本サイトはInternet Explorerには対応しておりません。Chrome または Edge などのブラウザでご覧ください。
Topics

第10回大阪芸大 Art lab.「印象派・光の系譜」展がテーマの特別美術セミナー 第10回大阪芸大 Art lab.「印象派・光の系譜」展がテーマの特別美術セミナー

美術学科 / イベント
2022/06/01

「大阪芸大Art lab.」は、美術館の展覧会と連動してワークショップを行う特別美術セミナーとして開催し、第10回は、モネやルノワールなど日本でも人気の高い印象派の展覧会がテーマ。美術学科の学生と約30名の高校生が、“光”を主題にした作品制作に取り組みました。

通常とは逆のユニークな技法で“光”の描写に挑戦

今回のセミナーは、あべのハルカス美術館で2022年1月~4月に開催された展覧会「イスラエル博物館所蔵 印象派・光の系譜―モネ、ルノワール、ゴッホ、ゴーガン」に合わせて、3月12・20・21日の3日間にわたって実施。参加した学生たちは、展覧会を鑑賞後、あべのハルカス内の大阪芸術大学スカイキャンパスで、「光の系譜」という展覧会名にちなんだユニークな課題に挑みました。


1日目は、閉館時間後のあべのハルカス美術館を貸切って展覧会を鑑賞。入館に先立ち、同館学芸員の新谷式子さんによるギャラリートークが行われ、印象派が生まれた歴史や展覧会の見どころなどが紹介されました。

この展覧会は69点の出品作のうち59点が日本初公開となる稀少な内容。学生たちはテーマ別に構成された会場内を自由に行き来して、細かいタッチまでじっくりと観察したり、美術学科教員の解説を聴いたりしながら、多様な“光”を捉えた名画の数々に見入りました。

学芸員によるギャラリートーク
美術館を貸し切っての作品鑑賞
真剣にメモを取る高校生たち

2日目と3日目の作品制作のために用意されたのは、真っ黒に塗りつぶされたキャンバス。白い紙に色を載せるのではなく、綿棒と布で色を拭い取って“光”を描写し静物を描くという、いつもとは真逆の工程にチャレンジしました。

教員から印象派に関するレクチャーや、個別の丁寧なアドバイスも受けながら、次第にコツをつかんで制作に集中。合間に再び展覧会場を訪れて作品を鑑賞することもでき、イメージがさらにふくらみます。

慣れない綿棒で慎重に拭き取りながら描いていく
中川佳宜先生ら教員が一人ひとりに描き方をアドバイス

最後に、仕上げた作品を一堂に並べての合評会が行われました。サプライズ企画で、若手作家として活躍する美術学科卒業生が来場し、教員・卒業生がそれぞれ好きな作品を選んで、描き手に自身の作品をプレゼント。展覧会を主催した産経新聞社の担当者からも、図録やチケットが贈られました。

それぞれの作品に対するコメントの後に、教員陣から今後の制作につながるメッセージが。「本物をたくさん見て触発されよう」「自分ではやらない技法や表現にあえて挑戦すると、作品の幅も広がる」「自分の絵を他人の目で客観的に見ることが大切」などの言葉に、参加者は深くうなずいていました。


参加した高校生たちからは「初めての技法でとても楽しかった」「同じ道具でも個性的な表現ができて面白い」「今までと違う目線で作品鑑賞ができ、これから描く絵にもいかせそう」など意欲的な感想を聞くことができ、会場は最後まで熱気に包まれました。

教員や卒業生たちが作品をじっくりと審査
教員による総評。今後に向けた激励の言葉が贈られた
産経新聞社の担当者からは講評後に展覧会図録の贈呈も
高校生へのエールを込めて、卒業生から作品をプレゼント
美術学科 特任教授
中川 佳宣 先生

この特別美術セミナーは、展覧会場で本物の名画を実際に見て、なおかつその近くで制作を行うというもの。通常の授業では体験することのできない、まさに生きた絵画の見方、生きた実習です。コロナ禍で約3年ぶりに開催された今セミナーでは特に、皆で一緒に作品を鑑賞し、創作についてともに考え、対面で作品制作を直接指導できることの意義深さを感じました。

今回取り入れた技法は、暗闇の中から光を見つけモチーフを掘り起こしていく、いわば「引き算のデッサン」。色を使ってヴァルール(色価)を探り、トーンを調整することにも通じる学びです。初めて体験する人ばかりだったと思いますが、仲間と一緒に手法を模索し、人のやり方も観察して柔軟に取り入れてみるのは大切なこと。そうして経験値を高めていくことが、自分の表現の追求につながります。

展覧会では注目ポイントとして、当時では画期的な表現に挑んだピサロの功績などもレクチャーしました。複製や画集ではなく、本物を鑑賞して過去の作家と対話し、先人たちが見たものや考えたことを追体験する。そのような学びの中で、絵画の歴史や技法への理解も深まったのではないでしょうか。
高校生と大学生、そして現役アーティストでもある卒業生が互いに交流できたのも、それぞれにとって良い刺激になったと思います。この経験をこれからの制作にも大いに生かしてほしいですね。

美術学科 4年生
木内 美穂 さん

私が大阪芸術大学 美術学科に進学したのは、高校生の時にこの特別美術セミナーに参加したのがきっかけです。あべのハルカス美術館で「マティスとルオー展」を鑑賞後、マティス派とルオー派に分かれて作品を制作し、お互いに手紙を交換するというワークショップを体験。とてもわくわくする体験で、絵を描くことの魅力に目覚め、本格的に美術を学びたいと思うようになりました。
今回初挑戦した、黒いキャンバスに光を描くという取り組みはとても新鮮でした。自分だけの表現を探そうと、綿の部分を取った綿棒で描くなどして工夫するのも楽しかったです。展覧会の鑑賞方法から表現の探究まで一歩も二歩も踏み込んで掘り下げられるこのセミナーは、やはり特別なものだと感じました。
卒業後は中学校の美術教員になる私にとって、制作しながら高校生とふれあえたのも有意義でした。教壇に立ったら、この技法を取り入れた授業もやってみたいですね。絵の描き方に正解はない、間違ってもいいから自分らしさを自由に表現すればいい。今回あらためて感じた絵の楽しさを、次の世代に伝えていきたいと思います。

美術学科 3年生
南田 崚 さん

展覧会で作品を鑑賞して、感じたことを画面に反映させる――いつもの制作とは違う絵作りを意識したこのワークショップは、とても勉強になりました。
今回の展覧会は、いきいきとした色づかいからエネルギーを感じる作品が多く、興味深い内容でした。特に鮮やかな点描で水辺の風景を描いたシニャックの作品は、色味を重視する自分にとって大きなヒントに。それをモノクロの世界に置き換え、「色を消していく」というアプローチで作品を制作することで、新しい発見があり、表現の引き出しが一つ増えたように思います。
高校生と一緒に制作したのは初めてですが、みんな楽しみながらもしっかりと集中して制作に取り組む姿に感心しました。こちらがアドバイスする場面もあったものの、自分とは違う視点や発想に気づくなど、逆に得たものも多かったです。
将来は芸大での学びをいかせる形で一般企業への就職を考えていますが、作品制作はずっと続けていくつもりです。まずは卒業制作で、自分の力のすべてを結集した納得のいく作品を完成させることが目標です。