「劇団☆新感線」いのうえひでのり先生・橋本じゅん先生による「ぶつかり稽古」を開催 「劇団☆新感線」いのうえひでのり先生・橋本じゅん先生による「ぶつかり稽古」を開催
舞台芸術学科による「ぶつかり稽古」が1月10日に大阪芸術大学芸術劇場で開催されました。本学卒業生であり、劇団☆新感線の主宰で演出家・劇作家いのうえひでのり先生(舞台芸術学科教授)と、同劇団の看板俳優である橋本じゅん先生(舞台芸術学科教授)から直接演技の指導を受けることができるという、学生にとってまたとない好機。参加した学生たちは両先生とともに芝居を作るという、得難い経験を積むことができました。
「ぶつかり稽古」を初開催
今年から年に1度開催されることになった「ぶつかり稽古」とは、芸術劇場のステージで舞台芸術学科演技演出コースの4年生が劇団☆新感線のいのうえ先生、橋本先生と一緒に立ち稽古を行う特別な授業です。
学生たちには事前に課題の台本が渡され、それぞれで準備をすすめてきました。当日を迎え、劇場はアップをする学生や見学の学生で、始まる前から熱気が感じられます。
冒頭に山本健翔学科長がこの特別授業への思いを述べました。
「今日はいのうえ先生が演出をし、橋本先生が主演を務めた劇団☆新感線の作品に4年生が挑む『ぶつかり稽古』です。みなさんには両先生の放つ熱をガンガンに浴びて卒業していってほしいです。今日観客席で見ている下級生も含めて、これからここでじゅん先生とぶつかったり、卒業後はさらに次の世界でぶつかっていってほしいなという意味も込めて開催します」
いのうえひでのり先生と橋本じゅん先生がステージに登壇。山本学科長を交えたトークでは、2025年に劇団☆新感線45周年に行われた『爆烈忠臣蔵』をシングルキャストで全72公演完走した話題から、橋本じゅん先生が「健康マスト」と体力維持の大切さを説いたり、おふたりの学生時代についてのエピソード、いのうえ先生の舞台づくりのルーツなどが語られました。
「僕らが学生の頃は、演出家・つかこうへいさんの舞台が大ブームで、ずっとつかさんのコピーをやっていました。実は劇団☆新感線はつかさんのコピー劇団でスタートしたんです」(いのうえ先生)
いのうえ先生は高校時代にテレビで観たつかこうへいさんの舞台に衝撃を受け、特徴的な演出方法である「口立て」(台本なしに役者に指示したセリフを言わせて芝居を作り上げていく)に惹かれたといいます。
「その稽古方法に憧れて、どうしても自分の芝居が作りたくて、口立てじゃないけれども、自分が(役者に)『これやってみよう』という感じの稽古になっていったというのが、今のスタイルの始まりです」(いのうえ先生)
戯曲『港町純情オセロ』に4年生が挑戦
今回の「ぶつかり稽古」も、いのうえ先生が劇団☆新感線で行っている立ち稽古そのままのスタイルで行われました。
題材はシェイクスピアの『オセロ』を昭和戦後期の神戸~小豆島あたりに設定を置き換えた『港町純情オセロ』。2011年に橋本じゅん先生の主役で初演された劇団オリジナル戯曲です。テーマになるのは嫉妬。じわじわとオセロを疑心暗鬼にさせ破滅に追いやる悲劇です。
今回は主人公のオセロを橋本先生が演じ、若妻のモナ(デズテモーナ)とオセロに嫉妬心を抱く伊藤(イアーゴ)役を学生が交代で担当しました。
簡単なセットが組まれた舞台上、学生のそばにいのうえ先生が立ち、芝居がスタート。
学生がセリフを言うと、即座にいのうえ先生から演出が入り、セリフのトーンや身振り、立ち位置、体の向きなどの指示が飛びます。学生は言われたことをその場で演技に反映させるというやりとりを繰り返します。いのうえ先生はセリフのニュアンスや、その時の役が置かれている状況、役がどんな気持ちなのかなど、思い描く芝居を伝えるために必要な情報を演者に投げかけて、芝居を組み立てていきます。
例えばモナ役の学生に「夫であるオセロにもっと甘えて」という演出をつけたシーンでは
「モナは自分がかわいいと知っているのでそれを使う。無自覚なんだけれども自然とあざとかわいいができるんだよ。とてつもない武器なんだ。そこにオセロははまっていって、やがて悲劇になっていく」(いのうえ先生)と、人物像がどうテーマにつながっていくのかなどを伝える一場面がありました。
橋本先生は、学生たちの演技の変化を受け止め、臨機応変な対応力で演技を返します。学生たちは橋本先生の胸をかりて、体当たりで役を演じました。
演者目線の指導が橋本先生からも入り、わかりやすい表現で学生たちの理解を促していきます。強調していたのは演出家から出された指示を自己流ではなく、そのまま表現すること。
「演出家は舞台全体を見渡していて、頭の中に絵があるのでね。まずは言われた通りにきちんとできるようにしよう。演出家は役者にいきなり正解を伝えています。なぜそうなのか?と思うと思うけれども、そこを埋めるのは今ではなく、持ち帰って考えてみて。実際の芝居ではこれを1か月くらい続けて仕上げていくから、その過程でどうしてそう言われているのかつかめてくるものなので」(橋本先生)
いのうえ先生の演出はスピーディーで臨場感たっぷり。舞台での体の向きひとつで芝居が大きくみえたり、感情がよく伝わったり。実践的なテクニックがどんどん指導されていきました。興味深いのは、同じシーンでも演者が変わると違った雰囲気になり、いのうえ先生の学生への演出も全く変わってくること。その場でその演者との芝居が生まれてくるライブ感やエネルギーがぶつかりあっていく様子は、稽古とはいえ観客席で見ている側も引き込まれました。
立ち稽古が終わった後は質疑応答の時間が設けられました。
