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映画『この夏の星を見る』で商業映画デビューの山元環監督が公開ラジオ収録に登場 映画『この夏の星を見る』で商業映画デビューの山元環監督が公開ラジオ収録に登場

映像学科
2025/06/13

2025年5月19日、大阪芸術大学映像学科卒業生の山元環監督の商業映画デビュー作 映画『この夏の星を見る』(東映配給)の特別試写会が大阪芸術大学7号館の映画館で開催されました。2025年7月4日に全国公開される同作は、辻村深月さんの同名小説を、桜田ひよりさん主演で映画化したもの。上映後には山元監督、同作にてアストロフォトグラフィー・VFX director・天文監修を担当した写真学科客員教授で放送学科卒業生の竹本宗一郎先生、『THE FIRST SLAM DUNK』(2022年)で藤本賞を受賞した松井俊之プロデューサーをゲストに迎え、ラジオ番組『大阪芸大スカイキャンパス』(ラジオ大阪/毎週月曜日20時30分より放送)の公開収録も実施されました。

卒業生・山元環監督が学生たちにエール「作品を発信すると誰かが反応してくれる」

映画『この夏の星を見る』は、2020年のコロナ禍を背景に、望遠鏡を使って天体を素早くとらえる競技「スターキャッチ」のオンラインコンテストで結びついていく中高生たちの姿を描いた物語です。在籍している大阪芸大生は、劇中の登場人物と同じように貴重な青春時代をコロナ禍で過ごした若者たち。そのため共感するところも多かったようで、上映中は涙を拭いながら鑑賞する光景も見られました。

映画『この夏の星を見る』は、コロナ禍で他人と距離をとって生活することが推奨される中、若者たちが「スターキャッチ」を通して結びつきを深める物語

山元監督は同作について「(コロナ禍で)自由が制限された世の中でも、星空を通じて『自分たちは一人じゃない、繋がれる』と歩みを止めない学生たちの物語です」と内容を説明。また、番組パーソナリティの塚本邦彦副理事長、田中光敏映像学科長から「メジャー映画を制作したこと」について感想を聞かれると、「自主制作とは全然違いました。お客さんの目線を考え、どういう人たちに刺さるかを考えました。ただ台詞でキャラクターの心情を吐露するより、極力、映像で伝えるように表現を気にしていきました」と幅広い人の心に訴えかける作品を目指したと語りました。


ストーリーはもちろんのこと、星や夜空の映像の美しさも見どころの一つ。山元監督が撮影時「困ったら、『大丈夫そうですか?』と顔を見ていました」と常に頼りにしていた存在が、竹本先生です。ちなみに同作では、昼間に撮影した映像を夜のように見せる技法「Day for Night」が駆使されました。そしてVFXやカラーグレーディング(色味調整・演出)を重ねることで、美しい星空の映像を生み出したのです。「暗闇の魔術師」と呼ばれるなど、日本における夜空撮影の第一人者である竹本先生は「監督がこだわったのがリアルな星空。ただ、リアルな星空とはなんなのか。(肉眼で)見たままがリアルなのかというと、そういうわけではないんです。映画を見た人が『本物だ』と思える仕掛けをしなければいけない」という考えのもと、昼間の明るさと夜特有のグラデーションの映像を重ねるこの技法を採用したそうです。

星空撮影などを担当した竹本先生は「夜空を撮るとき、月明かりを利用するしかない。でも月は移動するし、月が明るい時間帯しか撮れないリスクがある」と難しさを語る

それにしてもなぜこの映画の企画を、メジャーでは実力が未知数だった山元監督に依頼したのか。松井プロデューサーは「『THE FIRST SLAM DUNK』の大ヒットを受けて、次は、新しい監督を起用するチャレンジのできる作品を作りたかったんです。そんな中お見かけした山元監督のショートドラマは縦型(の映像)で、見えないところまでお客さんに想像させることを考えて作り込まれていたので、是非、お会いしてみたいと思っていたんです」と注目していたと話します。さらに「大阪芸大の学生時代に映画理論を相当学ばれたんじゃないかなって。昔の名画などをものすごく勉強されていて、当時31歳とは思えないくらい熟達した見識と意図をお持ちだった。これは明確なビジョンを持って臨めると思ってオファーしました」と振り返りました。

マスク姿で演技をする場面が多く、俳優陣にも不安があったのではないかという話に。ただ松井プロデューサーは「監督には明確な演出のビジョンがあった」という

念願のメジャーデビューをつかみ取った山元監督に対し、学生からも質問が。「企画の立て方」について尋ねられると「考える時間を作っていました。夜間のアルバイトを終え、朝から昼くらいまでファミリーレストランで企画を考えたりしました。その企画が(文化庁委託事業の)『ndjc:若手映画作家育成プロジェクト』に通りました」と時間をしっかり設けることの必要性を伝えました。そして山元監督はあらためて「大阪芸大は、整っている環境で何ができるのか試せる場所。みなさんもいろいろ試して力を発揮して欲しい。外に、外にという意識を持って、自分の枠組みを大きくし、作品を発信すると誰かが反応してくれて、新しいチャンスに繋がると思います」と学生たちにエールを送りました。

学生から「大阪芸大に通って良かったこと」を尋ねられて、山元監督は「みんないい感じにとがっていて刺激的だった」と旧友について振り返った
山元監督は、ラジオ番組の公開収録に参加した学生たちに「何かが来るのを待っているのは良くない」と、自ら行動する大事さを熱く語りかけた

映像学科 卒業 山元環さん(映画監督)

星や宇宙には、理屈では語れない美しさがあります。そして星は、見えづらいからこそもっと見たくなる。そのために望遠鏡を使い、肉眼では光の点にしか見えないものの解像度をはっきりとさせていく。『この夏の星を見る』では、望遠鏡で見えづらいものを見ようとする行為と、世の中がカオス状態になって先々が見えなくなったコロナ禍において、それでも自分たちで何かを見つけようとする若者たちの姿を重ねました。そして、コロナ禍でも前向きに、そして躍動する瞬間を止めないようにがんばる若者たちの様子を通し、ご覧になったみなさんに「癒された」と思ってもらいたいと思いました。あと、今は否定が多い時代です。だからこそいろんな人が肯定し合える空間を表現したかった。映画の登場人物たちもそういう想いで集まり、お互いに癒し合っていたのではないでしょうか。そんな『この夏の星を見る』で商業映画デビューを果たすことができましたが、やはり大阪芸術大学での経験がすごく大きかったです。おもしろい先生が多く、映画制作を通して得た経験をいろいろ教えてくださいました。そこで何を受け取るかは、学生次第。それを昔話と捉える人もいるかもしれません。でも僕はそういう話から実践や撮影現場について知ることができ、映画監督としての今に結びついています。つまり大切なのは自分で吸収し、外に向けてどう発信するかなのです。特に現在は、僕らの学生時代の比じゃないほど作品への訴求力が強い。TikTokなどが象徴的で、動画、映像への感覚が違うものになっている。タイパ、コスパという言葉があるように、時間に対する価値観の変化を感じます。だからこそ僕が描く1分と、今の学生たちが描く1分では、「何を描くか」のポイントが異なりますし、それは今の学生たちの強みにもなります。「時間」と「作る」ということもっと照らし合わせることで、バズを生みだしたり、海外の映画祭で評価される重厚な10分映像を作れたり、今の学生ならではのものができるかもしれない。僕は学生たちと年齢も近い分、「負けていられないな」と思います。

<作品情報>

映画『この夏の星を見る』は2025年7月4日より全国の劇場にて公開

HP:https://www.konohoshi-movie.jp