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建築学科・宮城俊作先生による特別講義 「風景のスケールを横断する感性」を開催 建築学科・宮城俊作先生による特別講義 「風景のスケールを横断する感性」を開催

建築学科 / 特別講義
2026/04/24

建築学科客員教授でランドスケープデザイナーとして数々のプロジェクトを手掛ける宮城俊作先生による特別講義が1月10日に開催されました。今回は京都と富山県・黒部の最新事例を通して、デザインとスケールとの関係性について学びました。学生にとってランドスケープデザインの最前線をランドスケープデザイナー自身から聞くことができる良い機会になりました。

建築学科では2020年より、日本を代表するランドスケープデザイナーである宮城俊作先生に客員教授として特別講義をしていただいています。宮城先生は植村直巳冒険館、平等院新宝物館、東北大学青葉山キャンパスセンタースクエア、東京ガーデンテラス紀尾井町、GINZA SIX Garden、 パッシブタウン 黒部、HOTEL THE MITSUI KYOTOなどの優れたランドスケープデザインを手がけられ、日本建築学会賞、グッドデザイン賞、土木学会デザイン賞、BELCA賞、日本造園学会賞など、多くの賞を受賞されています。


ランドスケープは風景や景観と訳され、一般的に都市、公園、庭園など自然物と人工物を調和させた空間デザインのことを指します。

ランドスケープアーキテクトは、計画地の空間デザインにとどまらず、その場特有の自然や歴史を踏まえて、創造的で付加価値のある環境を計画作成する専門家です。


今回で6回目を迎えた特別講義は、宮城先生がランドスケープデザインの現場で、どのようなスケールの視野を持ちながらプロジェクトに携わっているのかがテーマです。ケーススタディに宮城先生が直近10年で手掛けたプロジェクトの中から京都と黒部の事例を取り上げ、環境科学や歴史的背景などを踏まえたデザインアプローチが紹介されました。

京都のテーマは「盆地の山水構造を映す自己相似性」

京都盆地は内陸型の複合扇状地であり、地下水の貯水量が多く複数の水系があるなど、水が豊かな土地です。宮城先生は京都盆地の地質構造と水資源の豊かさが、京都の都市形成に大きく影響してきたことをデータなどから指摘。その基本になるのが山と水の関係だといいます。

「庭園は近代以降の言葉ですが、それまで使われていたのが山水です。景観やランドスケープの話をするときに、遠景、中景、近景という用語を使いますが、京都の場合はその中間にもそれぞれスケールがあり、それに加えて最後にマイクロスケールといわれる身体感覚でとらえられるスケールもある。この6段階の山水が色々なスケールで京都の街にあるのが大きな特徴です。」

このスケール横断的な山水構造を踏まえてランドスケープを設計した京都の2例が紹介されました。

ランドスケープのスケールを「major、major/meso、meso、meso/minor 、minor、+micro」の6段階に分類。講義ではスケールの複合例として龍安寺を取り上げました

HOTEL THE MITSUI KYOTOによるケーススタディ

現在、二条城があるエリアは「地理的に洪水の被害を受けにくく、かつ浅いところから地下水が豊富に得られる」という恵まれた土地条件から、平安時代には貴族の邸宅が集積した地。そのエリアに三井不動産が自社フラッグシップホテル第1号を建設。計画地は17世紀から三井財閥の本拠地だった場所であり、明治中期には三井家10代当主三井高棟が手掛けた油小路邸と呼ばれる屋敷と池泉回遊式庭園があった邸宅跡地です。

デザインの最大の特徴は中庭を中心にランドスケープと建築が一体化していること。

ゲストはエントランスに入ると視界が開け、吹き抜けのロビーの向こうに広大な中庭を臨みます。近代的な水景と奥に広がる日本庭園が、重心を低くとった建物とバランスよく調和。先進的でありながら伝統や歴史を感じさせる空間になっています。

「ホテルに入ってきたときのファーストインプレッションに注力しました。中庭とロビーラウンジが深く一体化する状態を作るために、ほぼ14mワンスパンの5枚のガラス建具で作るインターフェイスの部分をデザインしています。天候条件がよい日は開口部を開放すると外と内が完全に一体化します。」

