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第44回 オペラ公演『魔笛』 第44回 オペラ公演『魔笛』

アートサイエンス学科, 演奏学科
2023/05/01

2023年3月10日、兵庫県立芸術文化センターで、大阪芸術大学 第44回オペラ公演『魔笛』が開催されました。日本でも人気の演目で、モーツァルトが生涯で最後に作曲したオペラである本作。演奏学科をはじめ、舞台芸術学科、アートサイエンス学科からも学生たちが参加した本公演は、オペラの可能性を大きく広げ、総合芸術大学ならではともいえる独創性に満ち溢れたものとなりました。

兵庫県立芸術文化センターの大舞台に広がる『魔笛』の世界

『魔笛』は、第41回、第43回のオペラ公演でも上演された演目ですが、いずれの回も新型コロナウイルス感染拡大の影響で一般観覧の中止、規模の縮小があり、イレギュラーな形態での上演が続いていました。今回は、兵庫県立芸術文化センターの設備をフル活用し、演出や規模など、ようやく本来の形でのオペラ公演を行うことができました。

演出は、舞台芸術学科長である浜畑賢吉先生が担当。声楽は、三原剛先生、東野亜弥子先生、田代恭也先生、田代睦美先生、辻川謙次先生が指導にあたり、今回、初めてドイツ語による歌唱が行われました。プロジェクションマッピングは、川坂翔先生をはじめとする株式会社ネイキッドのスタッフが監修にあたり、『魔笛』の幻想的な世界に鮮やかな彩りを加えていました。

『魔笛』の世界をドラマチックに演出するモーツァルトの音世界。本公演では、前回に続き、演奏学科の教授で、NHK交響楽団や日本フィルハーモニー交響楽団など、名だたる楽団で指揮者を歴任してきた大友直人先生がタクトを取りました。序曲から第1幕〜第2幕と紡がれる楽曲を大阪芸術大学管弦楽団が繊細かつダイナミックに表現し、混声合唱団による伸びやかな歌声がホール内に響き渡りました。

王子タミーノと鳥刺しパパゲーノの出会い。壮大なドラマが幕を開ける第1幕

第1幕では、序盤からプロジェクションマッピングによる幻想的な映像が舞台を彩り、華々しい幕開けとなります。声楽コースの教員である磯本龍成先生が演じる王子タミーノと、4年生の芳賀拓郎さん演じる鳥刺しのパパゲーノの出会い、そして、夜の女王の娘・パミーナを神官ザラストロの元から連れ戻す旅路が、迫力の演奏と歌により描かれます。

神殿にたどり着いたタミーノが、一人、笛の音を奏でるシーンでは、舞踊コースの学生たちが音色に誘われた人々や動物に扮し、華麗なダンスを披露。第1幕の大きな見せ場となりました。紆余曲折を経て出会えたタミーノとパミーナですが、2人が正式に結ばれるため、ザラストロがタミーノに試練を課したところで前半の幕を閉じます。

若者たちが試練に挑む第2幕。巨悪との対峙を経て感動のフィナーレへ

難易度が高いことでも知られる夜の女王のアリア『復讐の炎は地獄のように我が心に燃え』をみごとに歌唱

第2幕で注目を集めたのが、パミーナの元に夜の女王が現れるシーン。『魔笛』の中でも特に有名な夜の女王のアリア『復讐の炎は地獄のように我が心に燃え』を3年生の日高奏楽さんがみごとな歌唱で、ザラストロへの復讐に燃える情念を表現しました。

「沈黙の試練」に挑むタミーノは、愛するパミーナを目の前にしても言葉を発することができない

ザラストロがタミーノに叡智を授けるための試練を与え、それが原因でパミーナとの間に大きな溝ができてしまうなど、シリアスな場面が続きます。タミーノが自分のことを愛していないと思い込み、短剣で自殺を試みる場面は、物語のクライマックス。4年生の山田結香子さんの迫真の演技により、終盤への展開を一気に加速させました。その後、タミーノの真意を知り、和解したパミーナが魔笛の力を借り、2人で「火と水の試練」に挑む場面でも、過酷な試練を表現するべくプロジェクションマッピングが効果的に使用されました。

 かたや理想の恋人であるパパゲーナと出会うも、沈黙の試練を完遂できなかったことを理由に引き離されたパパゲーノは、自殺を考えるほど絶望の底に。しかし、魔法の鈴を使ってパパゲーナと再会し、その愛を確かめあうべく歌われた『パパパの二重唱』は、全身で喜びを表現する、力強くも温かい重唱となりました。舞踊コースの学生たちが2人の未来の子どもに扮し、カラフルな衣装で踊る姿も多幸感に溢れていました。

最初は老婆として登場し、実は若い娘であったことが明かされるパパゲーナ。パパゲーノとの喜びに満ちた二重唱が胸を打つ

最終局面では、パミーナやザラストロへの執念により結託したモノスタトスと夜の女王が復讐のため、神殿を襲撃。しかし、吹き荒れる激しい嵐に巻き込まれ、全員、奈落の底に突き落とされてしまいます。その後、試練に打ち勝ったタミーノとパミーナがザラストロと共に姿を見せると人々は祝福の歓声を上げ、物語は感動的なフィナーレを迎えます。

