卒業生インタビュー 甲斐みのり (文芸学科卒) 「<書く>ことに向いているのは、自分の好きなモノを追求したいと思える人。」

それぞれの個性を尊重する風潮が、総合芸術大学の文芸学科にはある。

プロフィール 甲斐みのり(かい・みのり)
文筆家。1976年静岡県生まれ。大阪芸術大学文芸学科卒業。旅や散歩、お菓子に手土産、クラシック建築やホテル、雑貨と暮らし。女性が好んだり憧れるモノやコトを主な題材に書籍や雑誌に執筆。「叙情あるものつくり」と「女性の永遠の憧れ」をテーマに雑貨の企画・イベントをおこなう。「Loule」(ロル)主宰。

6年間憧れ続けた文芸学科

小学生くらいの頃から本が好きで、いつか本を書く人になりたいと思っていたんです。よしもとばななさんや林真理子さんのように、一般の大学の文学部ではない、芸術系の文芸学科出身の方々がいるということを知り、文芸学科のある芸術系大学を探してみたのが志望のきっかけになりました。進路をかためたのは中一のときです。国語や作文は別として勉強が得意というタイプでもありませんでしたから、推薦入試で大阪芸大に入ろうと決めました。

私は静岡の出身ですが、子供の頃は自分の求めるものがそばになかったんです。絵や映画も見たいし、音楽も聴きたいのに、情報も周りに少なければ、好きなものについて話の合う友だちもいなくて。でも、芸術大学なら自分の見たいモノや知りたいコトがたくさん待っているのでは?と中学時代から大阪芸大の赤本を入手し、高校の頃には両親と大学見学に行ったりするなど、6年間憧れ続けて入学しました。

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映画が教科書でした

実際通ってみると、ほぼそのイメージ通りでしたね。キャンパスには自分の知りたかったことを知っている人がたくさんいて、一緒に映画館やライブに行くなど刺激し合える関係を築くことができました。映画鑑賞のサークルに入っていたのですが、そこでは文芸だけでなく映像や写真など、学科を超えた色んなジャンルの人たちに出会えたのがよかったです。それは芸術大学ならではの交流ですね。あと静岡と大阪では言葉も文化もかなり違っているのでそれも新鮮でした。まるで4年間留学したような気持ちで、とにかく楽しかったという記憶があります。

先攻したゼミでは映画評論の重政隆文先生にお世話になりました。ゼミの最初の集いは大阪の新世界界隈で行われたのですが、そこに行くまでにも、「この階段はあの映画のあのシーンに出て来てね」といったことを教えてくださったりして面白いんです。ほかの先生方もどこか自由でおおらかな部分があって、学問を堅苦しく教えるというよりも、学生にきっかけを与えるという感じの接し方でした。

大学の本屋さんで、当時出ていた「太陽」という雑誌の植草甚一さんの特集号を手に取り、衝撃を受けたのもその頃です。それまでは本を書くいうと、絵本か小説か評論みたいなものしかイメージできなかったのが、街歩きのエッセイを本にしている人がいるということを知り、自分もこういうことをやりたいなと思うようになったんです。重政先生のゼミで教えていただいたのもわりとそれに近いことで、映画のロケ地になった街に出てみるとか、その映画が撮られた年代のカルチャーにまで視野を拡げて考えるといった感覚を身につけることができました。

名刺代わりに雑貨を作り始める

でも、4年生くらいからはモヤモヤした時間を過ごしました。卒業後も研究生という名目で大学に籍は残したものの、「今後どうしよう?」と悩み、やりたいことをやるのはいまだと思って京都に引っ越したんです。かねてより京都という土地への憧れもありましたし心機一転したかったのですが、そこで友だちが関わっていたフリーペーパーに書かせてもらうようになりました。それがきっかけで「Tricoroll Books」(トリコロールブックス)という絵本の出版社を一人で運営されていた方を手伝うようになります。

その一方で、「Loule」(ロル)という雑貨のブランドを自分で立ち上げました。本を書く人になりたかったのですが、無名の自分が突然本を出版してもらえるとは思えなかったので、まずは何者かにならなきゃいけない気がして、雑貨なら作れると考えたんです。肩書きというか名刺代わりですね。ずっと好きだった竹久夢二さんが、雑貨に短歌を添えて売っていたというエピソードもヒントになり、雑貨には自分で考えた言葉をつけていました。作った雑貨やポストカードをカフェや雑貨屋さん、本屋さんに置いてもらったりしていたところ、東京のセレクトショップのバイヤーさんや出版社の方が連絡をくださるようになりました。最初は雑貨を作る人として取材をしてもらい、「実は私、文章も書きたいんです」という流れで仕事をいただけることも増えてきたんです。たくさんの人が応援してくださいました。

京都で2年間活動したのち拠点を東京に移しました。最初はフリーランスのライターさんのアシスタントをやらせていただいたのですが、出版の仕事で必要とされる様々なスキルや言葉を覚えることが楽しかったですね。卒業後6年目に「京都の本を執筆してほしい」というご依頼を受け、自分の名前で本を出版することができました。

女性の憧れをインスパイアする物語と物作りを

いまは文筆家という肩書きで、本を書く仕事をしたり「Loule」での雑貨作りを続けるかたわら、デパートの催事場からホテルの部屋等のプロデュース、カルチャースクールの講師など幅広く取り組んでいます。活動の領域が広いので、一見何をやっている人なのかわからないように思えるかもしれませんが(笑)、「自分の好きなことや憧れを世の女性たちに思い出してもらえる」ことならなんでもやってみたいと、自分の中では一貫しています。

いま改めて考えてみると、「書く」ことに向いているのは、まず自分の好きなモノやコトがあり、それを追求したいと思える人じゃないでしょうか。そのための好奇心を養ったり、好きなものの幅を広げるには、様々な分野の表現を追求している人たちとの交流ができる芸術大学は適していると思います。文芸学科の中だけで考えても、すごく歴史が好きな人もいれば歌舞伎が好きな人もいましたし、かと思えば映画や漫画を掘り下げている人がいたり、私のようにフランスのポップカルチャーに夢中になっている学生もいたりと違いがあり、好きなジャンルにオタク的にのめり込んでいる人ほど面白いとされるというか、それぞれの個性を尊重し合える風潮が文芸学科にはあった気がしています。

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