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子どもたちの心に寄り添う壁画を制作 子どもたちの心に寄り添う壁画を制作

初等芸術教育学科 / 産官学連携
2026/09/25

2026年7月、初等芸術教育学科の学生たちがアートボランティアとして、大阪市立長谷川羽曳野学園の壁画制作に取り組みました。施設と子どもたちの希望に応えて、優しい色合いで動物や自然を描き、約10日間をかけて壁画が完成。子どもたちに寄り添うあたたかな空間をつくりだした学生たちは、共同制作を通じて、様々な気づきを得ていました。

児童心理治療施設の子どもたちの声を受けとめて始まった壁画制作

初等芸術教育学科では、子どもに関わる造形活動を学外でも積極的に展開しています。今回学生たちが訪れた児童心理治療施設 大阪市立長谷川羽曳野学園は、様々な背景から感情や行動に課題を抱えている子どもたちへ生活・心理・医療・教育による総合的な治療・支援を行う施設です。そして、同学科の保育実習先でもあります。「面会室や会議室として使っている部屋を、子どもたちが安心して過ごせる明るい空間にしたい」という依頼を受け、今回の壁画制作プロジェクトがスタートしました。

児童心理治療施設「大阪市立長谷川羽曳野学園」で、アートな学びと福祉の学びを生かした初等芸術教育学科ならではのアートボランティアに挑戦
多目的室「かえで」は約1か月間、壁画制作のために丸ごと開放され、学生たちがそれぞれ空き時間を縫って入れ替わりで作業を進めた

指導にあたったのは、実習指導を担当する今西康裕准教授と、造形を専門とする佐藤有紀准教授。有志の3・4年生7名が参加し、心理学の専門家の助言も参考に色調やデザインを考えました。制作初日には子どもたちとの交流が行われ、「虹がほしい」「動物がいい」「雲を描いて」といった声が、具体的なモチーフを決めるヒントになりました。

学生たちは地塗りから始め、それぞれの担当箇所を描きながら空間全体を一つの作品としてつくりあげていきました。掲げたテーマは「明るく癒される」「広くなる」「描きたくなる」の3つ。絵によって部屋が広く感じられ、子どもたち自身も絵を描きたくなるような、明るく軽やかな空間をめざしました。

下塗りをした壁面にチョークで下描きし、水性ペンキで色をのせていく
慎重に色を混ぜ、壁に塗る前に試し描き。乾くと色が微妙に変わり、パステル系のカラーの再現に苦心したそう
動物たちのシルエットの型紙を動かしながら配置を考え、デザインを決定

共同制作だからこそ生まれた、物語のある癒しの空間

壁面にはさまざまな生きものたちが登場。子ども向けのキャラクターではなく、少しリアルなタッチでありながら柔らかい色やシルエットで表現し、視線が合わないようにするなど心理的な配慮も取り入れられています。学生たちは色の変化や壁面の凹凸に苦戦しながらも、互いに相談し協力し合って制作を進めました。

制作期間はのべ10日間。学生たちが入れ替わりながら作業を進め、共同制作ならではの難しさを乗り越えていきました。途中経過は子どもたちに見せず「できてからのお楽しみ」として進められましたが、廊下などで会うたびに「今日は何描いたの?」と声をかけてくれる子どもたちの存在が、学生たちの大きな励みになりました。

優しいマットカラーと白いシルエットで生きものを描写。カメの甲羅に描いた「隠しハート」は、子どもたちへのサプライズメッセージに
全体のバランスを確認しながら作業を進める。佐藤先生と今西先生も実際に手を動かしながらサポート
明るくなった空間に仕上げの虹を描く。踏み台に乗っての高所作業は思った以上に体力が必要

完成した壁画は、複数のメンバーの表現が一つの作品としてつながり、楽しい物語が繰り広げられているような仕上がりに。お披露目の日、子どもたちは部屋に入った瞬間に表情が明るくなり、自分たちがリクエストした動物や、学生がサプライズで描いたモチーフを見つけて喜んでいたそうです。

学生たちにとっては、ふだんの制作とは異なるスケールの大きな表現に挑み、大学で学んだ造形の知識や技術を子どもたちのための環境づくりに生かせる貴重な経験となりました。今後はもう一つの部屋の壁画制作にも取り組む予定です。

最後に参加メンバーがサインと日付を書き入れ、壁画がついに完成!
制作を終えた壁面には動物たちの物語が広がり、部屋全体が明るくおだやかな空間に生まれ変わった
子どもたちは、自分の好きな動物を見つけて大喜び。絵を指さしながら「ここにもいた!」「この色かわいい!」と楽しそうに盛り上がる姿も
初等芸術教育学科 准教授
佐藤 有紀 先生

今回の壁画制作は、学生たちが「自己表現」の段階から一歩進み、「誰かのために表現する」ことを考える機会になったと思います。まず施設の希望や子どもたちの声をふまえて基本のテーマを設定。心理的な負荷を避けるための配慮も重視して、子どもたちにどう見えるかを常に意識しながら作業を進めていきました。

