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世界各地の街を歩き、モノクロフィルムで撮影した膨大な数の写真を一枚一枚手作業でコラージュした「Diorama Map」シリーズで世界に注目されることになった西野壮平さん。2011年にロンドンのマイケルホッペンギャラリーにて、海外で初めて開催した個展を皮切りに、2013年にはNYの国際写真センターのトリエンナーレ「A Different Kind of Order」に参加し、2016年にはサンフランシスコ近代美術館(SFMOMA)にて個展が開催されるなど数多くの実績をあげています。海外や首都圏での個展が多かった西野さんにとって、関西初となる個展「線を編む」が尼崎市総合文化センターにて2022年11月26日から12月25日まで約1か月に渡って開催されました。
学生時代はあまり周囲に馴染めず、1人で行動することが多かったと思います。大学から実家に帰るときに、梅田でよくブラブラしていました。そんなとき、誰も来ないような非常階段にのぼって地上に向けてシャッターを切っていたんです。
同じ頃、撮影してきた軌跡を連続して眺められるベタ焼きが面白いな、と感じていたんですね。梅田の非常階段から撮影したイメージのベタ焼きを切り出して、コラージュしてハガキぐらいのサイズの作品を作ったのがDiorama Mapの始まりです。
現地での撮影が約1ヶ月から1ヶ月半。現地で過ごす日程を1ヶ月半までにしているんです。それが一つの街に旅人として過ごせる期間だから。今までの経験からすると、2ヶ月以上滞在しているとその街に住んでいる人の目線に近くなって新鮮味が薄れてしまうんです。あと、Diorama Mapはフィルムで撮影しています。だから、フィルムが尽きれば旅は終わりというわけです。
撮影した写真はフィルムで200〜250本と膨大なので、現像と焼付けだけで1ヶ月ほどかけています。それからコラージュの制作に1ヶ月以上といったところでしょうか。まず、キャンバスにコラージュするイメージをラフにスケッチしていきます。そこに切り出したベタ焼きを貼っていくんです。まずは都市の中心となる部分から作って、アメーバが這い出していくようにコラージュすることが多いですね。最終的には超高解像度のカメラでコラージュ作品を分割して撮影。その画像の歪みを補正して繋げていって出力するというプロセスをとっています。
そうですね。New Yorkを制作した頃は高層ビルから見下ろすように撮影した写真を使っていました。確かIstanbulからは視点が変化してきていますね。街をいく人々の写真やアイレベルで撮ったモスクや塔、水道橋が被写体に加わっていますね。視点が多層的になっていったのは、2009年頃にマイケルホッペンギャラリーのマイケル・ホッペンに見いだされて、作品が多くの人の目にさらされるようになったからかもしれません。批評されることによって作品がより深化していった時期でした。
東京に拠点を構えていた頃は、アトリエと住居が同じスペースでした。眠くなるまで制作して起きたら、すぐ制作にかかるという制作と日常生活の切れ目がない日々でした(笑)。
現在は静岡県の西伊豆に拠点を移して、住居から車で約1時間の戸田港の近くにアトリエを構えています。日々、車で移動する時間が新たな作品を生み出すきっかけにもなっています。
世界各地の都市を歩き回ったGPSの位置情報を僕は記録しています。その位置情報のポイントを手作業で、黒い紙に針で穴を開けてプロットしていきます。背面から光をあてると僕がその日歩いた軌跡が有機的な線となって浮かび上がるんです。移動という側面にフォーカスをあてた、ある特定の日の記憶です。だから、Day Drawingと名付けています。
冬になると知床の海に現れる流氷は北海道の海でできるものだと思い込んでいたんです。ですが地元の方に聞いてみると、遥か北のロシアのマガダンという土地で凍りついた氷が南下して北海道に辿り着くことがわかったんです。そこで、流氷が産まれるマガダンと知床の斜里町で撮影したコラージュ作品を制作しました。オホーツク海の北の果てから北海道に流れ着くまでの旅を造形的に表現するために、空中に浮遊させるという、いつもはやっていないインスタレーション的な手法をとってみました。
今まで旅をしてきた都市には必ず川が流れていました。それは人間の営み、具体的には農耕や貿易、日々暮らしていくにも水が必要不可欠だから。川のないところに文明は育まれないんです。そんな想いから、イタリアのボローニャを流れるポー川を辿ってみようと思いたったのが始まりです。アルプス山脈の源流からアドリア海へとどう流れていき、人々の生活とどのようにつながっているかを考えながら川沿いを歩いて撮影していきました。
西伊豆に拠点を移したのは駿河湾越しの富士山の雄大な姿に魅了されたから。Everestを制作したら、富士山もやりたくなってしまいました。毎日のように、その姿を見ているんですから。関係者だけで行われた浅間神社のお山開きや吉田の火祭り、東京オリンピックの聖火リレー、外国人観光客がいないなかマスクをして登る日本人登山者といったモチーフが散りばめられ、コロナ禍という時事性を多分に含んだ作品になりました。
コロナ禍の前にアメリカでのワークショップに参加しました。そのとき、森に囲まれたコテージに滞在して「自由に作品を制作してください」と言われたんです。
いつもは都市を歩いたり、川の源流から海まで辿りながら撮影していく旅を経て作品のイメージを膨らませるのが僕のスタイル。正直、戸惑いました。でも周囲を見回してみると、苔のうえに美しい露が揺れていたり、樹皮に蔦の長枝が絡んでいくプロセスが見えたり、落ち葉の下に甲虫が蠢いていたりというミクロの世界の魅力に気づいていったんです。そのディティールの美しさをコラージュして作品を作りました。あのワークショップは本当に新鮮な体験でしたね。
だから、今後はアトリエの周辺を歩きながら撮影して作品を作っていくことも考えています。例えば、「Study of Anchorage」という作品は、水面に映る小舟を舫うロープの写真をコラージュしたものです。撮影場所はアトリエ近くの戸田港でした。
西野壮平
2004年に大阪芸術大学写真学科を卒業。卒業制作はDiorama Map Osakaで学長賞を獲得した。その後、東京に拠点を移し、国分寺にアトリエを構える。膨大な数の写真を多層的な視点でコラージュしていく幻惑的なイメージが世界から評価されている。2022年2月6日にはMBSのテレビ番組、情熱大陸にも取り上げられた。
◆西野壮平 オフィシャルサイト