化運動。名も無き職人の手から生み出された、陶磁器や織物など日常の生活道具のことを指す。


●落合陽一(おちあい よういち)メディアアーティスト。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。筑波大学デジタルネイチャー開発研究センター センター長、准教授・JST CREST xDiversityプロジェクト研究代表。『デジタルネイチャー」(PLANETS)、『2030年の世界地図帳」(SBクリエイティブ)など著書多数。「物化する計算機自然と対峙し,質量と映像の間にある憧憬や情念を反芻する」をステートメントに、研究や芸術活動の枠を自由に越境し、探求と表現を継続している。オンラインサロン落合陽一塾やnote、YouTube落合陽一録でも情報を発信中。大阪芸術大学アートサイエンス学科客員教授。


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