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舞台芸術学科学外公演 「朝が来るまで 夏の夜の夢」 舞台芸術学科学外公演 「朝が来るまで 夏の夜の夢」

舞台芸術学科
2023/05/02

2023年3月11日・12日に、舞台芸術学科の学外公演「朝が来るまで 夏の夜の夢」が、大阪市中央区のCOOL JAPAN PARK OSAKA TTホール、17日に香川県高松市のレクザムホール小ホールにて行われました。

シェイクスピアの恋愛喜劇を原作に、歌やダンスを交えてコロナ禍での学生たちの奮闘を表現。出演者はもちろん、舞台美術や照明、音響なども同学科で各分野を専門に学ぶ学生たちが担当し、エネルギッシュな舞台を創りあげました。

コロナ禍での学生の姿をシェイクスピア劇に重ねて表現

様々なステージを生み出し続ける舞台芸術学科では、本格的な設備を誇る「大阪芸術大学 芸術劇場」等での学内公演とともに、学外での特別公演も継続的に実施。外部の劇場というよりプロの現場に近い環境で、実践的な学びと舞台経験を重ね、舞台人としての成長につなげています。

舞台裏を見せる場面から、シェイクスピアの世界へ。現実と夢がリンクして、観客を惹き込んでいく
妖精と人間が織りなす恋愛喜劇。男女4人の恋人たちによるコミカルなシーンや激しい動きも

コロナ禍を経て約3年ぶりの学外公演となった「朝が来るまで 夏の夜の夢」は、シェイクスピアの「夏の夜の夢」が原作。黒死病(ペスト)が蔓延した暗い時代に、閉鎖されていた劇場の再開を祝ったかのような作品です。これを基に、劇中劇の形でコロナ禍に直撃された学生たちのリアルな姿を描写。コロナの影響で公演が中止になって、学生たちが舞台を解体するシーンからストーリーが始まり、新たな夢の実現に向けて一歩踏み出す姿まで、学生たちの奮闘と成長を描いています。

登場人物の「妖精」とコロナの「陽性」を掛けたセリフや、森の木々を反転させるといかにも大道具らしく見える舞台セットなど、「夢」と「現実」が交錯。コントのような掛け合いで笑いを誘い、シェイクスピア劇ならではのドラマティックなセリフで心を揺さぶり、迫力あふれる歌やダンスで観客を惹き込んでいきます。出演者たちは走って跳んでとステージいっぱいに駆け回り、舞台にかける情熱をストレートに表現しました。

俳優やダンサーから、美術や照明、音響など舞台を支えるスタッフまで、全7コースで各分野の専門的な能力を育成する舞台芸術学科。今回の作品ではそれぞれのコースの3年生有志が中心となり、4年生も参加しました。約1か月という短い期間で集中して作品を仕上げたこともあり、充実感もひときわ。大阪と香川での計4回の公演では、いずれも大勢の観客からあたたかい拍手が贈られ、終演後はキャストもスタッフも達成感に満ちあふれた笑顔を浮かべていました。

