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N.Y.を拠点に活躍する現代美術作家、中山誠弥氏が「JAPAN WALLS 2024」に参画 N.Y.を拠点に活躍する現代美術作家、中山誠弥氏が「JAPAN WALLS 2024」に参画

美術学科
2024/12/03

ハワイのオアフ島カカアコ地区でスタートした「WORLD WIDE WALLS」は、アーティストによる壁画で街を元気にするストリートアートプロジェクト。このムーブメントはアメリカ本土や日本、台湾など世界12のエリアへと広がり、日本での開催は今年で9回目。ハワイ・ワイキキビーチの姉妹浜<白良浜>を有する和歌山県白浜町を舞台に、10月21日〜26日の6日間、「JAPAN WALLS 2024 in SHIRAHAMA」が開催されました。今回は世界のアートカルチャーシーンを牽引する10名のアーティストが集結。その1人に選ばれたのが、大阪芸術大学美術学科の卒業生、中山誠弥(まさや)さん。現在はN.Y.のブルックリンを拠点に、現代美術作家として活躍する中山さんが、大阪芸術大学グループが運営する塚本学院白浜研修センターの外壁に若者へのエールを込めた作品を描きあげました。

『GO YOUR OWN WAY』は現代を生きる若者へのメッセージ

中山さんのキャンバスになったのは、大阪芸術大学グループが運営する塚本学院白浜研修センターのエントランスに位置するブロック塀。自ら真っ白に塗り直した外壁に描かれた下絵の中で、ひときわ目を引くのは、スペース中央に描かれた『GO YOUR OWN WAY』という力強い文字。中山さんは、筆を動かしながら「今の日本は、本当の自分を生きていくことが難しいような気がします。レールを踏み外さないよう、ひとり孤立してしまわないよう、常に周りにあわせてばかり。同調圧力で息苦しさを感じている現代の若者たちへのメッセージとして選んだ言葉が『GO YOUR OWN WAY』−自分自身の道を進め』です。コンポジションもこの言葉を中心に組み立てました」と今作品のコンセプトを話してくれました。

研修や合宿施設はもちろん、レジャーやゼミ旅行など多目的で利用できる塚本学院白浜研修センター
「寛容で優しい社会の実現に、少しでも貢献できるアーティスト活動を続けていきたい」と話す中山さん
作品のコアとなる『GO YOUR OWN WAY』は、少しレトロなニュアンスのアートカラーで強調

想定外のロケーションにも即応できる経験値と発想力

中山さんはこれまでミューラル(壁画)の経験は数多くあるものの、極端に横が長く、向かって左側はゆるやかなアールがついた外壁という今回の場所は、想定外だったといいます。というのも、「JAPAN WALLS 2023」で同じく塚本学院白浜研修センターの建物東側外壁にウォールアートを手掛けた松本セイジさんとは旧知の仲。N.Y.で偶然出会い、お互いの個性にシンパシーを感じ、『コペルズ』というアートユニットを組むまでの間柄に。松本さんの作品も当然目にしていたので、参加が決まってからはフラットな壁面を想定したデザインを考えていたからです。とはいえ、そこはオフィスや飲食店、ストリートなど、さまざまな場所で作品を手掛けてきた中山さんのこと。早々にロケーションにあわせた別プランを発想し、臨んだそうです。

2021年から合計25組、2024年は10名の作品が加わり、白浜町の新たな観光資源として親しまれているミューラルアート
子どもたちの為に”立ち上げたアーティストコレクティブ「コペルズ」でも活動を共にする中山さん(右)と松本さん(左)
クラフトビールのパイオニア「Brooklyn Brewery」のオフィスの壁に手掛けた中山さんの作品

顔をモチーフにした象形は中山さんのアイコニック

コアとなる『GO YOUR OWN WAY』の両側には、顔をモチーフにした象形が大胆に配置されています。このアイコンは他の作品にも多く登場する中山さんのシグニチャーのような存在。「この顔のイメージは、ずっと前から自分の中にあったもの。それこそ教科書の隅に描いていた落書きとか。今のスタイルになってからは、描きたいもの、やりたいことがいっぱいで、アイデアに困ることはないんです」と苦笑する中山さんは、大阪芸大では日本画を専攻していました。2012年に渡米してからも「N.Y.で日本画やれば面白いんじゃないかと考えて」当初は日本画を描いていたそう。しかし、言葉の問題もあって、鳴かず飛ばずの年月が流れました。転機となったのは、2019年に手掛けた日本でも有名なビールメーカー『Brooklyn Brewery』でのミューラル。実は、その少し前に作風を大転換、今のスタイルにたどり着いたといいます。

本質に向き合うための時間を印象的な白い線で表現した作風

中山さんの代表的な作品は、一見すると、ダイナミックに絵具をのせたキャンバスの上から白い線画を描いたように見えます。ところが、白い線画は支持体の素地そのもの。実際には、最初に支持体の上にマスキングテープを貼り、最終的に“線”として残る部分を除き、余分な部分を刃物でカットしているのだとか。その上からペインティングをして、渇く前に一気にテープを剥がすというプロセスを踏んでいます。「僕らが学生の頃は、写真をなぞって絵を描くことはタブーとされていました。でも、今やiPadで写真をなぞる表現手段は当たり前の世の中。もちろん、そのやり方自体を否定するつもりはないんですが、“タイパ”や“コスパ”などの言葉が表すように、時短こそが美徳とされ過ぎている気がして…。ボクの今のスタイルは、簡単にできる工程を、あえて複雑にアナログ化して時間をかけている。時代の先入観によってかき消されたものを本質的な“線”として、最後に抽出していくイメージなんです」と中山さん。作風そのものが、一元的な時代の風潮へのアンチテーゼとなっています。

