大阪芸術大学の学生たちが、4年間の集大成を披露する卒業制作展が、2022年2月13日〜20日に開催されました。期間中、キャンパス内のあちこちに創作活動に励んできた学生たちの作品が展示され、来場者を魅了。初日は学長賞や学科賞など各賞の授賞式が行われ、演奏会や舞台公演なども実施されました。
学生たちの作品で彩られた校内のレポートに加え、受賞学生たちのインタビューをお届けします。
芸術情報センターの展示ホールでは、学長賞や学科賞、ミネアポリス美術デザイン大学学長賞に輝いた優秀作品30点以上を展示。学生一人ひとりが、独自の感性と強い意思で創作に励んだ多種多様な作品が並びました。鑑賞者が手に触れ、体感できる作品も多く、制作した学生が会場で作品に込められた熱い思いを語る場面も見られました。
初代芸術学部長、鍋井克之先生を記念し、美術学科の卒業生におくられる鍋井賞を受賞した美術学科油画コース、神藤匠さんの作品「そこに在るために」は、高さ3メートル、幅2メートル以上のキャンバスに描かれたもので、美術学科と工芸学科の作品が並ぶ総合体育館の第1アリーナに展示されました。
学科設立から2回目の卒業制作展となるアートサイエンス学科は、枠にとらわれず、さまざまジャンルで表現された作品や研究の数々を30号館で披露。
総合体育館ギャラリーでは写真学科による展示が行われ、それぞれの学科の力作が各校舎に並び、多くの来場者の目を引きつけました。
また、映像学科は映画館での上映会、演奏学科は芸術劇場で公演を開催しました。
展示や公演だけでなく、オープニングセレモニーをはじめ、オリジナルグッズがもらえるスタンプラリーなど、芸術計画学科の学生たちが企画したさまざまなイベントも行われました。
■学長賞
「Archive Records (Vol.1) 2020-2021 Osaka社会情勢の変化における街の音」
アートサイエンス学科専攻4年
猪熊祐斗さん
「Archive Records」は、コロナ禍で緊急事態宣言が発令された「街中の音」をテーマに、インタラクティブ要素を絡めて作品として表したものです。具体的には、2020年4月から2021年3月までの1年間、大阪市内の梅田と難波で1カ月ごとに街中の音を録音し、その音を基に、社会の縮図をモチーフとした土台や彫刻を制作しました。通常なら賑わいを見せる街中が、緊急事態宣言下で静まりかえる状況を音や映像に残し、記録としてまとめたものを作品として紹介できればと思ったのがきっかけです。
また、卒業制作に取り組むにあたり、レコードの針を人の指に当てはめたら面白いのではないかというアイデアが生まれました。音の波を円盤に刻み込み、それを針がなぞることによって音がなるレコードの仕組みをもとに、人の指で溝をなぞることで音が再生されたら、音を聞くだけでなく、音に触れるいう体験に変わり、さらに面白い作品になるのではないかと考えました。今回の作品は、それまで1年かけて録音した街中の音とかけ合わせ、彫刻を音の波に置き換えて作成したものです。
「受賞演奏曲:F.ショパン/幻想曲ヘ短調作品49」
演奏学科 クラシック ピアノコース専攻4年
南皐太郎さん
今回、ショパンの幻想曲を選んだのは、普段指導していただいている中村勝樹先生が、ショパンのスペシャリストということで、2年生の時にショパンの大作を取り上げたことが最初のきっかけです。その後2年間でいろいろなことがあり、もう一度この曲に取り組んでみようと、卒業試験に挑みました。個人的に、この作品はすごく抽象的な曲だと思っています。形式はすごくわかりやすく、さまざまな要素が出てきて、最後に盛り上がって終わるのですが、何かを主張したり、ひとつの結末に向かったりするのではないように感じています。
私にとってショパンは、好きな作曲家であるからこそ、近寄り難いというか、好きだけど、好かれてないのかなと思うこともあり、そういうことに対して取り組んでいく時間が長かったです。先生からは、曲に対して常に誠実であることの大切さを教わりました。学長賞受賞にあたり、大学で指導してくださった中村先生をはじめ、幼少期の頃からお世話になっている地元の先生、好きなピアノを続けさせてくれている母親や家族に感謝の気持ちでいっぱいです。
■学長賞「受賞演目:『グランドホテル』公演の振り付け」
舞台芸術学科 ミュージカルコース専攻4年
辻村薫音さん
学内公演で、先生の振り付けのお手伝いをさせて頂く機会が何度かあり、それをきっかけに、今回、学長賞をいただいた演目「グランドホテル」公演の際、立候補して振り付けを担当しました。私にとってミュージカル作品の振り付けをするのは初めてのことで、新しい挑戦でした。
「グランドホテル」は1920年代のドイツ・ベルリンを舞台に、高級ホテルを訪れた人々が繰り広げる様々な人生模様が描かれた作品で、時代背景がしっかりとしているため、その部分を意識し、独自の感性を取り入れつつ、ダンス班のメンバー3人と共に試行錯誤しながら観客の印象に残るような振り付けに取り組みました。演出や衣装、照明、音響などを担当する他のスタッフやダンサーと協力し、意見を出し合いながら、そして楽しみながらひとつの舞台を作り上げ、今回の受賞につながったことをうれしく思います。今回、振り付けを任せていただき、たくさんのことを学ぶことができました。卒業後は、ひとりの演者としていろいろな舞台に立ち、振付師の方々の言葉を吸収しながら独自の表現方法を身につけていきたいです。
■鍋井賞
「そこに在るために」
美術学科 油画コース専攻4年
神藤匠さん
「そこに在るために」は、大理石彫刻「サモトラニケのニケ」を描いているのですが、それ自身を描くことを目的に題材を選んだわけではなく、対象となる一点をモチーフに卒業制作に取り組むにあたり、見上げるほどの大きさのものをキャンバス上で表現したいという思いから生まれました。ただ、そこにある“存在”に、今の自分がどれくらい立ち向かえるのかを確かめるために描きました。
油画をはじめたのは、大学に入学してからです。油画コースを専攻したのは、自分にとって「美術といえば絵画で、絵画といえば油画」で、油画は重厚感があり、重みがあるという単純な理由からでした。
在学中、油画制作をしながら鉛筆デッサンの修練も続けていましたが、自分は悩むタイプで、3年生の時まで制作において苦悩しました。そんな中「自分が表現したいことをやり遂げてみてはどうか」という、周りの人からの助言を受け、卒業制作では、誰も取り組んだことがないような大きいサイズのキャンバスに、一点モチーフを描くことを決心。それまでは行動力がないことがコンプレックスでしたが、恩師と呼べる森井宏青先生や、髙田光治先生と出会い、考え、思い悩む前に行動することの大切さを学び、実戦することができました。