総合監修を務めた舞台芸術学科長の浜畑賢吉教授がフィナーレでサプライズ登場。会場もいちだんと盛り上がった。
舞台芸術学科 教授(演出)
山本 健翔 先生

今回の学外公演で中心になった3年生は、入学時からコロナ禍に見舞われました。彼らが初めてオンラインで受講したのが、私の「舞台芸術概論」という授業。そこで題材にしたシェイクスピアの「夏の夜の夢」が、本学卒業生でもある阪上洋光先生によるオリジナル脚本で、今の時代に彼らでなければできない作品になりました。「感染・伝染」と聞くとあまり良いイメージはないかもしれませんが、「感じて染まる・伝えて染める」ことこそまさに私たちの仕事。感染や伝染と相性がいい舞台芸術の醍醐味を、夢と現実の交錯する世界を、学生たちはしっかりと創造してくれたと思います。
歌もダンスも多い2時間の作品を約1カ月で仕上げるのは、プロでも珍しいことです。本公演は「やりたい」という強い意志を持った有志による授業外の活動で、春休み返上のスケジュールでしたが、それだけに学生たちの熱意は素晴らしく、特に劇場入り以降の成長はめざましかったですね。作品や自分自身と真摯に向き合ったからこそ、自発的なウォーミングアップなど取り組む姿勢も変化。出演者のみならず、舞台美術や衣装、音響、照明などの分野でも、一流の先生方が公演体制の中でプロとしての本気を伝え、学生たちもそれに応えて頑張り抜きました。通常の授業ではなかなか難しい部分まで到達でき、我々教員にとっても、新たな学びの可能性を見出す有意義な時間になりました。
舞台芸術では、自分の弱い部分やつらい記憶もそのまま役に立ち、コンプレックスはいわば魅力の源泉。本作では、コロナ禍での学生たちの経験をそのまま反映し、また難聴という個性をもつダンサーと彼をサポートする友人の関係性が演出のモチーフともなっています。そんな点にも注目してほしいですね。夢を形にするためには、まず現実を知って、その厳しさとしっかり向き合ことが大切。そこから夢をかなえる力が鍛えられます。真の意味での「夢見る力」を養うベースをつくるのが舞台芸術学科の意義であり、この作品は、学科のメッセージそのものなのです。

舞台芸術学科 教授(作曲・編曲)
中村 康治 先生

「夏の夜の夢」は10年前にも学外公演を行った作品で、当時も作曲・編曲は私が担当しました。シェイクスピアの時代に重なる今の状況下でなら、よりメッセージを明確に表現できると考え、劇中曲はほぼ変えずに使用。音楽を通じてテーマ性がより強く「感染・伝染」し、不穏な社会においても人が力強く生きる姿勢を伝えることができたと思います。現在ブロードウェイで活躍するミュージカル俳優の岩井麻純さんは、10年前に妖精の女王役で出演した卒業生なのですが、この公演のことを知って、「当時の歌を覚えています」とリモートで歌ってくれました。同じ作品を演じた先輩が舞台の本場で輝いている姿は、学生たちにとっても刺激と励みになったことでしょう。
今回大阪公演で使用した「TTホール」は、演劇向けの劇場で、セリフが明瞭に聴こえるぶん歌の響きは控えめなのが特徴です。劇場入り直後はとまどっていた出演者たちも、その中で最大限のパフォーマンスをめざして調整。音響スタッフも、一人ひとりの声の個性をしっかりと把握し、演出意図を理解した上で音を表現しました。キャストもスタッフもそれぞれに現場で成長し、相互の信頼関係の大切さをあらためて実感できたのも、学外公演を通じた学びの一つと言えます。
今回は私たち以外にも、音楽監督の村井幹子先生、振付の栗原めぐみ先生など各コースの教員が指導にあたっています。演技・歌・ダンスと教えるジャンルは違っても、実は学生たちに伝えたいことは同じ。何か一つの要点を理解できれば他のことも一気にわかり、演じること、舞台をつくることが本当の意味で楽しくなるのです。舞台芸術学科の合同舞台演出ならではの教育を、今回の作品で実践することができ、学生たちにも大きな学びを得てもらえたと思います。