「演出のプランはあらかじめどれくらい計画しているのですか?」といういのうえ先生への質問に
「ざっくり本をよんで終わりくらい。立ち稽古をしながら探っていくけど、立てる所はどこにセットがあって、どこに扉があって出入りが決まってくるから5~6割はここできめて、あとはやりながらミザン(役者の立ち位置)を決めていく。自分のやりたいプランがあったほうがやりやすいのである程度形にして、進めながら面白い所を探っていく。稽古を重ねていくともっと面白い言い方がでてくるから、残り2割くらいを稽古の過程で決めていく感じですね」(いのうえ先生)
舞台に立った学生からは「実際にやってみたら、つけていただいた演出をメモする間もなくて、次に同じようにできる自信がないのですが」といった質問があげられました。
いのうえ先生は「今日は1回しかやらなかったけれども、実際の公演では1か月くらいつきっきりでするので、何度も稽古をしているうちに入ります」と答えました。
また、橋本先生は「はじめは戸惑うと思います。演出で、『ここにきてしゃべって』という要求をされることがあると思うけれど、ミザンは基本舞台上にデッド(スペース)を放置しません。役者が空間把握能力を高めていくと、例えば平坦な所では周りが木ばっかり見えるけど、ドローンで上から見たら前方後円墳だったのか!みたいに演出の意味が理解できるようになる」と分かりやすい例えで答えました。
ぶつかり稽古を終えて、いのうえ先生は
「劇団☆新感線の稽古は基本的にこういう作り方をしています。それを今日は垣間見てもらったので、今後どこかで芝居をするときに参考になればいいなと思います」と述べられました。
言われたように演技するのはなかなか難しいことですよね。僕はみなさんの気持ちがわかります。学生時代バイトを終えてから夜に稽古に入って、僕のセリフで1時間とか2時間とかかかってもできなくて難しかったという思いがあるので。でも、そこができるようになると今は分かっているから、今度は僕が学生に通訳じゃないですけれど、かみ砕いて伝えられればいいなと思っています。今回はうち稽古のチラみせでした。ここから1か月くらいかけて仕上げるというのを想像してもらえたら、現場の感じがわかるのではないでしょうか?体力は大事ですよ。芝居は疲れていなかったら楽しいですが、しんどいなと思うから、いろんなことが辛くなってくる。体力がつけられたら、ずっと笑ってられるので、まずは健康を大事にしましょう。
大阪芸術大学に入学した理由のひとつが「劇団☆新感線のいのうえ先生と橋本先生に直接ご指導いただけるから」でした。その先生方に実際に劇団で上演された台本を使ってご指導いただける機会はそうないと思い参加しました。演出をつけられながら演じることに慣れていなかったので、少しパニックになりながらも、ついていかなければという意識を強く持てたと思います。いのうえ先生は今回の稽古で私が最初にしゃべった「あんた。ちょうどえぇところに」というモナのセリフにとても時間をかけて演出をつけてくださいました。観客はひと言目でその役がどんな人物なのかを想像するので、大切にしなければならないセリフだと思います。また、橋本先生が演出に合わせて演技を変えているのを目の当たりにしてとても勉強になりました。シーンとシーンの間でアドバイスをくださるなど、先生としてもとても尊敬できます。将来は、自信を持って親を劇場へ呼べる役者になりたいと考えています。卒業後も役者としてはもちろん、人としても胸を張れるように日ごろからの努力を続けていきます。
準備は台本と原作の『オセロ』を交互に読んで登場人物の性格を把握し、それが極道の人間になったらどうなるのかを考えました。モナの「ほな明日の夜、無理やったら火曜の朝、お昼、夜、水曜の朝!」というセリフでひとつずつ動きを入れるという演出が印象的でした。距離感や動作を実際に変えるのは難しかったですが、動きひとつでモナが全然違って見えると分かって面白かったです。
橋本先生は毎回セリフの言い方や立ち振る舞いを変えているけれども、役そのものの軸がしっかり立ったままである所がすごいと思いました。今回のぶつかり稽古のなかで「自分のリアルと役のリアルは違う」という言葉をいただきました。今まで演技を嘘っぽくしたくないとリアルを意識して演じていたのですが、役のリアルという視点について欠けていたところがあったので、とてもよい学びになりました。本当に貴重な機会で幸せな経験でした。普段の授業とは違う学びを得られるので、受けてよかったと心から思います。卒業後はまだ未定ですが「表現」というものから離れたくないなと思っています。
いのうえ先生は、口頭で演出をつけるスタイルの方なので、すぐに対応する能力が必要だと身に沁みました。「オセロに甘えて」との演出をいただいたのですが、恐れ多くて橋本先生に甘えることを躊躇していると「もっと、甘えて」と言われました。いのうえ先生は自分の思い描く演出を役者に伝えながら、役者の状態をとても観察されているのだなと感じました。橋本先生は演出や相手役に合わせて演じ方を変えたり、学生がわかりやすい言葉で指導したりとその場で起こっていることを観察しながら即座に行動をされていて、演技技術の高さに加えて、視野の広さや冷静さ、判断能力の高さにも驚きました。普段の授業でも活躍されている先生から指導を受ける機会はありますが、実際にその劇団で上演した戯曲をその劇団の演出家に演出をつけていただくのは貴重な経験です。また、演技を先生に見ていただくことはあっても、先生と芝居を作る機会はあまりないので、とても大切な学びの場になりました。卒業後は仕事をしながら自分がどのような表現者になるのか改めて考えていきたいです。