音楽・舞踊・映像表現など、さまざまな要素を取り入れることでオペラの進化形を示した大阪芸術大学の『魔笛』公演。今回の上演ではドイツ語での歌唱にも挑戦し、新たに表現の幅を広げることができました。大舞台での公演を経験した学生たちの成長は目覚しく、次回の開催にも期待がかかります。

演奏学科 声楽コース
東野 亜弥子 先生

今回、出演者たちは、本校のオペラ公演では初となる全幕ドイツ語での歌唱に挑戦しています。ドイツ語の場合、子音がきれいに発音できないと何を歌っているかがわからなくなってしまいます。学生たちは読み方や発音を何度も反復練習し、言葉の意味をしっかり理解した上で歌唱に臨みました。口の形や舌の位置、息の流れが大きく変わるため最初は大変ですが、原語での基本的な練習を積み重ねたことは、貴重な経験でした。最初は不安そうな場面もありましたが、学生たちが理解するスピード感は、我々の想像以上に早く、今日の本番を迎えるまでに、全員がまったく問題ないクオリティに仕上げてくれました。
本校のオペラ公演では、株式会社ネイキッドのプロジェクションマッピングを取り入れ、斬新かつポップな形で、新しいオペラのイメージを打ち出しています。これは総合芸術大学である本校ならではの取り組みであり、このようなアプローチを行うことで、若い人にもっとオペラを身近に感じてもらえたらと思っています。
『魔笛』は、様々な境遇の人物が登場することにより、あらゆる角度から解釈し捉えることができる物語となっています。これは、今の世の中で提唱されている個性を尊重する風潮にも則しており、だからこそ200年もの時を超えても色褪せない作品なのではないかと思います。今回の公演では先輩・後輩が互いの個性を認めあい、全学年が一丸となって、たくさんのアドバイスやメッセージをやり取りしていました。それによって、これまでの伝統を受け継ぎつつ、オペラの表現をブラッシュアップすることができました。このような循環を経験したことで学生たちも人間的に大きく成長し、きっと社会に出てからもこの公演で得たことが生かされるのではないかと思います。

演奏学科 声楽コース 4年生
芳賀 拓郎 さん(パパゲーノ役)

『魔笛』は、1年生の時に僧侶、3年生の時に2回公演のうちの1公演でパパゲーノを演じました。自分は本来、パパゲーノとは真逆ともいえる内気な性格ですが、今回、再び同じ役に取り組む中で先生と相談してパパゲーノらしさを追求し、その過程で少しずつ自分の中にポジティブな部分が芽生えてきたように感じています。普段の生活でこんなに体を使って動くことはありませんし、パパゲーノは非日常感を表現できるのが演じる上での醍醐味ですね。プロジェクションマッピングの映像も幻想的で、自分が『魔笛』の世界やパパゲーノの役に入るための、とても大きな役割を担ってくれています。物語は第2幕が進むにつれ重たさも出てきますが、パパゲーノの陽気さが笑いを生み出し、お客様も見やすくなればいいなと思います。個人的に思い入れがあるのは、タミーノや夜の女王の侍女たちと一緒に歌うシーン。パパゲーノが侍女たちに驚かされて大声を上げるシーンが聞かせどころです。
声楽コースに入学したきっかけは、高校時代、所属していた合唱部のOBが進学し、技術的にとても向上したのを見て、自分も先輩たちのようになりたいと思ったことでした。入学後は、専門的な知識を学べる喜びとともに、さまざまな学科の人たちが周囲にいることに刺激を受けています。今後の進路は、まず大学院への進学が決まっています。4年間では足りなかった学びをさらに深めて技術を向上させ、さまざまなコンクールやオペラに出演できればと思っています。

演奏学科 声楽コース 4年生
山田 結香子 さん(パミーナ役)

私は前回の公演で第1幕のパミーナを、今回の公演では第2幕のパミーナを演じました。第2幕では死や試練など、重いテーマの楽曲が多くなり、最初は、「明るい曲を得意とする自分が、果たして歌いこなせるのか?」と不安になりました。思いつめたパミーナの心情を表現するには豊かな声を必要としますが、オーディションに参加した時の自分には、まだその実力が伴っていなかったと思います。しかし、1年かけてドイツ語や歌唱の訓練を重ね、先生からも「山田さんの思うパミーナをやってみて」と言っていただけたことで、自然な表現ができるようになったと思います。それまでは先輩方が演じたパミーナに憧れるあまり、イメージが片寄ってしまっていたのですが、ようやく自分なりのパミーナ像を作ることができたのではないかと感じています。
音楽は子どもの頃から好きでしたが、それを自分の将来として考えることはありませんでした。しかし、趣味として歌うことやミュージカル鑑賞を続けるうちに想いが募り、高校1年生の時に音楽の道に進むことを決意。声楽コースに入学直後は、周囲を気にすることもありましたが、「自分の最大のライバルは自分」と認識してからは、先生から与えられるミッションをクリアしながら足りない部分を補い、少しずつ発声を成長させてきました。
もともとミュージカル女優をめざして声楽コースに入りましたが、オペラと出会ったことで方向性を一つに絞るのはもったいないと感じました。今後は、大学院に進んでさらに声楽の研究を続け、より多くの選択肢に出会えたらと思っています。