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vol1.『いいご身分』1 vol1.『いいご身分』1

文芸学科 / その他
2021/06/11

illustration:NAKAMURA YUSUKE

河内長野行きの近鉄電車で喜志駅へ、そこから芸バスに乗り、荒涼とした南河内の景色を眺めながら10分弱。さらに勾配の急な芸坂を登って、ようやく大学にたどり着く。山の上に切り拓かれたキャンパスは、街ひとつ分くらいの広さがあって、学科ごとに何十と棟がわかれている。みっちり4年間過ごしたくせに、とても全貌を把握できなかった。 


さて、数ある芸術大学のなかから、どうして大阪芸大に進んだのかというと、たまたま推薦で受かったから……というのが正直なところである。専攻は映像学科。庵野秀明や橋口亮輔などを輩出しているとあって、「ここに行けばなんとかなるんじゃないか」という気がしていた(よく考えたらふたりとも中退してるけど)。


映画好きが高じて、ぼんやりと映画監督をめざして大学に入ったものの、それらしい活動はなにひとつしないまま、下宿先のアパートでごろごろごろごろ、膨大な時間を不貞腐れて過ごした。本を読み、映画を観て、音楽を聴く。だいたいその3つのことしかしていなかった。いまから思えば、お前は貴族か!と頭をはたきたくなるような、いいご身分であるが。 


いい本を読んだり、映画を観て感動したり、好きな音楽に出会って夢中になると、そのことを誰かに伝えたくなる。入学して1年ほど過ぎたころ、わたしにもそういう友達ができた。なんでも話せる友達。心を許せる相手。同じ学科には100人ほどの同級生がいたのに、そういう特別な友達はたったひとり。でもそれで充分過ぎるほどだった。 


わたしのなかで大学時代は、その親友との思い出とイコールだ。まさに蜜月という感じで、どっぷり友情を深め合った。あとから母校とほかの大学を比べて、いろいろ思うところはあるのだけど、親友と出会えたという1点だけで、大阪芸大には感謝しかないのである。思うにどんな大学であれ、いい友達と出会えたら、そこはいい大学なのだ。学校が提供したプログラムとか、錚々たる講師陣とか、そういうのとは別の次元で。 


卒業してもう13年が経つけれど、あの日々は一体なんだったんだろうと、いまだに消化しきれずに生きている。唯一の後悔があるとすれば、もっとたくさん本を読み、存分に映画を観て、片っ端から音楽を聴きまくればよかったということ。 


俗世から隔絶された場所で、濃密な時間をフルに使って、かけがえのない“いいご身分”を、みんな存分に味わってほしい。


●山内 マリコ(やまうち まりこ)1980年富山県生まれ。作家。大阪芸術大学映像学科卒業。2008年、「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞し、2012年『ここは退屈迎えに来て』でデビュー。同作と『アズミ・ハルコは行方不明』は映画化もされた。2021年には『あのこは貴族』も映画公開予定。『山内マリコの美術館は一人で行く派展』などエッセイも多数。