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2020 秋の電子音響祭 2020 秋の電子音響祭

音楽学科
2021/01/08

「2020 秋の電子音響祭」が2020年11月21日、大阪芸術大学 芸術情報センター地下2階の実験ドームにて開催されました。


同イベントは音楽学科、音楽・音響デザインコースの学生たちが企画運営する電子音響音楽の祭典です。2005年に音楽学科主催で始まった国際電子音楽フェスティバル「Audio Art Circus」から名称が変わり、2016年から毎年開かれています。

実験ドーム内部。下から球体型天井を見る

今年は新型コロナウイルスの影響で会場には観客を入れず、感染防止対策をしっかり講じたうえでの開催となりました。その一方で、パフォーマンスの様子をYouTubeで生配信するという、新たな発信方法に取り組むイベントになりました。


電子音響音楽とは、一般的な音楽が持つドレミ(音階)の概念をさらに広げ、楽音(音程のはっきりとした人の声や楽器による音)だけでなく、もの音(人の話声や動物の声、鉄道や自動車の走行音などの都市環境音、自然界の音など)や電子音など、使用する音素材の範囲を拡大した音楽のことをいいます。また、従来の音楽の要素にはない空間性の演出なども含まれ、現在進行形の現代音楽といえます。


 

実験ドーム中心部に立てたバイノーラルマイク

「音の響き」が実験されてきたドームで本番がスタート!

会場となった実験ドームは直径約15mのドーム空間。床から高さ約4mの壁部分には、ドームの中心から水平方向に45度の等間隔で8個のスピーカーが埋め込まれており、これまで数多くの多次元立体音響の実験が行われてきた施設です。


パフォーマーが放つ音の信号たちは、ドーム内に設置されたミキシングコンソール・D-5000(Roland社製)に集められたのち、前述の壁に埋め込まれた8個のスピーカーとドーム内の床上に立てられたK-array社製の6個のスピーカーから音として出てきます。その音をドーム中心部に立てたバイノーラルマイクによって収音し、ドーム外のミキシングコンソールを経由してネット配信される仕組みです。

 

バイノーラルマイクとは、人間の頭部を模倣したダミー・ヘッドの両耳の部分にマイクが組み込まれたものです。このマイクで録音された音をヘッドフォンで聴くと、その場にいるような臨場感を体験できます。


本番はMCスペースが設置されたアートホールとパフォーマンスが行われる実験ドームで行われ、YouTubeではこの2カ所を交互にスイッチしながら配信されました。

 

実験ドームのステージでは、音楽学科の学生たちが授業で学んださまざまな表現方法で自身の創造を披露していました。自分で作曲した作品を披露する者や、さまざまな音素材から思い思いの音を作成し、それらを即興的に組み合わせて演奏する者など、どのパフォーマンスも独自の世界を感じさせる、多彩なステージとなりました。

 


生配信用にアートホールに設置されたMCスペース

YouTube配信という音楽学科の新たな取り組み

当初は開催さえも危ぶまれていた電子音響祭ですが、音楽学科の先生たちの「なんとか学生の発表の場をつくりたい」という思いから、無観客でYouTube配信をすることを前提に開催が決まりました。


会場に観客を入れて、そこで音を出して完結していた去年までの電子音響祭とは異なり、音と映像をYouTubeにあげるという新たな作業が必要となります。

 
電子音響祭の運営は学生主体で行われます。配信する方法は学生たち自身がネットで調べました。その結果、音楽と映像に加え、自分たちの「音」へのこだわりも配信できた電子音響祭となりました。

通信教育部音楽学科/准教授
石上 和也 先生

 音楽学科では1~4年生の授業を受け持っていますが、1、2年生では「音楽・音響デザイン1、2」を担当しています。両方とも基本的にはコンピューターを使った音楽表現・制作の授業ですが、1は音楽制作ソフトDAW(ダウ)を使って制作を行います。2ではMAXというソフトを中心にプログラムによる音楽表現を学びます。
 学生への指導では、わたし自身の意見を押しつけないように心がけています。わたしが今の学生たちの年齢のころは、創作というのは、いろいろなものに対する怒りとか不満などの衝動から始まるものだと思っていたところがあります。しかし、今の学生たちはそういうことは関係なく創作をしていますので、それはいいことですし、大切にしてほしいです。
 その一方で、作品を作ることに対する責任は感じてほしいと思います。音楽でよく使う言葉で「リリースする」といいますが、わたしは子どもを育てて自立させるのと同じ感覚だと思います。ですので、リリースするまでの責任はとても大きいはずです。ここを適当にやってしまうと後悔しかねないので、つくる喜びとか、育てていく喜びを感じながら創作してほしいです。
 わたしは電子音響祭には演者として参加しましたが、作り手でもあります。電子音響音楽というのは、聴く側よりむしろ、つくる側の方がおもしろいと思います。つくるといってもいわば落書きのようなもので、いろいろな音が響き、それらの組み合わせ次第でさらに楽しくなる。ルールや理論がないわけではありませんが、そんなことに縛られなくても表現できる音楽なので、小さな子どもからお年寄りまで、音に対して面白いと感じるなら誰でもつくって表現できます。
 音楽だからこんな音は使っちゃダメとか、こんな不協和音はダメというのは創作のブレーキなのであって、それらを全部取っ払ってこそつくることができる音楽。それが電子音響音楽の魅力だと思います。