また技術的な装置として地下水を利用した循環システムで、季節に応じた水質管理を工夫しています。 「このHOTEL THE MITSUI KYOTOのケースは、地下水を使った池泉式回遊庭園の再構築です。地下水は当時と比べると水位が下がっているのですが、それでも良質な水が浅い所から採れるので、うまく使うように意識しました。」

ホテル「Regent Kyoto」 琵琶湖疎水に関わるケーススタディ

左京区の南禅寺から岡崎にかけてのエリアは前述の2番目のスケール(major/meso)に相当します。「Regent Kyoto」は宮城先生がランドスケープデザインを行っている現在進行中のプロジェクトです。

作庭には琵琶湖疎水の分線から導水した水源を利用。1870~80年代に開発された琵琶湖疎水は岡崎別荘庭園群の水源として活用され、使用する水が上流から下流の庭園へと順に巡っていく複雑なネットワークを持っています。このプロジェクトで宮城先生が行ったのが庭園への導水路の再生です。

「明治から大正期に敷設された排水管経路の図面に残っておらず、実際どういう形で水が来ているのかをこちらで調べました。」

調査とリノベーションの結果、作庭に良質で豊富な量の水を使えることが明らかに。新たな庭園内では水を循環させずに琵琶湖疎水からの水をそのまま利用をし、ダイレクトに白川に流下させるか、あるいは下流の庭園にお裾分けをするという仕組み作りができ上がりました。

Regent Kyotoの庭園完成予想の資料も見せながら解説。

京都における風景の自己相似性について、         

「この2例のようにデザイナーが扱うのは大きな範囲ではありませんが、大きなスケールまですべてが繋がっています。特に京都の場合、マイクロスケールからメジャースケールまでインフラとつながっているという意識を持っています。自己相似性というのは、京都では水と緑の組み合わせが様々なスケールの入れ子状になっており、一番コアの部分に山水があるということを表しています。自然と接する機会とその豊かさを感じる機会が少なくなっている今、私はこのような水と緑の空間を様々な所に色々なスケールで作っていくことが必要だと感じています。」と述べられました。

富山県黒部市
扇状地の水系が繋ぐ風景の持続可能性

次は富山県の東部に位置する黒部です。

「黒部市は北アルプスと黒部川が作る非常に美しい扇状地。これも山と水の関係で山水なのです。京都の場合とは違って扇状地がそのまま海につながる臨海扇状地です。」

と大きなスケールで広がる山水から黒部をとらえ、北アルプスから広がる扇状地がもたらす豊かな水資源、肥沃な土地に整備された農業用水路、「あいの風」と呼ばれる夏の冷涼な季節風など黒部特有の環境条件が説明されました。

2023年からハーバード大学大学院客員教授を務める宮城先生。担当する授業でハーバードの学生たちが水系ランドスケープのレジリエンスをどうやって高めるかのデザイン提案を行い、その内容を紹介する場面がありました

「パッシブタウン 黒部」パッシブデザインの複合パッケージ

「パッシブタウン 黒部」はローカルの環境や自然をありのままに受け入れ活用する「パッシブデザイン」の方法論を組み合わせた事例です。エネルギー消費量を抑制しつつ快適に居住できるサスティナブルな住環境を、広がりを持った街区として展開しています。

「東日本大震災のあった2011年にプロジェクトが立ち上がり、電力供給がひっ迫しつつあったため、電力の使用量を減らしたいということがきっかけでした。断熱性能を高める以外にも多様なパッシブデザインの方法で、低エネルギーでも快適な住環境を作ることができると実証したいという思いから事業が始まりました」

パッシブタウン黒部第1街区は2016年に竣工。母体となるYKKグループの旧社宅跡地に、賃貸住宅や店舗、オフィス、保育園、生活支援室などが集まった全5街区が順を追って開発され、2025年に全街区が完成しています。

宮城先生はマスタープランナーとして初めから終わりまで関わりました。その過程では北東から吹いてくる夏の涼風「あいの風」をどう取り込むか、地下伏流水と農業用灌漑水路を水系施設としてどう取り込むか、人工地盤の箇所での植栽基盤をどう作るか?などこの計画地特有の環境を生かす計画がなされ、ランドスケープデザインがプロジェクトを先導しました。

