ピアニスト・作曲家で演奏学科客員教授の中村天平先生は、大阪芸術大学でクラシックを本格的に学ぶ前には解体業に従事したこともあり、現在は世界を舞台に活躍する異色の経歴の持ち主です。2025年1月15日、「音楽とチャンス」をテーマに特別講義を実施。希少なチャンスをつかむにはどうするべきかに焦点を当てて、学生たちが自身をアピールする演奏を披露し、音楽家としての将来を考える熱い学びが繰り広げられました。
力強さと繊細さをあわせもつ独自の表現で聴衆を魅了し、国内外を精力的に巡って演奏活動を行う中村天平先生。演奏学科客員教授に就任以来、熱のこもった特別講義で学生たちを指導。今回は「音楽とチャンス」というテーマで、ここぞというチャンスをつかみ取る秘訣を伝授しました。
「チャンスというものは一生にそう何度もないし、まったく同じ機会は二度と来ません。だからこそ全力でやるしかない。音楽の世界でも、オリンピックで活躍するアスリートのような努力と精神力が必要」と語る中村先生。渡米前日にプロデューサーに会いに行った経験や、飛躍のきっかけになったテレビ出演のエピソードなども織り込み、音楽家としてチャンスをつかみ取るための準備や覚悟についてレクチャーしました。
めざす方向性をしっかりと考え、チャンスがやってきた時に自分の個性や魅力を最大限に表現できる曲を常に準備しておく。その大切さを伝えるため、中村先生自身のキャリアの出発点となったオリジナル曲を演奏。学生たちに、自ら積極的にチャンスをつかみ取るエネルギーを送りました。
続いて学生アーティストたちが登場。4組の学生がそれぞれ「自分の良さを最大限に発揮できる楽曲」でパフォーマンスを行い、その曲を選んだ理由や、今後の活動方針などについて中村先生と語り合いました。
まずは、演奏学科ポピュラー音楽コース3年生の山本満月さんが、ピアノの弾き語りで自ら作詞作曲した作品を披露。「言葉の対話は苦手ですが、歌になら思いや感情を乗せて伝えられる。この楽曲には自分のありのままを表現しました」と山本さん。中村先生は「深い世界観があって素晴らしいけれど、もう少しピアノの技術を磨き、コード進行などでドラマティックな部分を作れば、さらに良くなる」と助言し、アレンジを加えた模範演奏も行いました。
続くアーティストは、演奏学科クラシック声楽コース 3年生の阿南萌実さん。「恋の歌で天真爛漫な自分を表現したい」と華やかなソプラノアリアを歌唱しました。「宝塚歌劇団で活躍後、大阪芸大に入学。歌の指導や劇団主宰・脚本などにも興味があり、自分の方向性を見つけたい」という阿南さんに対し、中村先生からは「プロデューサーやアドバイザーと二人三脚で進んでは。何事にも戦略が必要だけれど、人に迎合すぎないことも大切」とアドバイスが送られました。
3組目は、いずれも演奏学科ポピュラー音楽コース 2年生のサミュエルさん、福田匠さん、神田和さんによるアコースティックな洋楽ポップス。「自分のルーツや個性をいかしたい」「ギターでマルチに活躍したい」「ピアノの抑揚表現が得意」という3人の思いが詰まった曲を演奏。「プロモーションは人と会うだけでなくSNSも大事。リアルもオンラインも、トータルに頑張ってほしい」という中村先生の激励を受け止めていました。
ラストは音楽学科 音楽・音響デザインコース 3年生の山﨑世知留さん。「体の表現でも魅せながら、感情移入して空気感まで作り出せる演奏を」と、マリンバの独奏曲を披露。「吹奏楽などの楽曲も作曲して、マリンバを軸に活動の幅を広げたい」と語る山﨑さんに対し、中村先生は「演奏を極めながら、意図を持ってプロデュース力を身に付けるプランは素晴らしい」と応援の言葉を贈りました。
「挑戦する前に何年も準備を重ねる人が多いけれど、今の情報化社会ではいいものもすぐに古くなってしまう。5年かけて100%の準備をするより、80~90%でも年に1度挑戦し続ける方が、5年後にはより大きな成果が得られる。本当に自分がいいと思ったら、不完全であってもどんどんチャレンジしてほしい」と中村先生。夢の実現をめざす学生たちの背中を力強く押して授業を締めくくりました。
