大阪芸術大学と映像業界のプロフェッショナルがタッグを組み、映画、テレビドラマなどを制作する産学協同プロジェクト。その11作目となる映画『メイソウ家族』が2025年夏に全国の劇場で公開されます。同作は、大阪芸大に所蔵されている過去の学生たちのシナリオの数々から選出された秀逸な3作を、映像学科客員教授で映画監督の熊切和嘉先生、特任教授の金田敬先生が、在学生らと脚色した上で実写映画化。「YUI」、「MONOS」、「UMI」というそれぞれ繋がりを持った3篇からなるオムニバス映画として完成しました。
『メイソウ家族』の2篇目「MONOS」を手掛けたのは、本学卒業生で映画監督の金田敬先生。「MONOS」は、人類の移住計画が進む近未来の日本が舞台。ある秘密を抱えた吉田由依(三浦理奈さん)と、一攫千金のことばかり考えている彼氏・山田恵一(秋庭悠佑さん)が、正体不明の生物“MONOS”を車で轢いてしまったことを機に、二人の関係性に変化が生まれる物語です。
そんな「MONOS」の大きな特徴は、ほぼすべての撮影が大阪芸大の構内で行われたこと。特に驚かされるのが、由依、恵一が一緒に暮らしているアパートの表玄関のセット。金田先生は「校内に1スタ、2スタと呼ばれるスタジオがあるのですが、その建物の間にちょっとした空間があり、そこをアパートの表玄関に見立てて撮影しました。普段はなんでもない空間なのですが、映像学科で美術を学ぶ学生の手によってそのように生まれ変わったんです。みんな、『アイデア次第でこんな風になるんだ』と感激していました」と撮影の舞台裏を明かします。
また、主要な登場人物である山田恵一役を舞台芸術学科ミュージカルコースの秋庭悠佑さんが務めていることも、「MONOS」の見どころの一つ。金田先生は「『メイソウ家族』は全国の劇場で上映される商業映画。完成度の高さが求められることもあり、3篇ともに出演者はプロの役者が中心です。でもそこに大阪芸大生がいないことを、やはり寂しく思いました。そこで学生たちを対象とするオーディションを開催したんです。その中でも秋庭さんは、恵一のイメージにぴったりでした。体格が良く、明るく、でもちょっと抜けているところがあって、『恵一役は彼しかいない』と感じました」とキャスティングした理由を話します。
さらに「秋庭さんはカメラがまわる直前まで現場にいる友だちとお喋りをしているので、さすがに『大丈夫か?』と心配になりましたが、『本番』の声を聞くとグッと役に入り込む。舞台芸術学科でしっかりレッスンを積んでいることが、しっかり伝わってきました。いつ、どのタイミングで集中するかは、役者さんのタイプによります。秋庭さんの場合はあれがご自身にとってやりやすい形だったのだと思います」と、秋庭さんの役者としての持ち味について話します。
一方、金田先生は撮影期間中も、現場に参加する学生たちに「この場合はどうする?」とさまざまな課題を与えていたと言います。特に「先を読みながら撮影すること」を常に問いかけていたそう。
「今、目の前にあるお芝居をどのように撮るかも大事。でも『このカットをそうやって撮るなら、次のカットはどうなりますか?』と常に先を読むように言っていました。なにが正しいかではなく、『なぜそう撮るのか』ということに理由をつけてもらうようにしたんです。それは技術的なことだけではなく、普段の準備の仕方にも当てはまりました。スタッフの荷物や使わない機材はカメラに映り込まないところにかためて置いておくのですが、そこで先々のことを考えられていないと、『次はこの角度で撮ります』となったとき、またそれを別の場所に移動させて……という作業を行わなければなりません。そうなると貴重な時間がどんどん失われていきます。映像に限らずどんな仕事でも、常に先のことを考えてやっていかないといけない。『メイソウ家族』の撮影現場を通してその大切さに気づいてもらえたのではないでしょうか」。
今回の撮影経験はきっと、学生たちの今後の進路にも生かされるはず。ただ金田先生はあらためて、学生生活の中で身につけてもらいたいことを口にします。それは「自分の考えを相手に伝えること」です。
「近年の学生たちは、自分の考えを人に伝えることを苦手としている傾向が感じられます。学生たちからも、『自分の頭の中には企画ができあがっているのですが』という言葉をよく聞きます。でも考えを相手に伝えることができなければ、映像作品として実現させることは難しい。そこで僕の授業では、なんらかのストーリーを絵コンテに起こした上で、自分の狙いはなんなのかなどを人前で発表する機会を作っています。映像作りを志す学生の中には『カメラをうまく使えたらそれでいい』、『編集さえできたらいい』という人もいます。でも機材を扱う人たちも、そうやって企画を考えたり、自分の狙いを伝えたりすることができないといけません。自分がおもしろいと思っていることを、ためらわずに人に伝えられるようになると、もっと成長することができるのではないでしょうか」。
産学協同プロジェクトの話を聞いて「おもしろそう」と思っていたところ、僕の恩師的存在であるスクリーミング・マッド・ジョージ先生(映像学科客員教授)が「MONOS」の特殊美術として参加されることを知り、同作のオーディションを受けました。恵一は、空気が読めなくてちょっとトボけていて、筋トレが大好きというところが自分にそっくり。そういう役を演じるにあたって参考にしたのが、大阪芸大で特別講義を開かれた俳優・城田優さんの言葉。城田さんに「役と自分と性格が似ている場合、どのように演じていますか」と質問したんです。そうすると城田さんは「自分と役に相違点を作ること」とおっしゃいました。「秋庭さんは、僕の話に対してすぐに反応するけど、恵一の間合いはどうなのか。あと秋庭さんは髪の毛を触る癖があるようですが、触る箇所を手首にするなどアレンジすると、自分には近いけど、自分ではない役が演じられます」と。そのアドバイスはすごく参考になりました。大阪芸大ではそういうさまざまな方の講義が受けられるほか、どんなタイプの人でも受け入れてくれる雰囲気があります。そんな大阪芸大での経験を生かし、誰かの記憶に残り続ける人間になりたい。俳優でも、別の表現者でもなんでもいい。この世に生を受けたからには、なにか名を残したいです。
「MONOS」の原作になったシナリオを読み、映像学科で脚本や企画・プロデュースを教えていらっしゃる山田耕大先生(元映像学科教授 2024年度末退職)から「会話や展開がおもしろいから、大枠は変えずに話を膨らませていこう」とアドバイスをもらって脚色していきました。また金田敬先生は「エンタメとして見せるためにはどうすればいいか」を考えている作り手で、自分と似ているところがあったので、二人で一緒に「もっとおもしろくするためには、どうしたらいいか」とアイデアを出し合いました。そんな「MONOS」ですが、撮影の初動は遅かったんです。学生はみんな焦っていましたが、エグゼクティブプロデューサーの濱名一哉先生(映像学科客員教授)は「この状況、シビれるね」とおっしゃっていたんです。素直に「格好いい。これがプロの現場なんだな」と感じました。濱名先生のその一言を聞けただけでも、「MONOS」に関われた意味は大きいです。僕は『メイソウ家族』での経験も生かし、映画などの脚本を書き続けていきたいです。そのために週に1回を目安に、ショートストーリーを書いてSNSに投稿しています。そうやって自分できっかけを作らないと脚本が書けない気がして。映像学科には本気で映像制作に取り組んでいる人が多いので、たくさん刺激を受けて学生生活を送ることができています。今後の目標はハリウッドなど海外で活動すること。大学卒業後は海外へ行って、脚本家としてさらに学びを深めていきたいです。