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「音」を遊ぼう!【高田耕至】 「音」を遊ぼう!【高田耕至】

音楽学科
2021/10/25

社会を変えはじめている、「音」に関わる新潮流に注目だ。

たとえば、劇場空間ではテクノロジーを駆使したアート表現と音楽が共鳴する。たとえば、音が都市環境を新しくするインスタレーションに人々が心を委ねる。メディアの音や音楽は、その作り方やビジネス的価値観が大きなうねりをあげ、AIの作曲家が誕生し、ゲームやSNSから生まれる音楽がヒットチャート席巻することも増えてきた。いま「音」が面白いのだ。聴覚のアート「音楽」の表現領域がどんどん変化し、驚くほど進化している。アートそのものをリードし、メディアやビジネスシーン、日常さえ変えはじめている。O Plus Vol.6では、その第一線の声を聞いた。


Photo: Yasunari Kurosawa

Text: Takashi Watanabe

メデイアの音楽にこそ未来がある
「音」の価値と多様性
その変化が刺激的だ

テレビから流れる軽快かつ壮麗な調べは、夜の報道番組のオープニング曲。小気味よいジングルによって切り替わっていくニューストピックス。ほどなくパワフルなロック調の曲と共にスポーツコーナーが始まった。現在、テレビやネットをはじめとするメディアコンテンツは、実に多様な音・音楽に彩られている。


高田耕至氏は、レコード業界での作編曲やプロデュースの傍ら、30年にわたり、放送メディアのニュース報道番組などへの楽曲提供に取り組んできた。この音楽市場では、高度なセンスを要する“俯瞰する音楽”が求められるという。


「ドラマや映画での音楽は、ストーリーや登場人物の喜怒哀楽を一歩リードして視聴者の感情を揺さぶるもの。それに対し、ニュースや報道では音楽は常にニュートラルな位置で存在しなくてはならない。観る側の感情を揺らすことなく、客観的な判断や意見を持ってもらうための音楽。作曲家として、この感覚を掴むまでには苦労しましたね」。


映像メディアには、音響デザイナーや音響効果エンジニアが不可欠。彼らの存在によって、高田氏は自身の音楽と社会や時代との間に接点が生まれ、作曲家としての存在理由を自問できると話す。


「クライアントのニーズに応え、社会に寄り添う音楽を提供できた達成感は大きい。一方、音響デザイナーや音響効果の方々が、楽曲を作った私本人が思いもしなかった映像コンテンツへのマッチングや、音楽が入るタイミングひとつで、コンテンツ映像の魅力を何倍にも大きくしてくれることも。音楽単体では表現できない他分野とのコラボが生み出す予想を超えた面白さが、そこにあるんです」。


メディアを取り巻く環境の変化によって、メディアに関わる音の価値も変わっている。


アメリカの音楽ビジネスは2017年に、CDの「コピービジネス」から「アクセス権ビジネス」に完全移行した。日本の音楽市場も1998年に約6,000億円あったが、2014年に市場は以前の1/4に縮小。その後回復傾向にあるが、収益比率が大きく変わった。今や音楽著作権の分配額は、CDやコンサートの著作権収入よりも、放送やインタラクティブ配信の使用料が上回る。高田氏は音楽ビジネスのヒエラルキーに劇的な変化が起きたと指摘する。


「以前は、レコード会社におけるアーティストを中心としたビジネスモデルが頂点にありました。しかし今や放送通信インフラによる音楽著作権収入が、フィジカルつまりCDなど実物があるメディアの収益を超え、サブスクリプションと並ぶ音楽著作権及び著作隣接権(実演家やレコード製作者、放送事業者など著作物の伝達に重要な役割を果たした者に与えられる権利)ビジネスのメインとなっているのです。放送通信メディアの音楽は、実は音楽ビジネスにおいて、今、最も熱い分野と言って間違いないでしょう」


その音づくりにも新しい潮流が生まれている。AIの台頭はやはりメディア音楽の制作現場でも顕著だ。アートの世界において、AIは人間の創造性を脅かすものという見方も根強いが、高田氏はAIの進化を不可逆的な文明の発展として冷静に捉えている。


「ある映像に音響デザイナーが音楽をつけるとしましょう。これまでは、ある程度“予定調和”の中から音楽を選んできたわけですが、AIなら人間が絶対に選ばない音楽を選択し、それが映像に見事にはまって、想像を超えた効果を生み出すことも、私はあり得ると思っています。もしそんな事実に直面したら、人間には従来とは違う角度で音楽にふれる感性が必然的に芽生えるはず。AIはなぜその音楽を選んだのかを人間側が学習するようになるんです。このパラダイムシフトは、人間の感性や創造性が一次元高いフェーズに切り替わるきっかけになるのではないかと期待しています」。


この約3年、ミキシングやマスタリング作業用のOzoneやNeutronといったソフトを使う際、それらに組み込まれたAI補助機能が、高田氏の音楽制作にもはや欠かせないものとなった。AIは自分の意図を汲み取り、膨大な選択肢を絞り込んで的確な音質補正、強弱法などの準備と設定を自動で行ってくれる優秀なアシスタントそのものだと話す。


「AIは人間のコンペティター(競争相手)となるのか?それともコラボレーター? アシスタント? その結果は、人間次第。どれにも該当しない受動的スタンスでは、AIのスレーブ(奴隷)となるでしょう。2045年時点でIQが4,000を超えると言われるAI。急速に進化するAIを活用していくには、今後の10年、20年、30年の進化の歩幅、スピードを肌感覚で意識することが大切。劇的な変化を“今が一番面白い!”と楽しむ。その前向きな姿勢が音楽の道で生き残るカギだと思っています」。

●高田耕至(たかた こうじ)

作曲家、音楽プロデューサー。ソウルエミッション代表取締役、元ビクターミュージックアーツプロデューサー。大阪芸術大学音楽学科長/大阪芸術大学音楽学科卒業後、30年以上に渡り、レコード、音楽出版、プロダクション、放送などあらゆる分野の音楽制作に携わる。2003年、音楽ユニットVitarise(ビタライズ)でデビュー。TBS「スーパーサッカー」、フジテレビ「F1グランプリ~Truth~RESONANCE-T MIX」、NHK総合テレビ「NHK海外ネットワーク」など放送通信メディア向けの各種テーマ曲も多数制作。