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「音」を遊ぼう!【evala】 「音」を遊ぼう!【evala】

音楽学科
2021/10/25

社会を変えはじめている、「音」に関わる新潮流に注目だ。

たとえば、劇場空間ではテクノロジーを駆使したアート表現と音楽が共鳴する。たとえば、音が都市環境を新しくするインスタレーションに人々が心を委ねる。メディアの音や音楽は、その作り方やビジネス的価値観が大きなうねりをあげ、AIの作曲家が誕生し、ゲームやSNSから生まれる音楽がヒットチャート席巻することも増えてきた。いま「音」が面白いのだ。聴覚のアート「音楽」の表現領域がどんどん変化し、驚くほど進化している。アートそのものをリードし、メディアやビジネスシーン、日常さえ変えはじめている。O Plus Vol.6では、その第一線の声を聞いた。


Photo: Maciej Kucia

Text: Takashi Watanabe

映像のない映画館や建物のない都市計画まで
イマジネーションの源泉としての「音」

耳で視るー。サウンドアーティスト・evala氏が2016年から取り組む、新しい聴覚体験プロジェクト『Seeb y Your Ears』のコンセプトだ。evala氏は自ら開発に参加する立体音響システムと独自の「空間的作曲」を駆使し、美術館や劇場、庭園にさえ、「音による新しい空間体験」を創出する。


2020年1月に発表された『Sea, See, She ‒ まだ見ぬ君へ』は約70分間、真っ暗闇で音を体感する“インビジブル・シネマ”(耳で視る映画)だ。世界中の街なかや自然環境でフィールドレコーディングした音源などから作曲された音が、暗闇を生きもののように360度駆け巡り、観客一人ひとりの心の中のスクリーンに、百人百様のイメージを投影していく。同作は緊急追加公演が実施されるほどの話題となり、文化庁メディア芸術祭アート部門優勝賞にも輝いた。


「インビジブル・シネマは13年に発表した『大きな耳をもったキツネ』の発展形。来場者がたった一人、全暗転の部屋で10分間、身体中を音にまさぐられる、特殊な聴覚体験をしてもらうインスタレーションです。拷問のようで怖いと言っていた方も、体験後にはみなすっきりとした表情をして、こんなものが見えた、あんなものが見えたと視覚的な感想を嬉々として話してくれました。楽器が巨大化したり、耳が水で溢れてしまったという感想も。しかも、その内容や物語は、面白いほどみんなそれぞれ違っている。これを劇場に持ち込んで、大勢が同時に体験できるなら?という模索が『Sea, See, She』に繋がっていったのです」


evala氏は視覚情報過多の現代において、目以外の知覚器を揺さぶる体験がより求められるようになると考えている。聴覚を刺激する「音」こそ、その最たるものだと信じている。そして、折しも発生した新型コロナウイルスのパンデミックで、この潮流はさらに勢いを増したと感じている。


「地震などの災害と違って、コロナ禍は全世界で同時に起こったことの影響は大きい。移動ができなくなり、暮らしが制限された。それにより人々の価値観は変わり、これまでの20世紀型の消費文化が見直されるようになった。その中で、人々は外側から与えられつくられた視覚情報よりも、内側から引き出されるイマジネーションに価値を見出すというパラダイムシフトが起きています。個々の心や体の中に眠っているものを呼び覚ましていく。そんなチカラが音にはあるんです」


今後、evala氏は3つの活動をさらに追求していくと話す。第一にインビジブル・シネマのシリーズの発展。第二にシナスタジアラボと取り組んだ『シナスタジアX1 - 2.44 』のような分野横断型/複数の知覚を組み合わせた共感覚体験の創出。第三に都市計画への積極的な参画。いわば音による“見えない建築”であるという。


「現在の立体音響技術を駆使すれば、たとえば虎ノ門に高さ70m の滝を創り出すことだってできる。実際の建築と流水でやろうとすると途方もない話ですが、音によって、そのスポットに行くとまるで滝を目の前にしたような感覚になるとか、渋谷の空き地を静かな湖にすることが可能なんです。今までの都市計画は、視覚的な建築物を建てていくばかりで、音はBGM的にうるさく演出しているものばかり。これからの都市に本当に必要なのは、逆に音をスッと抜いてあげた“ 空(くう)のスポット”。新たに建てなくても、そこにあるものと共存しながら人々の意識や知覚を変えていけるのは、やっぱり音ならではの魅力、面白さですから」。


Q. evalaさんが影響を受けた表現者をあげてください


A . サウンドアーティストのレジェンドである鈴木昭男さん。私が小学校低学年の時、40代の鈴木さんはすでに世界的に活躍されていて、たまたま新作を京都北部の山奥でつくることになり、私が住んでいた丹後にやってこられた。母親が制作現場におにぎり等の差し入れしたりして、そこに付いていき、たまに鈴木さんに遊んでもらっていたんです。その時つくられた鈴木さんの作品の中に入ったとき、普段聴いている潮騒に変調がかかるという不思議な音の体験をしたことを覚えています。それからすぐ成長とともに彼と会うことはなくなったのですが、随分と時を経て、僕も音楽家となっていた25年後、山口情報芸術センターから鈴木昭男さんと共演してほしいという依頼を受けました。メールでのご挨拶で本名を伝えると、「あの時の少年ですか!」と。その公演で演奏をご一緒し、自分の原体験は鈴木さんだったことにと気付きました。そしてつくったのが『大きな耳をもったキツネ』です。これは私の代表作になり、See by Your Earsの出発点にもなりました。


鈴木昭男氏とは─1960年代初頭から「聴く」ことを主体とした作品で国際的に活動するサウンドアートの先駆的存在。街のエコーポイントを探るプロジェクト「点音(おとだて)」を世界30年以上で開催。世界各地の美術展や音楽祭に招待されている。

写真はevala氏とシナスタジアラボのコラボ作品 『シナスタジアX1 - 2.44 波象(Hazo)』 ©︎ Synesthesia Lab

●evala

音楽家、サウンドアーティスト。新たな聴覚体験を創出するプロジェクト「See by Your Ears」主宰。大阪芸術大学音楽学科客員教授。立体音響システムを駆使し、独自の“空間的作曲”によって先鋭的な作品を国内外で発表。2020年「インビジブル・シネマ(耳で視る映画)」をコンセプトにした『Sea, See, She ーまだ見ぬ君へ』を世界初上映し、第24回文化庁メディア芸術祭アート部門にて優秀賞を受賞。2021年、空間音響アルバム『聴象発景 in Rittor Base ‒ HPL ver 』が、Prix Ars Electronica 2021 Digital Musics & Sound Art 部門にて栄誉賞。