舞台芸術学科 ポピュラーダンスコース 3年生
石原 颯馬 さん

9歳から始めたダンスに熱中して本学へ。私は生まれつき難聴ですが、それはコンプレックスとして隠したいものではなく、個性として表現にいかし、手話ダンスなども行っています。口の動きで言葉を読むため、入学後はコロナ禍によるマスク使用やリモート授業で苦労したものの、先生方や友人たち、大学側の様々なサポートのおかげで、安心して学べるようになりました。
今回私が演じたのは、ロビン・グッドフェローといういたずら好きの妖精。物語を動かすトリックスター的な役で、他の登場人物とは別の世界で生きています。ダンスばかりで演技は未経験の自分にできるのかと最初は不安でしたが、「音が聞こえにくい自分も、他の人とは違う世界に生きている」とロビンとの共通点を発見。自分らしく演じればいいと気づいたんです。ソロ部分の振付は自分で考え、役のキャラクターを大切にしながらも、自由にのびのびと踊りました。一人だけで長時間踊るのは、私にとって恐怖であり挑戦でしたが、この舞台をやり抜いたことが大きな自信に。全員で一緒に作品をつくることで、協調性も高まったと思います。
舞台芸術に関わる人が集まるこの学科では、舞台に関する幅広い情報にふれられ、日々新しい発見があってワクワクします。将来は世界を巡り、色々な国の舞台に立って踊ってみたい。そして、聞こえる人と聞こえない人の間にある壁を壊すことが夢ですね。これから舞台の世界をめざそうと考えている人には、「自分自身を大切に、自分の人生は自分で決めて下さい」と伝えたいです。

舞台芸術学科 演技演出コース 3年生
織部 芽生 さん

この作品では小さな生き物の化身である9人の妖精が登場します。私はその中の一人「蝮の目玉の精」役で出演しました。3年間ずっと演技を中心に学んできたのですが、今回は歌とダンスが満載。たくさん練習が必要で、悩んだり苦しんだりしながらも、稽古の間じゅうずっと楽しかったです。役作りや動きを自分たち自身であれこれと考え、ダンスやミュージカルを専攻する仲間にアドバイスしてもらうなど、より良いものをつくるために意見を出し合って、精一杯頑張りました。本番ではさらにテンションが高まり、みんなが気持ちを一つにして全力投球。お客様から予想以上に大きく温かい拍手をいただくことができ、本当にかけがえのない経験になりました。
私は「ノートテイカー」として、今回ロビン役を務めた石原颯馬さんをサポートしています。声が聞こえにくい彼のために授業の内容をスマホに入力し、文字で通訳。慣れるまで大変でしたが、だんだんとコミュニケーションを取るのが楽しくなり、やりがいを感じるようになりました。今回の舞台の演出は、そうしたエピソードがモデルになっています。自分たちの体験が作品に表現されると知って驚きましたが、とても嬉しかったですね。1年生の時に山本先生の授業で学んだ「夏の夜の夢」を、3年生の今、自分たちの等身大の物語として演じることができて感慨深いです。
4年生になると卒業制作で忙しくなりますが、その合間に舞台をたくさん見て、もっともっと勉強したい。卒業してからも舞台にずっと関わっていきたいと思っています。

舞台芸術学科 舞台美術コース 3年生
堀江 愛梨 さん

私は舞台セットのデザインを担当しました。この作品は、幻想的な森を主な舞台にしながら、舞台裏や裏方スタッフにもスポットが当たる物語。以前に森で見た朝露に光る木々の様子をヒントにしたり、ギリシャ風の柱を上部から吊り下げて上下させたりと、自分の体験や好きな世界観をいかし、アイデアを凝らしてデザインしました。舞台デザイナーとして主軸で動いたのも初体験。大道具を発注する外部の業者さんに製作意図をどう伝えるか悩んだり、体力的にしんどい思いをしたりもしましたが、デザイナーの仕事の流れを体感でき、やりがいは大きかったです。他のスタッフや出演者の意見も聞きながら自分のやりたいことを形にしていく過程は、とても勉強になりました。
平面で描いた図面が、初めて実寸で立体になった時は、「おおっ」と感動。照明が当たるとさらに美しく、表情も変わって、先生に教わった「舞台セットは本番の間だけ生きている」という言葉を実感しました。舞台は色々な要素の「掛け算」で、この場・この瞬間のために全員が力を合わせ、一人ではできないものが出来上がっていく。そんな舞台づくりが大好きです。
私が舞台美術コースを選んだのは、高校の演劇科で舞台製作を経験したのがきっかけ。本学では第一線で活躍するプロの先生方から直接学ぶことができ、何よりも、同じものを愛し同じ目標をもつ友人と出会うことができました。励まし合い、時には厳しい意見を言い合って、ともに成長していける仲間は、私の一番の財産。これからもこの世界で、一緒に頑張っていきたいです。