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10代の思い出を語る
【イラストレーター 茂本ヒデキチ】
10代の思い出を語る【イラストレーター 茂本ヒデキチ】

デザイン学科 / その他
2021/06/11

体育祭の看板描きがきっかけで
美大に行くことになるなんて

まさか美大へ行くなんて


父の仕事の都合で、幼少から毎年のように引っ越しの暮らし。物心ついた頃には落書きをしてひとり遊びするのが上手くなり、転校先では友だちづくりのきっかけに絵を描くようになっていました。


中学からはバスケに打ち込み、高校に入学しても特に美術への強い興味はありませんでした。でも、いつもちょっとした漫画やイラストを無意識に描いていましたね。


高3の体育祭のときのこと。例年、応援のための巨大な看板を制作して競い合うのですが、その責任者として僕に白羽の矢が立てられました。うちのグループには美術部員が誰もおらず、さてどうしよう?と困った末に、「何だかいつも絵を描いている茂本にやらせよう」となったのです。


降ってわいたこの任務が、僕を変えました。徹夜をしながら完成させた作品は、準優勝に輝き、それまでにない達成感を味わいました。これを契機に美大志望へ進路を決め、必死で受験勉強に取り組むようになったのです。

墨絵と細密画に通じるもの


多くの美大の絵画専攻では受験で作品提出が求められるので、作品がない僕はデザイン系を選択。大阪芸術大学デザイン学科に無事入学できました。


入学後は、対象を細部まで徹底的に描く細密画に熱中しました。今の墨絵とはまったく異なるタッチです。けれど、このときの経験が今の自分をつくっていると感じます。


1枚の墨絵はわずかな時間で描きますが、それは筆の流れや墨の濃淡、かすれ具合など、一連の流れを納得のいくものにするまでひたすら繰り返して描いた末のこと。50枚のこともあるし、100枚を超えることもあります。細部を追求しながら地道な作業を続けた先に生まれる作品という意味では、細密画と墨絵は僕のなかでとても似た表現手法なのです。


自分にとって絵がかけがえのない存在であると気づくことができ、そして、絵に没頭できた10代は、今の僕の確かな土台になっているのです。


●茂本ヒデキチ(しげもと ひできち)  1957年愛媛県生まれ。イラストレーター。大阪芸術大学デザイン学科卒業。大阪芸術大学デザイン学科客員教授。デザイナーを経てフリーイラストレーターに。「墨」によるドローイングを得意とし、スピード感のあるタッチでミュージシャンやアスリートなどを描く。寺院の壁画制作やライブペイントの活動も積極的に行っている。

10代の思い出/高校3年の体育祭で、自分が責任者となって制作したクラスの看板。このときに味わった絵を描く楽しさと達成感が、美大志望を決意するきっかけとなった。