音楽の世界では大きなチャンスは意図せず突然巡ってくるもの。日頃から備えておき、チャンスが訪れたら全力でつかみ取りに行くべきです。今回伝えたかったのは、そうした意識をもって行動していくことの大切さ。出演してくれた学生アーティストや聴講してくれた皆さんにとって、少しでも何かのきっかけになれば嬉しいですね。授業後もSNSのDMで質問に答えたり、音源にアドバイスしたり、できる限り学生たちをサポートしています。みんな可愛い後輩たちなので、何か力になれたらいいなと思っています。 大阪芸大では演奏学科や音楽学科で音楽の幅広い領域を専攻でき、他にも様々な芸術を学べる学科が揃っています。自然に囲まれ設備も教員も充実した環境で音楽に没頭し、やりたいことに集中できますが、一方で立地的に、他の音楽系大学と連携し切磋琢磨し合う場面は多くない。だからこそ自分がどんなアーティストになりたいか強い信念を持ち、何をどう勉強していくか、自分でしっかりとプランを組み立てることが大事です。音楽は競争ではないけれど、マーケットに出た時には競争的な要因が働きます。そこで流されてしまわないためにも、何となく入学して教員や同級生まかせで勉強や練習をするのではなく、自分自身に強い芯が必要なのです。 僕は芸大生時代、世界を見据えたビジョンを持った仲間が周囲におらず、ひとり孤独な修行を積むように過ごしていました。でもそれは、毎日ワクワクしながら将来の夢と音楽への情熱をふくらませる、人生で一番楽しい時代でもありました。実際に音楽業界に入ると理想と現実のギャップに苦しむこともありますが、当時のキラキラ輝いていた4年間は、何ものにも替えがたく、今に通じる原点にもなっています。学生の皆さんにもぜひそういう時間を過ごしてほしいと思います。
今回の特別講義で一番印象に残ったのが「同じチャンスは二度とやって来ない。だからチャンスが来た時にはすぐに掴むことが大切」という中村先生の言葉です。先輩方の演奏に対して、中村先生は良い部分はしっかりと褒め、改善すべき点は的確に指摘。「どうすれば作品がもっと良くなるか」「さらに成長するためには何が必要か」を学生と一緒に考えアドバイスしてくださる授業は、すごく刺激になりました。次にこういう機会があったら、ぜひ演奏にチャレンジしてみたい。また自分の悩みでもある緊張のコントロール方法なども相談してみたいです。 大阪芸大を選んだのは、様々な学科や個性的な人が集まるのびのびとした雰囲気や、学科の枠を超えた交流もできる点に魅力を感じたからです。演奏学科クラシックコースは少人数で、プロの演奏家でもある素晴らしい先生方から、技術面からマインド面まで本当に手厚い指導を受けることができます。演奏家・音楽人として大切なことを学び、音楽と向き合う毎日を過ごしています。 ピアニストとしての私の武器は抒情性なのですが、思い描いたイメージを実際の音にする力はまだまだ不十分。頭と指の神経をリンクさせて、頭の中の曲の風景や映像を聴き手と共有できるような演奏が目標です。少しでも癒しになるような演奏を届け、人に寄り添うことのできる演奏家をめざして、もっともっと努力しなければとあらためて決意しています。
これまで僕は主にゲーム音楽を聴いてきて、本格的に音楽を学び始めたのは大学に入学してからのこと。なので、この授業で色々な要素を取り入れた楽曲にふれることができ、とても楽しかったです。中村先生の演奏を聴き、ピアノという一つの楽器で、迫力ある曲から落ち着いた曲までこんなにも豊かに表現できるんだと感銘を受けました。今日の感動と印象をしっかり心に刻み付けてイメージをふくらませ、色々なテイストの楽曲制作の参考にしたいです。 学生アーティストの皆さんの演奏やコメントからは、その曲にかける一人ひとりの思いがしっかりと伝わってきました。その人の生き様まで感じられるようなパフォーマンスもあって、すごかったです。自分自身をプロモーションするということについてのお話もとても勉強になり、これから自分に合う方法を見つけて実践したいと思いました。 音楽学科に入学したのは作曲を学ぶため。クラシックや現代音楽、作曲、音響と幅広く勉強できるこの学科で、今後作曲していく上での基盤をしっかりと作りたいと考えています。将来はゲーム音楽やボーカロイドの作曲家として活躍したい。また、ゲームそのものを作ることにも興味があります。大阪芸大には色々な学科があるので、音楽だけでなくキャラクター創作や絵画、シナリオなどについても勉強していけたらと思っています。