回を追うごとに進化を続ける「工芸のちから2026」が開催 回を追うごとに進化を続ける「工芸のちから2026」が開催
2019年の初開催から数えて5回目を迎える「工芸のちから2026」が、2026年5月27日から6月1日にかけて、あべのハルカス近鉄本店ウィング館9階の催事場で開催されました。出展者は金属工芸、陶芸、テキスタイル・染織、ガラス工芸の4つのコースの卒業生や在学生に加え、教職員やスタッフも参加。世代を超えたクリエイターたちの作品が一堂に集結し、ものづくりの情熱と多様な表現が訪れた人々を魅了する、熱気あふれる展覧会となりました。
工芸学科卒業生の展示イベントとして定着した「工芸のちから」
「工芸のちから」は、2016年始動の「ガラス工芸の新進作家展」を前身とし、2019年に初開催。近年は「Osaka Art & Design」の一環としても位置づけられ、大阪の重要なアートイベントとして定着しています。
「工芸のちから」の特徴は、金属工芸、陶芸、テキスタイル・染織、ガラス工芸といった4つのコースが垣根を越えて連携しているところ。各コースを卒業した作家たちが実行委員会に名を連ね、日々連携を取り合いながら、この「工芸のちから」を発展させ続けてきました。
作家の年齢層も20年以上のキャリアを持つベテランから、昨年まで学生だった新進作家までさまざま。幅広い年齢層の作家同士が交流を深める、有意義な場としての役割も果たしています。
当初は40名ほどだった卒業生の参加が徐々に広がり、今では在学生や山野学科長をはじめとする教員も作品を出展。総勢100名を超える規模へと成長し、工芸学科を代表する一大イベントとなっています。
世代を越えて継承する展覧会へと発展させていく
前身の「ガラス工芸の新進作家展」から運営を支えてきた大西未沙子先生から、実行委員の代表を引き継いだのは、金属工芸コースの吉田昇平先生です。
吉田先生は2017年に金属工芸コースを卒業後、一時は制作から離れたものの、モノづくりの面白さが忘れられず、作家活動を再開。「工芸のちから」にも出展を重ねてきました。「ここに参加している卒業生は、まだ全体のほんの一部。もっと多くの作家が発表できるよう場を整えたい」と、実行委員会の代表を引き受けることに。そのためには「世代を越えて引き継いでいくことが大切」と考え、次世代の貴重な発表の場として、本展をさらに発展させようと抱負を語ります。
卒業生が自ら運営することでプロデュース力を磨く
会場のレイアウトや出展者への連絡、あべのハルカス近鉄本店との折衝など、多岐にわたる業務は、卒業生が主体となって進めています。代表の吉田先生たちがめざすのは、展覧会のステータスをさらに高め、在学生が卒業後の出展を目標とするような展示販売会へと成長させること。「10回、20回と回を重ねるごとに内容を深め、ゆくゆくは未出展の卒業生たちからも憧れの眼差しを向けられるような、価値ある場へと飛躍させたい」と、吉田先生は今後の展望を語ります。
その持続的な発展に向けて、大阪芸術大学内で開催されるもうひとつの「工芸のちから」展との密な連携が大きな鍵を握ります。
先立って行われた教員・スタッフ展と工芸のたまご展
そのもうひとつ展覧会が、大阪芸術大学の芸術情報センターで開催されていた「工芸のちから2026 -教員・スタッフ展-」です。
これは、2026年5月11日から22日に開催された工芸学科の中核となる学内展。工芸学科の教授陣に加え、各コースから第一線で活躍する卒業生アーティストたちを特別に招聘。多種多様な美意識と独創的なアプローチが交錯する、見応えある空間が創り出されました。
また、同時開催の「工芸のたまご」展では、これからプロの工芸家をめざす4年生たちが、瑞々しい作品を発表。
熟練の技が光るプロの表現と、未来を担う若き感性が響き合う、まさに工芸の「いまと未来」を体感させる展覧会となりました。