建築については各街区の設計を異なる建築家が担当。第1~3街区ではローエネルギー住宅への様々なアプローチが試みられるとともに、エネルギーの消費量のデータを足かけ4年に渡り実測。その分析を第三者機関にゆだねて検証した結果、ほぼ計画通りにエネルギー消費量が抑えられていたことが分かりました。第4、5街区の後期街区ではここで得た知見を生かし、脱酸素と再生可能エネルギーによる街づくりへと発展させていきました。

パブリックスペースであるセンターコモンは外に開かれた緑地になっており、出入り制限がなく住居者以外も自由に出入り可能。農業用水路を引き入れた水路や地下水利用のクールスポットで涼感を演出するなど、水との親和性が高いデザインを行っています

風景のスケールを横断する感性とは?

講義の終盤、この2都市で行われたプロジェクトをまとめ、その意義を振り返りました。

「京都の場合は大きな山水を小さな庭園のなかに見立て、山が自然の景色を映していると感じられる日本人の意識に、ランドスケープの構成がその審美性を醸成するような案件だったと思います。一方、黒部の場合は地形と地質、水系ネットワークという環境条件を検討しランドスケープデザインが先導して設計しました。いろいろな繋がりのデザインプロセスがうまく組み合わさることによって、パッシブデザインの多様なソリューションをパッケージで展開しています。」

「実際に設計者として関わるのは(図の中央下部分)このヒューマンスケールあたりのフィールドですが、ちょっとデザインフィールドより遠いところから見てみるとか、高いところから、あるいは下から見てみるとか。そういうスケールを行き来する視点、つまりこれがスケールを横断する感性の表れであり、ランドスケープデザイナーの仕事ではとても大事なことなのではないかと思います。」と、大きなスケールの視座を持ってランドスケープデザインを行うことの重要性を強調して講義をしめくくりました。


質疑応答の時間では、今回の講義内容を発展させ「大阪や東京の場合はどう考えられるか」といったやりとりが行われたり、学生から「建築家の視点からランドスケープを考えたときに何かできることはないだろうか」と質問が投げかけられ、宮城先生から「変化が織り込まれているものであるべき」「時間に対する意識がどれくらいあるかが大事」といったヒントになる言葉が贈られるなど、建築やランドスケープを学ぶ人にとって、新たな気づきや視点を得られるような、有意義な時間になりました。

建築学科 2年生
田尻 紗愛 さん

宮城先生の「緑と言うのをやめました」という言葉が響き、ランドスケープを単なる緑化の設計で終わらせないという意味だと受け取りました。私自身、今年からランドスケープを学び始めましたが、事例を見ていくと地上に立つ「緑」のデザインが主流なのではないか?その結果、表面的な問題しか解決できていないのではないか?と感じていました。宮城先生の「緑だけではなく、そのベースにある土地を扱い、ていねいに束ねていく」という今回のお話が、自分が次の思考の段階へ進むきっかけになったと感じています。また、自分はランドスケープと建築の「間」に強い関心があるのだと改めて認識しました。デザインで過去と未来をつなぎ、次の千年に渡って変化し続ける風景を作るランドスケープと、変わらず私たちを守り続ける建築の両方に魅力を感じています。このような意識は他の領域にも応用できるものだと思います。

建築学科 3年生
武田 健志 さん

今回の講義で印象的だったのは、ハーバードの大学院で「黒部の水系ランドスケープのレジリエンスをどうやって高めるか」というデザイン提案した学生の、川の水量を調節することで土壌の堆積をおこして自然の防波堤のようなものを作るというプランです。海面上昇への解決策でしたが、想像を超えるアイデアであることと、宮城先生がその案に驚かれたというお話も興味深かったです。今回の講義では環境科学のことにも触れられていて、デザインにどのように落とし込むことができるのかを知ることができました。水域という広い規模で考えながらもミクロの設計をしなければならないことや、スケールを大切にしながらデザインを考えなければならないことなど、新たな気づきがありました。最先端で活躍されている方の考え方や苦労した点などを聞くことができて、大変勉強になりました。