2026年2月18日にザ・シンフォニーホールで大阪芸術大学ウインド・オーケストラの第46回定期演奏会が開催されました。伊勢敏之教授が指揮を担当し、学生たちは日ごろの成果を発揮する演奏を披露しました。
大阪芸術大学ウインド・オーケストラ定期演奏会は主に管楽器と打楽器を専攻する学生の学修成果を披露する場であり、単位履修と観客の前で演奏する実習を兼ね備えています。今年も優れた音響で評価が高いザ・シンフォニーホールが舞台になりました。
プログラム構成には世に広めたい良作を観客に聞いていただきたいという試みから、生誕や没後周年などのアニバーサリーイヤーを迎えた作曲家の楽曲を選んでいます。
今回はまず旧チェコスロヴァキアのK・フサによる現代曲「プラハのための音楽1968」が選ばれました。これは歴史上の変換期になった民主化運動「プラハの春」をきっかけに作られた曲です。そこから、同年代の旧チェコ出身V.ネリベル(没後30周年)がアメリカ亡命後に作曲した「交響的断章」、さらにチェリストのパブロ・カルザス(生誕150周年)による「私の生まれ故郷カタルーニャの鳥は、ピース、ピース(平和)と鳴くのです」という国連スピーチの一節から着想を得た伊藤康英作の「ピース、ピースと鳥たちは歌う」が選ばれ、戦争や、平和を希求するテーマ性が浮かび上がってきました。
一方で「フローレンティナー・マーチ」や「ラプソティック・エピソード」など、かつて吹奏楽コンクールで人気が高かった曲もラインナップ。また選曲の特色のひとつとして、昨年から作曲家・酒井格客員教授の曲が取り上げられています。今年は五音音階を使った「ペンタトニック・ファンファーレ」が選ばれました。後期の特別講義では酒井先生自身による曲の解説と指導を受ける機会が設けられました。その授業では酒井先生から特に和声についての解釈が掘り下げて伝えられ、学生は内容を理解しその場で音として表現するという学びを行ってきました。
本番直前の集中練習では、オーケストラとしての音合わせが入念に行われました。
「プラハ1968年のための音楽」は不協和音や特殊奏法が多数用いられる難曲であり、戦争への悲しみ、怒りなど重いテーマが扱われています。伊勢先生はこの大曲について、「難解な曲ですが、表現者としてこういった作品にも取り組んで演奏家として精神性や深みを増していってほしい。自分なりに作品の背景を研究してみてください」とテクニックだけにとどまらない指導を行いました。
当日リハーサルでは音響の優れたホールでの音の響きを確かめるように、熱心に自分のパートを練習する学生たちの姿が見られました。入念な最終音合わせの後、いよいよ開演です。
最初はJ.フチーク作曲「フローレンティナー・マーチ」。明るい行進曲で流れるように観客を演奏会に誘い込みます。続いて重厚で迫力ある冒頭から始まるV.ネリベルの「交響的断章」。ドラマティックな音の対比で聴かせます。アメリカの商業音楽で活躍したM.グールドの「アメリカン・サリュート」は、情景が目に浮かぶ映画音楽のよう。次のC.カーター「ラプソディック・エピソード」ははつらつと伸びやかな曲調が若い演奏家にマッチ。オーボエの語りかけるような調べから伊藤康英の「ピース、ピースと鳥たちは歌う」が始まると会場のトーンが変化。会場全体がいっそう音に集中し、平和への願いが観客にも伝わっているようです。
第2部は酒井格先生の「ペンタトニック・ファンファーレ」からスタート。日本民謡に使われる「ヨナ抜き音階」特有のどこか懐かしく馴染みある調べが響きます。演奏後は酒井先生が客席から立ち上がり一礼する姿が見られました。
ラストの「プラハ1968年のための音楽」が不況和音から始まり、会場に緊張感が走ります。重苦しく、悲痛な心情が現代音楽の響きで表現され、曲中にはドラムロールで銃声や民衆の足音が立ち上がっていく様子が表現されるなど、難解だけれどもストーリー性があります。学生たちはチームワークで心をひとつにあわせて、各パートを懸命に演奏しました。