この学内展とあべのハルカス近鉄本店での展示販売会、この2つの「工芸のちから」が活動の柱となり、工芸学科のさらなる躍進と可能性を拡大しています。
在学中は、ずっとガラス工芸を続けようとは考えていなかったかもしれません。転機となったのは、ガラス工芸コースでお世話になった故内村由紀先生からの「徳島ガラススタジオで講師をしないか」というお誘いでした。その言葉があったからこそ、卒業から10年近く経った今も、私はこうしてガラス工芸を続けています。
スタジオの生徒さんたちは、私よりも長くガラスに親しんできた経験豊富な方ばかりでした。「講師でありながら、生徒さんたちの方がはるかに先輩」という環境のなか、必死で様々な技法を勉強し、実践を重ねました。
今回展示している「ハニカム」シリーズは、その徳島ガラススタジオで働き始めた頃から作り続けている大切な作品です。ガラス棒を伸ばし、熱を加えて圧着することで生まれる六角形のハニカム構造。それを皿やグラスの形に造形し、丁寧に研磨していきます。じっくり磨き込むことで生まれるツヤツヤとした独特の光沢が、私はとても好きなんです。
エネルギッシュでパワーを感じさせる大作を作りたい。その想いを胸に、これまで陶芸に取り組んできました。これは、田嶋悦子先生の「Hip Island」という作品に出会い、大きな衝撃を受けて以来、ずっと抱き続けている私の原点です。
私は以前から、生命を育む「子宮」をイメージした作品を制作してきました。今回の出品作「夢芽(ゆめめ)」も、私たちが日々生み出す感情や思考が、意識にのぼる前の“情念”として渦巻きながら成長していく姿を形にしたものです。
天へと立ち上がっている造形は、空間から様々な想いを吸収し、人間のエネルギーの源となる情念を育てる「根」を表しています。あらゆる感情へと分化する前の、ピュアな情念を吸収して生まれる小さきものたち。それらは多様な想いを栄養にしながら、新たなエネルギーを生み出す「芽」を育んでいきます。
今後は、有機的な力強さをより質感で表現していくために、釉薬(ゆうやく)の研究をさらに深めていきたいと考えています。
大阪美術専門学校で金属工芸を学び、恩師の勧めもあって大阪芸術大学へ編入しました。さらに深くこの世界を究めようと思ったのは、高校時代に金属工芸を学んでいた母の影響もあるかもしれません。
私は、ただ鑑賞して美しい作品を作るよりも、日常で何かしら役に立つ「道具」を作ることに魅力を感じます。金属工芸という手段は、自分が意図した形や色合いを正確に表現しやすく、私の肌にとてもフィットしています。
今回展示しているのは「やかん」と「メンダコ」です。なかでも薬罐(やかん)は、金属を叩いて立体に成形し、正確な角度で注ぎ口を作り、水漏れを防ぐために精密に接合するなど、高度な技術が必要とされる難易度の高い意欲作です。特に「錫(すず)引き」の工程には大変苦労しましたが、この難題に挑んだことで、自分自身のこれからの課題が明確になりました。
「工芸のちから(工芸のたまご)」に出展した「NEW BORN MY PIECE #1-2」は、私が昔着ていた服を解体し、今の感覚で再構築した作品です。
古着を解体する瞬間、それを着ていた頃の記憶や感情が鮮やかによみがえってきます。そうした過去の情動を味わいながら形にしていくプロセスを経て、私は「織物(テキスタイル)」を一種の記憶の記録媒体として捉えるようになりました。
実は、この作品のプロトタイプ(試作)では、さまざまな情報を行き来させるコードやケーブルを織り込んで制作していました。まさに情報の記録媒体そのものの表現でしたが、少しコンセプチュアルになりすぎると感じたため、今回は「自分が着てきた服を記憶とともに再構築する」という、より身近で温かみのあるアプローチへと行き着きました。この展覧会に参加し、たくさんの刺激を受けました。期間中も「次はどんなものを作ろうか」とワクワクが止まりません。来年もまた、進化した作品とともに参加したいです。