音楽学科 音楽・音響デザインコース2年
牛田 一粹さん

 電子音響祭にはパフォーマーと運営の両方で参加しました。パフォーマンスではドラムを叩きましたが、実験ドームで叩いたのは初めてで、通常と異なる感覚に衝撃を受けました。といいますのも、普通は叩いたところから音が来るのに、横からとか、上から来る。普段と違う音に聞こえたりもして、いつもの感じとは違う、とても不思議な気分になりました。
運営では映像のスイッチング(画面の切り替え)を担当しました。映像はMC用のアートホールと実験ドームの2種類があったのですが、ネット上の画面では一つの画面しか映りませんから、そのとき映ってる映像に音声を振り分けて送る、という役割を受け持ちました。
 音楽学科 音楽・音響デザインコースに入ってよかったところは、音楽の基礎をしっかり学べるところです。もちろん受験勉強では最低限の勉強はしましたが、入学当初はほとんど楽譜を読めなかったです。同じコースで作曲を学びに入学した人たちと比べると、レベルの差はかなりありました。でも1、2年生でしっかり基礎を叩き込まれたおかげで自分の音楽に対する理解が深まりましたし、より音楽的な音響をめざせるのではないかと思っています。
 機材も充実しており、一番驚いたのは、最新のデジタルPA卓を学科として所有していることです。音楽業界では主流ですが、価格的に非常に高価なうえ、素人では到底扱えないため、広く一般に普及しているものではありません。音響の現場に出る前に、生で触れながら操作方法を理論的に学べるのはとても大きいです。
 今、エンタメ界のライブとかは新型コロナの影響で生配信とか、お客さんが入れない状態が続いています。自分が音響の仕事に就いたときにどうなっているかは分かりませんが、対面でのライブでも生配信でも、同じ感動を音で届けられるような音響エンジニアになりたいです。

音楽学科 音楽・音響デザインコース3年
松田 和樹さん

 電子音響祭には演者、運営の両方で参加しました。
僕はノイズミュージックが好きなんです。ノイズといえば騒音とか、うるさいイメージがあります。でも例えばスネアドラムですと、叩くと音は「シャン」と鳴りますが、これはスネアの下に響き線というものがついていて、スネアドラムの音に対してノイズを付け加えているわけです。こういう一歩間違えれば騒音にもなるし、一歩進めれば音楽になる、という部分がとてもおもしろいです。今回は、いわゆるノイズを自分が魅力的だと思う音にし、それらを集めて演奏しました。視聴してくださった方にも楽しんでもらえたらうれしいですね。
 運営には当初、参加しないつもりだったのですが、なぜかスタッフのLineグループに入っていました。当日のお手伝いとして途中から加わりましたが、結局はYouTube配信の音の部分に携わる重要な部分を担うことになりました。とくに自分のなかで難しかったのは、音の迫力というか臨場感がほかのYouTubeにアップされている音楽動画のそれより劣っていたことへの対処です。生配信自体が今年初めてのことでしたので、リハーサルのときに何回も音を出して確認したり、先生方にアドバイスをもらったりしました。いろいろ試して苦労しましたが、なんとか本番には自分が納得できる音にすることができました。
 ここの大学に通っている人って、結構好き勝手やっている人が多いんですよ。絵を描く人でも映像をつくる人でも、やっぱり自分がそれを好きだからやっているわけで。もちろん僕も同じで、ノイズミュージックが好きだったり、レコーディングをやってみたいというのがありますので、どんどんやっていこうと思います。ここでは自分がやりたいことに関する先生の知識も、やりたいことに使う機材も整っていますので、やるしかないですよ。それが大阪芸術大学だと思います。