夢洲で見上げる巨大プロジェクションマッピング「MEGA CANVAS」 夢洲で見上げる巨大プロジェクションマッピング「MEGA CANVAS」
2025年4月13日から10月13日まで184日間にわたって大阪・夢洲で開催された大阪・関西万博(以下、万博)。2500万人を越える来場者が足を運び、大盛況のうちに幕を閉じた大イベントに大阪芸術大学もさまざまな取り組みで参加し、アートの可能性を追求してきました。6月6日からは会場東側から見える横浜冷凍物流倉庫(ヨコレイ)の壁面に映像コンテンツを映し出す巨大プロジェクションマッピング「MEGA CANVAS」が開始され、アートサイエンス学科もオリジナルの作品で参加。かつてない大規模なプロジェクトへの挑戦で、大きな学びを得ることができました。
多様なパートナーが「いのちをつなぐ、未来社会の実装」を映像で表現
「MEGA CANVAS」は大阪府と一般社団法人関西イノベーションセンターの共催によるプロジェクションマッピングで、アートサイエンス学科の客員准教授・川坂翔先生が所属する株式会社ネイキッドとクリエイティブエージェンシーである株式会社カクシンが協働プロデュースを担当。日没から21時30分まで、万博会場東側に位置するヨコレイの物流倉庫の壁面に「時間」「地域」「夢」「笑顔」「文化」というテーマに沿った映像作品が投影されました。
プロジェクションマッピングを投影するパートナーは2025年5月から募集を開始。アートサイエンス学科は選考を通過後、学生8人で編成されたチームで、夏休み期間中に作品制作に取り組みました。
プロジェクションマッピングの投影は万博会場東ゲートの外側に設置したコンテナから実施。全長約132mもの壁面を余すことなく使用するため、5万ルーメンの高輝度プロジェクター5台を使用し、横に並べて投影するという方式を採用しています。コンテナ内はオペレーション作業を行うためのわずかなスペースがある以外は、数多くの機材で埋め尽くされています。
「MEGA CANVAS」のプロジェクションマッピングは、大阪府や観光事業者、アーティスト、学生など多様なパートナーが作品を出品しています。開催期間中にコンテンツが随時、追加・変更されることになっており、アートサイエンス学科の作品は9月から投影を開始。夢洲を訪れたチームメンバーは、それまでパソコンのモニター上だけで確認していた映像をようやく現地で確認し、巨大キャンバスに映し出された映像の迫力に大きな感動を感じていました。
縦10m×横132mの巨大キャンバスに描き出す「万国百鬼夜行」
万博会場では日が沈み始めると東ゲート周辺が帰宅する人の波であふれかえり、多くの視線がヨコレイの壁に映るプロジェクションマッピングに注がれます。取材日である9月中旬は18時45分から投影が開始され、アートサイエンス学科の作品「万国百鬼夜行」が夜空に浮かび上がりました。
青い人魂のゆらめきから一転、障子の背景が現れると妖怪たちのパレードがスタート。九尾の狐や一つ目小僧など日本の伝統的な妖怪はもちろん、ユニコーンやイエティ、ドラキュラなど海外由来のキャラクターも数多く登場し、132mのコースを次々と練り歩いていきます。
デフォルメされた妖怪たちは、本来恐れられる存在であることを忘れさせる愛らしさにあふれており、見ているだけで心が温かくなります。妖怪の数は当初の想定よりも大幅に増え、コンポジットを担当した3年生の冨田玲生さんは当初、減らす作業に注力していましたが、メンバーの頑張りを無駄にしたくないという思いからアニメーションの速度を調整。最終的には大半の妖怪が採用され、まさに百鬼夜行といえる賑やかかつ華やかな映像を完成させることができました。
大阪で55年ぶりに開催された国際博覧会となった今回の万博。世界各国の人々が集まる貴重な機会に作品を発表することができ、学生たちは思い出とともに、これ以上ないほどの大きな学びを得ることができました。アートサイエンス学科にとってもプロジェクションマッピングの新たな可能性を追求することができ、今後の指導に反映されることが期待されます。
僕はプロジェクションマッピングを学びたいと思ってアートサイエンス学科に入学し、これまでにもあべのハルカスでの「NAKED CITY LIGHT FANTASIA」など、屋外での演習で経験を積んできました。今回の「MEGA CANVAS」もお話をいただいて、すぐに「やりたい!」と思って参加を表明。作業面ではアニメーション班でコンポジットを担当しました。作品は企画から制作まですべて自分たちで行うということで、7月初旬に行われたネイキッドのみなさんとのオンラインミーティング以降、内容についての話し合いを1ヶ月にわたって続けました。百鬼夜行というアイデアは全員で話し合ううちに固まっていったもので、世界各国の妖怪が出てくるパレードを楽しんでもらいたいと思って作っています。今回のような横に長いタイプの映像は初めてで、さまざまな点で難しさを感じました。いったん仕上がった作品も、ただ流れに乗せているだけということに気づいて、妖怪にちなんだエフェクトを加えるなど演出面を大幅に強化しています。制作期間が夏休み中だったので作業もそれぞれの自宅で行ったのですが、ネイキッドのみなさんが都度アドバイスをくださったことがたいへんありがたかったです。
今後は、在学中にもっと映像についての学びを深め、新たな表現を発信できるように頑張りたいです。卒業後はその経験を生かして広告業界で映像制作の仕事ができればと考えています。
これまでアートサイエンス学科でさまざまなプロジェクトに参加してきましたが、「MEGA CANVAS」のような世界中の方に見てもらえるようなものは初めて。参加が決まったときは、「万博会場でプロジェクションマッピングができる!」と、とても興奮しました。
私は普段、プロジェクトの中で2Dアニメーションやイラストを描くことが多く、今回の「万国百鬼夜行」でもキャラクターデザインを担当しています。また、アニメーション班の人手と製作時間が足りなかったこともあり、そちらの作業も兼任しました。キャラクターデザインについては世界の妖怪を登場させるということで、それぞれの概要を調べ、特徴を残しながら簡略化させることに苦労しました。中には資料がほとんどなく、自分の想像を織り交ぜながら創作した妖怪もあります。アニメーションでは妖怪たちが動く速さを調整するのが大変で、何度も試行錯誤を繰り返しました。完成後、現地で実際に投影されたものを見て、思い描いていた形に到達できたことと、巨大キャンバスで動く映像の迫力にとても感動しました。
卒業まで残り1年あまりとなり、在学中はできる限りたくさんのプロジェクトに参加したいと思っています。他学科とのコラボレーションなども機会があれば挑戦したいですね。将来的には、ミュージックビデオなどで自分のイラストやアニメーション表現を発信することを目標としています。