本サイトはInternet Explorerには対応しておりません。Chrome または Edge などのブラウザでご覧ください。
Topics

世界を知る5人はこう考える。
アートサイエンスって何だ!?
世界を知る5人はこう考える。アートサイエンスって何だ!?

アートサイエンス学科 / その他
2021/06/11

アートとサイエンスの領域をまたぐからこそ、アートサイエンスが包括する範囲はとても広い。そこでまずは「アートサイエンスとは?」について世界を知る5人に尋ねてみた。


撮影:篠田 工(go relax E more)photographs:SHINODA TAKUMI

アートサイエンスの定義はまだこれから


そもそもアートとサイエンスは、それぞれに多様な領域をカバーしている。


アートに関していえば、メディアアート、現代アート、ポップアートなど細かなジャンルがあるし、サイエンスも自然科学、人文科学、社会科学など複数領域にわかれている。だから、アートとサイエンスのカテゴリーがそれぞれに影響して成り立つ「アートサイエンス」という新領域は、その表現の多様性からこれというものを定義するのが難しい。


そこでここでは、特集の本編をはじめる前に、世界を知る5人に「今、アートサイエンスとは?」をテーマに話を聞いてみた。それぞれにとって、アートサイエンスはどのようなものなのだろうか。

【バイオアーティスト 福原志保】
アートとサイエンスがつながる場所が必要だった

© Martin Holtkamp

「巨人の肩の上」という言葉があります。先人の積み重ねてきた知見の上で、人々は新しい発見をしていくという意味があるのですが、そうした蓄積を続けながらひとつの答えを見つけるのがサイエンティスト。それに対して自らで問いを立て、さまざまな答えを出すのがアーティストだと思います。


これまで日本では、文系と理系という無意味なわけ方によってアートとサイエンスが分断されていたと思います。だから、それぞれがつながる場所がお互いにずっと必要でした。それができる場所が生まれるのはとても意味のあることです。


ただ、成果を大学内で留めておくのはもったいないので、積極的に学外へ情報を発信していくべきだし、学内でも公開授業やセミナーを率先して開催してほしいと思います。とくに今は、最先端の研究とメディアが世間に紹介するものに大きな乖離があるので、少しでも多くの人にアートやサイエンスに関する最新の情報が伝わることを期待しています。


●ふくはら・しほ アーティストグループBCL主宰。2001年ロンドンのセントラル・セント・マーチンズのファインアート学士課程を第1級優等学位の成績で卒業後、2003年ロイヤル・カレッジ・オブ・アートのデザイン・インタラクションズ修士課程を終了。現在は、バイオテクノロジーの研究を続けながらアートの可能性を拡張している。


福原志保氏をもっと知りたい方はこちら


【実業家 林千晶】
さまざまな領域を横断しながら
人間が解明していない神秘に挑む

これまで日本は、デザインやエンジニアリングの力で大きく成長してきました。しかし、それも限界が近づいていると感じます。とくにこれからの時代は、データや計算を扱う分野では人工知能に太刀打ちできなくなると聞きます。


そうした時代において、人間にしかできないことは何かを考えたときに、アートとサイエンスが重要なキーワードになると感じました。人間には人工知能にはない知恵があり、問いを生み出す力があるからです。


私たちが住む世界は、まだまだ神秘的なことであふれています。宇宙の話にしても、地球があって、太陽系があって、銀河があって、その先には別の宇宙があるかもしれないといいます。そうした人間がまだ足を踏み入れていない領域について想像を巡らせ、歴史や人文学、哲学などを踏まえながら考えていく。それがアートサイエンスだと思います。


●はやし・ちあき 株式会社ロフトワーク共同創業者・代表取締役。早稲田大学商学部、ボストン大学大学院ジャーナリズム学科卒。花王を経て、2000年にロフトワークを起業。MIT Media Lab所長補佐、グッドデザイン審査委員なども務める。