特に印象的だったのは、学生たちがそれぞれ違うエリアを描きながらも、全体の調和を大切にしていたことです。誰かが「ここはこうしたい」と提案すると、周りがその意図を受けとめ、空間のバランスを見ながらより良い形にしていく。そうしたやり取りの中で、協働することの意味を体感してくれたと感じます。また教育者をめざす上では、人を思い通りに動かすのではなく、一人ひとりの表現や動きを見ながら関わる姿勢が欠かせません。そうした向き合い方を学ぶ時間にもなったと思います。完成した壁画からは、物語が感じられ、音楽の気配まで伝わってくるようでした。それは、学生たち相互のつながりやこの場に対する思いが絵に表れているからではないでしょうか。

次の部屋の壁画制作は、学生たちがより主体的に、より自由に取り組めるものにしたいと考えています。大きな作品をつくること自体が貴重な体験ですし、自分の力を使って誰かのために何かをつくり、「楽しくやりきった」と感じる経験を重ねてほしいのです。生活の延長にあるアートと、子どもたちとの関わり、その両方を行き来しながら学べるのが、芸術大学にある初等芸術教育学科の強みです。こうした実践的な学びの場を、これからも大切にしていきたいと思っています。

初等芸術教育学科 3年生
増田 美音 さん

3年生になり「新しいことに挑戦したい」と思っていた時期に先生から声をかけていただいたのが、参加のきっかけです。児童心理治療施設という環境に少し緊張しましたが、子どもたちの元気な笑顔に驚きました。最初は恥ずかしがっていた子も、話しかけると一気に距離が近づき、楽しみにしてくれるみんなの期待に応えたいという気持ちで取り組みました。
制作では、先生や先輩の構想に加えて、私たち3年生もアイデアを提案。その中で、私がふだんよく描く淡い色を生かし、動物を白いシルエットで描く案が採用になりました。視線を避けるために目を描かない表現にもつながり、安心できる雰囲気づくりに貢献できたと思います。またカメの甲羅に入れた「隠しハート」を子どもたちが見つけて喜んでくれたと聞き、とてもうれしくなりました。
凹凸のある壁面は、線が途切れたり色が乗らなかったりと苦労も多く、毎回腕もパンパンになったほどです。でもみんなと相談しながら進める中で、一人では思いつかない方法や表現を発見。今まではただ好きなものを一人で描いていたけれど、「誰かのために描く」「みんなでつくる」ことに挑戦し、これまでにない達成感や充実感を味わえました。絵や音楽が好きで、いつか子どもたちに教えたいと考えている私にとって、大きな収穫です。教員だけでなく、さまざまな可能性を広げることのできる初等芸術教育学科で学んで、本当に良かったと感じています。

初等芸術教育学科 3年生
井藤 芹菜 さん

今年3月の施設実習で長谷川羽曳野学園に伺った経験から、今回の取り組みに参加しました。その時に一緒に過ごした子たちが「井藤先生!」と笑顔で話しかけてくれ、以前とはまた違う立場で関われてうれしかったです。描きたいモチーフを考えた時、最初に浮かんだのはペンギンでした。他にも木の実を音符のように並べて色の変化をつけるなど、遊び心をちりばめました。複数のメンバーが日を分けて制作するため、色味を統一する難しさはありましたが、「ここはどうしたらいいかな」「こうするともっとペンギンらしくなるかも」と話し合いながら描く時間は、とても楽しかったです。造形の授業で学んだ知識や技術も大いに役立ちました。
できあがった壁画は、みんなの力が重なって生まれた作品。子どもたちが自分でも絵を描きたくなったり、好きな絵を飾ったりして、この空間をさらに育てていってほしいです。児童心理治療施設というとあまりなじみがない方も多いかもしれませんが、実習でも感じた子どもたちの明るさや職員の方々のあたたかさを、今回あらためて実感し、次回の壁画制作にもぜひ参加したいと思いました。
初等芸術教育学科はアットホームな雰囲気の中で、造形も音楽も楽しみながら学べるのが魅力。将来は幼稚園教諭と保育士の免許を取得し、子どもたちと関わる仕事をしたいと考えています。こうした現場での活動を通じて多くのことを吸収し、夢の実現に向けて頑張りたいです。

初等芸術教育学科 4年生
鉄羅 和佳 さん

1年生の施設実習で長谷川羽曳野学園を訪れた経験があり、施設の雰囲気を知っていたことで、今回の壁画制作にも安心して参加できました。絵を描くことが好きなので、大きな壁面にのびのびと表現するのも楽しみでした。担当したのはゾウとキリンのエリアです。広い壁に描くのは初めてで、形の歪みが出るなど行き詰まることも多かったのですが、佐藤先生から「少し離れて見てみたら」と助言をいただき、視点を変えながら試行錯誤を重ねました。
児童心理治療施設では、生活環境そのものが子どもたちを支える大きな要素であることを実習で学んでいたため、壁画の主張が強くなりすぎないよう配慮しました。動物の目を閉じた表情にしたり輪郭を柔らかくしたりと様々な工夫を行い、子どもの環境に合わせた造形や遊びを考える大切さも再認識できて、とても勉強になりました。個人的には、3年前の実習で出会った子が成長した姿を見られたことも、今回参加して良かったと思うことの一つです。
卒業後は子ども園の保育教諭をめざしており、この体験を自分なりに生かしていきたいです。初等芸術教育学科には、子どもたちと実際にふれあえる機会がたくさんあります。興味を持ったことに積極的に挑戦することで、きっと充実した4年間になると思います。