アンコールは再び酒井格先生作曲の行進曲「博奕岬の光」。清涼感のあるマーチで演奏会が締めくくられました。
酒井先生も、客席で立ち上がって拍手を贈り、場内全体もあたたかな拍手で満たされました。終演後、酒井先生にお話を聞きました。
「みなさん、よくがんばっていました。成長している所が感じられ、特に長い音はよく吹けていたと思います。短い音を美しいハーモニーとして吹くことは、演奏家として長く取り組むべきテーマなので、これからももっともっと高みをめざして続けてほしいですね」と学生たちにエールを送られました。
毎回アニバーサリーな作曲家を取り上げるのは、演奏機会の少ない名作を埋もれさせたくないという思いからです。「プラハ1968年のための音楽」は時間をかけて練習できる環境でないと、なかなかできない作品です。テクニックも内容も難しいのですが、学生たちにはそれを乗り越えることによって、彼らのなかに深いものが残ってくればと期待しています。酒井格先生の「ペンタトニック・ファンファーレ」はまだ楽譜が未出版であり、もっとたくさんの方に知ってほしい作品です。この曲はメロディーの後ろにある和声が素晴らしく、酒井先生ご自身が学生たちに和音が動くと聴き手の感情がどう動くかなど、詳しく解説をしてくださいました。その和音を感じ取ったときに深みがでるヒントになったのではないかなと思います。できなかったことが、練習を積んでできるようになる過程や、音楽や自分がやろうとしていることに深みが出てくるかどうかを毎回のテーマにしていますが、それは自分自身の問いかけでもあります。どれだけそれをみなさんに伝えることができるかというチャレンジでもあるし、本番では今までで一番よい演奏を出しお客様に楽しんでいただけたと思います。
この演奏会が卒業前最後の演奏会です。10年の吹奏楽人生に晴れやかに幕をおろすことができました。大阪芸術大学に進学したのは自分が本番にチャレンジできる回数が豊富なことに惹かれたからです。色々な曲にふれ、たくさんの経験を積ませて頂いて、吹奏楽が出来ることが当たり前ではないということを目の当たりにした4年間でした。また大阪のザ・シンフォニーホールやフェスティバルホール、東京のサントリーホールなど、素晴らしいホールで演奏させて頂けたことは本当に感謝しています。今回演奏をした「ペンタトニック・ファンファーレ」では酒井先生からコードの展開について講義を受けました。酒井先生の曲はサックスを効果的に使われているものが多く、本当に好きな作曲家のひとりなので、先生の口から発せられる音にも意味があると感じました。講義中はピアノを弾かれるのですが、吹奏楽とはまた違う良さがあるので、とても刺激を受けました。卒業後は大学に残り、学生をサポートする立場から演奏会の流れや裏方の動きを学び、将来的には音楽教員として吹奏楽部の顧問をしたいと考えています。
1年生から定期演奏会で吹いてきましたが、3年生、4年生になってやっと自分の力が発揮できるようになったかなと思います。今回は「ペンタトニック・ファンファーレ」と「交響的断章」にソロパートがあり、初めてブラスデッキで吹くのでとても緊張しました。練習では、大きく吹くことや細かなニュアンスを指導され、そこをできるようにするのが難しかったです。「ピース、ピースと鳥たちは歌う」では指揮がないところをみんなで合わせる所が難しく何度も意識して練習しました。「ピース、ピースと鳥たちは歌う」や「ペンタトニック・ファンファーレ」など初めての曲は何回も音源を聴いて身体に染み込ませていって、身体に覚えさせるようにしました。酒井先生から「ペンタトニック・ファンファーレ」の指導を受けた後は、みんながその意図を表現しようという意識が高まり、音楽性が変わったように思いました。最後の演奏会に向け、難しかったけれども、よい音楽を精一杯届けられるように練習してきたので、観客のみなさんに楽しく聴いていただけていたらいいなと思います。卒業後は中学校の音楽教員になり、市民楽団でトランペットを続けていくつもりです。