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小森陽一先生特別講義「もの創りの現場から vol.5」 小森陽一先生特別講義「もの創りの現場から vol.5」

映像学科
2026/04/15

大阪芸術大学映像学科客員教授の小森陽一先生による特別講義「もの創りの現場から vol.5」が1月22日、芸術情報センターAVホールにて行われました。毎回創作の第一線で活躍しているゲストを招き、学生たちが在学中にどのような考え方やスキルを身につければ、卒業後の創作や表現に生かせるかを伝えるもの。

今回は、ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン、円谷プロダクションなどを経て2025年7月、芸能事務所のワタナベエンターテインメントの取締役に就任した塚越隆行さんが登壇。国内外のテーマパーク演出などを手がける舞台芸術学科教授の金谷かほり先生と『海猿』の原案や『トッキュー!!』の漫画原作者の小森陽一先生の進行のもと、「創作する者を見極め、それを広める者」である塚越さんが貴重な体験談などを語りました。

日本で求められる人材は「クリエイティブができるビジネス型」

ワタナベエンターテインメントの取締役・塚越隆行さん(写真・中央)をゲストに迎え、小森陽一先生(写真・左)と金谷かほり先生(写真・右)が進行を務めた。

『ウルトラマン』シリーズの制作・監修や映画『千と千尋の神隠し』(2001年)をはじめとするスタジオジブリ作品の制作に携わるなど、数々のプロジェクトに取り組んできた塚越さん。しかし意外にも「小さいときからやりたい仕事がころころ変わっていました。小学生のときは天文学者、中学時代は考古学者、そして高校時代はラグビーに打ち込んで、『なにが僕の本質なのかな』って。あっちこっちへ行っていました」と振り返ります。一方で「ずっと、ロマンを感じるものには興味がありました」と、軸は一貫していたと言います。

そんな塚越さんは早稲田大学在学中、ワタナベエンターテインメント代表取締役社長・渡辺ミキさんが制作した舞台を鑑賞し、観客が喜ぶ姿に「すごい仕事だ」と感動を覚えたことから、エンターテインメントの世界をめざすことに。卒業後はクリエイターになるため、広告代理店に就職。ところが経験を積む中で、「自分は営業に向いているんじゃないか」と気づきを得てビジネスに気持ちが傾いたと話します。

転職後は仕事の軸足がビジネスへと移り、手がけた作品をいかに世に届けるかに尽力。その経験の中で痛感したのが、「日本はビジネスが遅れている」ということ。かつては日本国内の市場に向けて創作すれば、ビジネスが成立する傾向があったと分析。しかし「今はグローバルに向けた商売ができるようになった。日本でも、クリエイティブができるビジネス型が求められるようになりました。学生のみなさんの中からも、クリエイティブに興味があるけど、『ビジネス型かもしれない』という人が出てきてほしい」と呼びかけました。

塚越さんは「一生懸命あっちこっちへ行く中で、進む道が見つかり、偶然の出会いをつかむこともできるかもしれません」と学生たちの背中を押す。

それらの話題の流れで名前が上がったのが、大阪芸術大学在学の経験を持つ庵野秀明監督です。小森先生は「物事を俯瞰するプロデューサー型、そしてゼロからイチを作るクリエイター型がいますが、別のパターンにいるのが庵野秀明監督ではないでしょうか。まさにアレンジ型だと思います」と指摘。塚越さんも、「『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズはそういう意味でオリジナルで作られたものであり、一方で庵野監督は、古(いにしえ)の特撮などの影響もどっぷり浴びていらっしゃいます。『自分が受け取ったものを次の世代にバトンタッチするなら、自分はこうする』という意味で、アレンジ型かもしれません」と深くうなずきます。


また塚越さんは、ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン在籍時の経験を思い返し、「ディズニーはあえていろんな人たちを迎え入れ、凝り固まらないようにしています。新しくやって来るものを拒まず、どうすれば自分たちのブランドを生かせるかを考えている。OpenAIと資本提携したニュースもありましたが、物議を醸しながらも発展が見込まれる分野に率先して手を伸ばす遺伝子を改めて感じ、『さすがだな』と思いました」と感心。


 金谷先生は、塚越さんの経験談を聞いて「私はビジネスやプロデュースの目線を持っていないので、演出家として創作・表現をしています。どちらも異なる仕事だと思います」としながら、それでも「あるテーマパークのパレードを演出・制作したとき、予算が大幅に足りないことがありました。もともと提示された予算でやってしまうと、おもしろくないものが出来てしまう。そんなとき、会議などで重要になるのが自分のビジョンです。この機材があればこんなものが作れる、でもランクを落とすとこうなる。どんなことでも細部まで自分が分かっていれば、出資してくださる方を説得できることもあります。実際にそのパレードでは要望した予算で制作することができました」と、演出家として物事をクリエイトする際の心構えについて説明しました。

さらに塚越さんには、『ウルトラマン』シリーズに登場する怪獣たちを題材とした映画制作の構想があるそうで、原作となる小説を小森先生が執筆。2026年秋に出版を予定しており、続編も構想があるとのこと。塚越さんは「映像化が実現するのは2030年を過ぎるかもしれません。グローバルに届けたいです」と世界規模での展開を考えていることを明かしました。


学生からも積極的に質問が上がり、「エンタメに関わる上で絶対に譲れないことは?」(放送学科4年生)という疑問に対して、塚越さんは「お金が先立つビジネスマンが多いですが、僕はお金儲けのことだけを考えないようにしています。自分がやっている商売と(お金が)どう繋がっていくのかをしっかり考えなければいけません」と答えました。


そして最後に学生たちに向けて、「日本と海外(の境界線)はなくなっていくと思います。地球規模で作品を作ったり、ビジネスの方へ行ったりしてほしい。人間の営みは素晴らしいもので、それが人間を豊かにします。未来の地球に向けて勉強し、みなさんが社会で活躍されることを期待しています」とメッセージを贈りました。

小森先生は「続けていくこと、そして一歩踏み込むことが大事。それは頭に入れておいてほしい」とアドバイス。

エンターテインメントの世界のトップランナーの生の声を聞いた学生たちは講義後、「一歩踏み出してこじ開けていかないとエンタメ業界で仕事をするのは難しいのかな、と実感しました。今回の特別講義を通して、結果に向かうための糸口が見えた気がします」(舞台芸術学科3年生)、「塚越さんのお仕事は、運命や縁によって導かれてきたものなんだなと思いました。ビジネスから見たクリエイティブの本質や、お金儲けのためではなく人を楽しませるためにクリエイティブに関わるというマインドがすごく勉強になりました」(映像学科4年生)と、これから社会で仕事に取り組む上で大きなヒントになったと話していました。

クリエイティブとビジネスの両面を成立させることで「作品」は完成する。学生たちにとって実践的な講義内容になった。