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今だから、明日のアートへ【遠山正道】 今だから、明日のアートへ【遠山正道】

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2021/10/25

SNSの登場によって、美術館の撮影OKや、SNSを基盤とするアートキュレーターの登場、あらたなアートファン層によるアートのファッション化・インテリア化など、世界中でアートを取り巻く状況が大きく変化してきた。とくに若い層において、アートとの距離が近くなり、アートとの関係性が変化し、様々な新潮流を生み出している。O Plusは、今だから、大きな変化を見せる美術界を俯瞰してみようと思う。美術の価値観はどう変化しているのか、誰がそれをリードしているのか、アーティストと愛好家に芽生えてきた関係とは? トップを走りながらその関係性を模索するアーティストや、自らSNSの活用をはじめたアーティスト、新しいアートキュレーションの現況を語るコレクターらを訪ね、彼らの話を聞いていくと、これからの人とアートの関係が見えてきた。


Photo: Kazuyoshi Usui

Text:  Yoshio Suzuki

アートを取り巻く人々、環境を点検し、整備し、再構築する

「Soup Stock Tokyo」を創業し、セレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」なども経営する遠山正道はアート関連事業も手掛けている。それが「TheChain Museum」。経済やデジタル技術で芸術を支え、新展開を図る新たな関係構築に取り組む。


リアルとヴァーチャルを相互に効果的に駆使しながら、アートやアーティストが世界と直接つながることを目指すこと。アーティストとコレクターやサポーターの新たな関係を構築すること。アーティスト、キュレーター、ギャラリスト、そして鑑賞者の主体性を高め、関係性を築き、文化、そして社会の発展に寄与すること。それらのプラットフォームづくりをする事業。


作品は必ずしも立派な美術館になくてもいい。日常のふとした場所に「小さくてユニークなミュージアム」を出現させたりしている。たとえば、それはあるホテルのロビーだったり、商業施設の中だったり、既存の立派な美術館の外壁を借りてだったり。


さらに、鑑賞者からアーティストに直接の支援(投げ銭)をして、感想や応援メッセージも送ることができる「ArtSticker」の運営もその一端だ。


そんな「The Chain Museum」を率いる遠山が今年のアートフェア東京で新たな展開として提示したのが「コレコレコレクション(Collected CollectorsCollection)」である。


これは同じアーティストの作品を持つ者同士のネットワークをつくること。つまり、作品を通じて、コレクター同士の関係性そのものもコレクションすることを楽しむということである。


「現代アートの楽しさの一つは、アーティストと知り合って話をしたり、それぞれの立場で成長していけることもあります。それをコレクター同士の関係にも応用できると思ったのです。そう考えたきっかけは、香港のアートフェアで写真作品を買ったことでした。何百万円もするのですが、写真なので1点ものではなく、エディションで同じものが数点あるわけです。それで迷っていたらギャラリーの人が、エディションものは世界のどこかに同じものを持ってる人がいるということ。それは、このアーティストの作品が好きな、あの有名人かもしれないと言ったんですね。なるほどと思って、同じアーティストが好きな者同士の関係性を築くのも面白いのではないかと考えたんです」


それで、アートフェア東京の機会にそれを実践してみた。エディションものばかりではなく、1点ものでも同じ作家が好きなコレクターを結ぶコミュニティができてくる。「ArtSticker」はアーティストとコレクターやサポーターの新たな関係を築くためのシステムだが、さらに一歩発展して、コレクターやサポーター同士のつながりをつくることまで考えたのだ。


「あの人も所有しているアーティストの作品だから自分も買いたいと考えるのもいいし、アート収集初心者の指針になるかもしれないし、まだ無名の若いアーティストを知ってもらう一つの方法としても活用できると考えています。作品を買った、持っているということをあえて朗らかに言うことで、新たな展開を生むことができるということをやっています」


確かに、自分が買った作品やそのアーティストの別の作品を誰かが買ったことを知るのは喜ぶべきことで、それはコレクターでなければわからない。


さらに「ArtSticker」はもう一つ、新しい試みをはじめた。今までは既存のギャラリーや美術館の作品を支援してきたが、この7月、東京駅近く、中央郵便局の入るビル「KITTE」の中に自前のギャラリー「REAL byArtSticker」を運営し始めたのだ。


「独自のアートスペースを構えたことで、先々の予定を自分たちで立てて、アーティストにコミットできる点は大きいです。今後できるだけ早く、たとえば、京都、ベルリンとかに展開していきたい。デジタル作品や写真なら、遠隔地で発表して、転送や現地出力で作品を入手することもできるなどの構想も考えられます」


音楽や書籍が電子化され、買い方や楽しみ方が変わったのだが、現代アートにも同じような波が来ているのかもしれない。そんなことを考えさせられた。


REAL by ArtSticker

KITTE4F(東京都千代田区丸の内2丁目7-2)

2021年9月29日(水)までの期間限定ギャラリー

無休。11:00-20:00

●遠山正道(とおやま まさみち)

1962年東京生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、85年三菱商事株式会社入社。2000年三菱商事株式会社初の社内ベンチャーとして株式会社スマイルズを設立。08年2月MBOを実施。現在、「Soup Stock Tokyo」のほか、ネクタイブランド「giraffe」、セレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」等を展開。NYや東京・青山などで絵の個展を開催するなど、アーティストとしても活動するほか、スマイルズも作家として芸術祭に参加、瀬戸内国際芸術祭2016では「檸檬ホテル」を出品した。18年クリエイティブ集団「PARTY」とともにアートの新会社「株式会社The Chain Museum」を設立。20年には新たなコミュニティ「新種のimmigrations」を立ち上げ、ヒルサイドテラスに「代官山のスタジオ」を設けた。