林千晶氏をもっと知りたい方はこちら


【博士 ドミニク・チェン】
アートサイエンスの時代は
多様性が認められた理想的な社会になる

© 新津保 建秀

社会を生態学的に考えたときに、単一のものだけで構成された環境は非常に脆弱です。そこで重要なのが多様性ですが、これを多くの人が受け入れるようになるには長期的な思考が欠かせません。しかし、社会はまだ短期的に結果を求める傾向にあります。このバランスを正す可能性を持っているのがアートサイエンスではないでしょうか。


なぜなら、アートもサイエンスもいつ結果が出るかわからない分野だからです。たとえば、アーティストは死後に評価されることがあります。また、科学の基礎研究では、実際に成果が出るのは5年後かもしれないし、100年後かもしれない。けれども、世界の真理を解き明かし、人間がさらに進歩するためには欠かすことのできないものです。


そうした長期的な視点で考えなければいけないものに人々が価値を見いだせるようになれば、多様性を認められるようになり、理想的な環境が生まれるはずです。


●どみにく・ちぇん 早稲田大学文学学術院・准教授、NPOクリエイティブ・コモンズ・ジャパン理事、株式会社ディヴィデュアル共同創業者。主な著書に『電脳のレリギオ』(NTT出版)、訳書に『ウェルビーイングの設計論』(BNN新社)。松岡正剛との共著『謎床』(晶文社)。


ドミニク・チェン氏をもっと知りたい方はこちら


【メディアアーティスト 市原えつこ】
原点回帰のようなことが
今になって起こっているのかも

もちろんアートとサイエンスという分野があることは知っていますが、それが分断したものという認識はあまり持っていないので、あらためてそれをひとつにすることが不思議な感覚です。スケッチにはサイエンス的な側面があるし、解剖図にもアートを感じるので、どちらにもそれぞれの要素は含まれていると思うんですよね。


それこそレオナルド・ダ・ヴィンチの時代はアートもサイエンスも分断されたものではなかったはずですし。今になって原点回帰のようなことが起きているのかもしれません。


でも、多くの物事は何らかの形でつながりを持っているので、アートサイエンスに限らずさまざまな分野で接続を発見するとおもしろいと思います。


●いちはら・えつこ 早稲田大学文化構想学部卒業。日本的な文化・習慣・信仰を独自の観点で読み解き、テクノロジーを用いて新しい切り口を示す作品を制作する。2016年には総務省異能vation(独創的な人特別枠)に採択。17年『デジタルシャーマン・プロジェクト』で第20回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門優秀賞を受賞。

『デシタル シャーマン プロジェクト』 故人の人格などをロボットに憑依させる弔いの形を提案

【キュレーター 畠中実】
アートやサイエンスの文脈に
なかったものを見つけてほしい

これまでアートやサイエンスの文脈で扱われてこなかったものに触発されながら、新たなものを発見し、互いの領域を浸透させていく行為、それがアートサイエンスではないでしょうか。


それは、今の段階ではアートともサイエンスとも呼ばれないかもしれません。異端とみなされることもあるでしょう。しかし、科学が仮説からさまざまな発見をしてきた歴史から考えると、未知の物事に率先してアプローチしていく姿勢こそが、これまでアートともサイエンスともみなされなかった新しい領域を切り開くのだと思います。


りんごが木から落ちたとか、地球がどんな形をしているか、ということから何かあると感じ取れなければ新しい世界の捉え方はできませんでした。世界を発展させるのは想像力です。既存の知識に当てはめて考えるのではなく、新しいものを感じ取り、想像力によってアートやサイエンスの常識とされていた限界を打ち破ってほしいと思います。


●はたなか・みのる 1996年の開館準備よりICCに携わる。ダムタイプ、明和電機、ローリー・アンダーソン、八谷和彦、ライゾマティクス、磯崎新、大友良英、ジョン・ウッド&ポール・ハリソンといった作家の個展企画も行っている。


畠中実氏をもっと知りたい方はこちら