支持体の素地を大切にする中山さんは、白浜入りしてまずは外壁すべてを真っ白に塗り直したそうです
塚本学院白浜研修センターは、ビーチ沿いの浜通りから1本東側の道路に位置。イベントの見学客が制作中の中山さんに声をかける場面も
SHIRAHAMA KEY TERRACE HOTEL SEAMOREでの「SQUARE SPACES」にも小品を展示

その時代に欠けたピースを埋めるアーティスト活動を続けていきたい

そんな作風や今回の作品に込めたメッセージをはじめ、中山さんの作品は社会的な問題を表現したものが多く、とりわけ若者や子どもを取り巻く環境に連なるテーマが際立ちます。その背景には、渡米する前の3年間、公立中学で美術教員として勤務していた経験が影響しています。「日本でやった展覧会にかつての教え子が来てくれたこともあって、子どもたちに何かを返したいという思いは、ずっとどこかにあるんです。今の日本は、失敗を絶対に許さない社会ですよね。さっきの極端に時短を美化する風潮もそう、白黒はっきりつけて少数派は切り捨てる。そんな寛容性のない社会で、生き辛さを感じている若者が増えているような気がします。アーティストとしてのできることは、その時代時代にちょっと欠けているなと思ったピースを埋めていく作品づくりです」と力を込める中山さん。“子どもたちの為に”をミッションとした『コペルズ』での活動や、日本に避難してきたウクライナの子どもたちにダイナミック・ペインティングを経験してもらうワークショップなどのアートイベントにも精力的に取り組んでいます。

美術教師としての3年間の経験などさまざまな人との出会いが道を開く

大阪芸大在学中の中山さんは、「絵を描いて生きていきたい」と思う一方で、「絶対自分にはムリだ」と自分の気持ちに気づかないふりをしていたそうです。だからこそ、一度は安定した美術教師という道を選択しましたが、29歳の時に一念発起して渡米。その理由を「中学3年生の担任をしたことがあって、進路相談などで夢の大切さを生徒に話すわけですよ。夢を封印した自分が何を言ってるんだ?と自分を見つめ直したのがきっかけです。渡米する決心を後押ししてくれたのも、教師時代の同僚。『Brooklyn Brewery』のスタッフとの出会いもしかり、今の自分はさまざまな人との関わりによって形作られました。今回の『JAPAN WALLS』でも、夜は今回集まった他のアーティストと存分に語り合うチャンスがあって、刺激にもなるし、とにかくすばらしい時間を過ごしています」と人との交流の大切さを語ってくれました。

6日間の期間中、2日程雨にみまわれた今回の「JAPAN WALLS」。期間内での仕上げを心配したそうですが、無事にやり遂げられました
気さくで親しみやすい性格の中山さん。帰国を聞きつけて、アーティスト仲間が会いにくるなど、幅広いネットワークを持っています

「JAPAN WALLS」ならではの異質な2つの作品が織りなす風景が誕生

中山さんは6日間という限られた日程の中で、少しレトロなニュアンスの赤、黄、緑、青で強調した『GO YOUR OWN WAY』の左右に特徴的なアイコンを配置し、自ら塗装した横長の外壁をフルに使った作品を完成させました。正面から見ると、建物東壁には同志の松本さんが昨年手掛けたねずみのANDYが。異質な2つの作品が、ひとつの風景として同居する「JAPAN WALLS」ならではのインプレッシブな佇まいが登場しました。

現在はニューヨークを拠点に日本でも活動の幅を広げる中山さんは、仕事のオファーの95%をインスタグラムで受けているそうです。「アーティストとして活動するためには、やはり誰かに見つけてもらう、認めてもらうことが必要です。以前のニューヨークでは、そのための最低限のツールが公式ホームページであり、スタジオでしたが、今はインターネットという身近な手段があります。アーティストを夢見る在学生の方たちは、その環境を存分に利用して、とにかく続けてほしいですね」と最後に学生へのメッセージをいただきました。

2024年に中山さんが手掛けた『GO YOUR OWN WAY』と2023年の松本さんの作品『ねずみのANDY』が同居する印象的な風景

中山誠弥

1983年、大阪府生まれ。

大阪芸術大学美術学科卒業。大阪の公立中学校で美術教員として勤務した後、2012年に渡米。 2019年、クラフトビールのパイオニア「Brooklyn Brewery」のミューラルを手掛けたことで、一躍注目を浴び、現在はブルックリンを拠点にコンテンポラリーアーティストとして活動。

国内外のギャラリーや美術館、アートフェアで作品を発表するほか、企業のグッズやノベルティのデザイン、社屋やオフィスのミューラル、タイアップイベントでのライブペインティングなど幅広いジャンルで活躍。

“子どもたちの為に”をテーマに掲げたアーティストコレクティブ「コペルズ」のメンバーでもある。


◆中山誠弥 Instagram

https://www.instagram.com/msynkyma/


◆中山誠弥 オフィシャルサイト

https://www.masayanakayama.com/